その25 ナッカスに助けを求めるハガノミヤ
「お嬢様、昼御飯の時間ですよ」
「はーい。今行きます」
「私も行きますわね」
「うげっ、またか」
「うげっなんて、教育上良くありませんわね。それに愛する娘になんてことを言うのですか? 傷つきました、お母様に言いますよ」
「くそっ! さっさと席に着け。取り分けるぞ!」
2人の掛け合いに頬がゆるむ私。レモングラスさんとバージルのいつものやり取りだ。
レモングラスさん達との昼食の後、彼女と一緒に庭の薔薇の蕾を減らしていた。花を大きくする為には間引きが必要なのだ。その蕾を加工してローズオイルを作り、彼女にもお裾分けをすることにした。
作業をしていると小猫達も足元にやって来た。もう大人と同じ大きさまで大きく成長した。
飼い主を探していたのだが、バージルが希望する環境の家がなく、暫くはこのまま男爵邸で飼うことになったのだ。
バージルは楽しげにしているし、子猫? もう猫で良いかな? 猫達は、幸せそうに庭を走り回っている。
礼儀作法の学習は一通り終了し、今はダンスの練習と歴史を学んでいる。なかなかに興味深い歴史の授業だが、時々部屋で復習しているとエルフ達がこの歴史は人間に都合良く書かれているねと囁くような駄目出しが入る。
良く勝った者勝ち、言った者勝ちと聞くが、寿命の長いエルフは誤魔化せないと思う。時代の生き証人からの実話はわくわくで、比較的楽しく学べている。
客室から邸に出る許可は出しているので、バージルも受け入れてくれている。
人間が苦手なエルフ達も、バージルは嫌いじゃないらしい。バージルは嘘はつかないし、言い回しも直球なのが良いのだろう。女神の眷属のグレースが懐いているのもポイントが高いようだ。
そんな感じで暢気に暮らしているマーリンだが、そこに予期せぬ来客が来た。
ハガノミヤ・アクネージ伯爵だ。
エルフ国で世界樹の売買を行っていた人物で、他貴族と横領を行い前国王ナッカスと敵対して人物だ。男爵邸にいるエルフ達は、客室の中にある空間魔法の部屋に逃げ込んだ。一先ずナッカスとクロームも部屋へと戻る。
人間に変装したハガノミヤは外玄関のベルを鳴らし、バージルが出てくるのを静かに待っていた。
そしてバージルに言うのだ。
「国王ナッカス様にお会いしたいのです。横領を働いて来た私が、こんなことを言うのはとんだ恥を晒すことだと自覚しています。ですが娘が、世界樹が枯れた責任を取らされて連れて行かれたのです。借金のカタとして。
エルフ国の債権は1人の人間が買い取りました。その人間に連れ去られたのです。ですが生け贄のように娘が、人間なんかの愛人にされてしまいました。私は何でもしますから、娘を助けて欲しいのです。お願いします」
そこにナッカスの姿はないが、ハガノミヤは断定していた。ナッカスはここにおり、様子を窺っていると。
その思惑は当たり、ナッカスは話の内容を盗聴魔法で聞いていた。だがその場に姿は現さない。
また来ますと言い、ハガノミヤは去って行く。
ナッカスは思案顔でクロームに呟く。
「この短時間で、世界樹が枯れるなんて可能か?」
「魔力を注いで入れば、こんな短期間では枯れたりしないでしょうね。あれは本来強い樹です」
「だよねえ。じゃあ、残ったエルフ達は1人も魔力を注がなかったのかな? 担当者のハガノミヤさえも」
「残念ながら、そうかと」
「自業自得だよね。…………でもさ、若いエルフを人間の生け贄なんてゾッとするね。殺しちゃいそう」
「まあ落ち着いてください、ナッカス様。私だとて腹立たしいです。それに現国王は何をしていたんでしょう?」
「世界樹の担当者だからと言って、人間の言うままに娘をの愛人にされたと言っていた。確かお前と、同じくらいの年齢だったよな、名前は………」
「ジュリアですよ。気位の高い女性でした。よく人間を殺さないでいるものです」
「それな。エルフ国にいる者は、魔法を封印されたらしい。」
「まさか! では………」
「今のジュリアは人間よりより弱いな」
「そんな、魔力がないなら彼女は!」
「穢されただろうな。間違いなく」
「くっ。その人間は誰ですか?」
「さあ? そこまでは言ってなかったな。明日また来るそうだぞ」
クロームは執務室にいるバージルに駆け寄った。
「アクネージ伯爵はどこですか? 場所は聞いていますか?」
興奮気味のクロームに、バージルは聞いていないと首を横に振る。
「だが、怪しいので、尾行させてる。もうすぐ帰って来るだろうから、待て」
その言葉にクロームは唸る。
そこに女神の眷属グレースが、2階の窓から飛び込んで来た。
「ただいまバージル。伯爵は町外れのあばら屋にいたわ。ジュリアはアルカネット侯爵邸ね」
酷く蒼い顔のクロームは、グレースに詰め寄る。
「私を連れて行ってくれませんか? お願いします」
「まあ、待て。まずは事情を知らねばならんだろう。明日を待つんじゃ」
「……はい、そうですよね」
肩を落とし、部屋を出ていくクローム。
「面倒くさいことになりそうだな」
バージルのその予感は、当たることになるのだった。




