その22 エルフ国の世界樹が枯れた
その日、エルフ国に衝撃きが起こった。
「世界樹の木が枯れかけている」
幹の直径が東京ドームくらいある世界樹の葉が、紅葉のように赤くなってパラパラと音を立てて地面に落ちていく。
それは平民達が暮らす場所からも見える悲惨な光景だった。
「世界樹が枯れた。もうこの国は終わりだ」
「何故? こんなことに」
「不吉じゃ、不吉じゃ」
「やっぱり今の王では駄目なのよ。ナッカス様じゃないと」
死者の甦生以外は可能と呼ばれる世界樹は、全国から定期契約を受けて売却していた。国の木なのに、管理する貴族アクネージ伯爵が売却金を多額に横領し、その横領分を派閥の高位貴族達と分けあっていた。もう何百年も。ナッカスの祖父が亡くなってからは、ことさらに顕著だった。
だが魔力を注ぐという重大管理を怠った世界樹は、魔力が足りず枯れた。まだ完全ではなく、所謂冬眠状態だったが。本来世界樹が冬眠することはなく、今回がレアケースだ。
きちんと取り扱いを書いて貰っていたのに。
困ったのはアクネージ伯爵だ。
定期契約が破棄されれば、違約金が発生する。元々高額の取引なので、莫大な金額になっていた。
「助けて下さい。ギガンティース様、アモンビラス様。私の部署に、違約金をし払える予算はありません。どうか国費で!」
押し寄せる買い付け人に恐れをなしたアクネージ伯爵は助けを求めるものの、国王らが応じることはなかった。
「樹の管理を怠ったお主が悪い」
「そうだな。今まで見逃してきた横領金で何とかしろ。我々がせっかく見逃して来たのだからな」
「そんな、酷い。違約金がどのくらいになるか知ってる筈なのに………。ああ、俺はおしまいだ」
仲間を見捨てるギガンティースとアモンビラス。
各国から来た担当者達が世界樹が手に入らず、混乱でごった返す中に一人の商人が現れた。
「その違約金は私共の商会が支払いましょう。勿論条件次第ですが。くふふっ」
黒いフードを目深に被った怪しい風体と禍々しく漏れだす魔力に、アクネージ伯爵は震え上がる。だがギガンティースはそれを承諾した。
「それは本当か? これは国家の危機なのだ。是非にお願いするよ」
条件も聞かずに応じる愚かな国王に、その場にいるエルフ達は顔を曇らせた。
「ええ、宜しいですとも。言質は記録しましたよ。では、各国の皆さん。世界樹は枯れ、取り引きは出来なくなりました。違約金をお支払致します。お受け取り下さい」
そう言うとフードの男は、空間魔法から金貨の入った箱を100は取り出し支払いを開始した。
買い付けに来た商人達は、さんざん文句を言った後にお金を受けとると去って行った。合計にしてざっと一億金貨以上だ。国王はそれをどう回収する気なのだろう?
「それでは約束通り、純血のエルフを貰い受けますね。奴隷として」
「な、なんだと。それはあまりにも権利に反するものだぞ!」
「「「「そうだ、そうだ!!!!」」」」
「ふふっ。エルフはもっと老獪かと思いました。口だけで攻撃して来ないのですから、なんてあっけない。ではお先に、この国の者に魔力封じの呪文を唱えましょう」
そう言うと上空に大きな膜ができ、次第に降りてくる膜はエルフ達の体に纏わりついた。
「はい、完了」
「な、どうなったんだ!」
「それでは、また後日に伺います。生きていてくださいね」
そしてフードの男は空間に消えて行った。
僅かの間にに起きた出来事で、軍務大臣の部下達が攻撃も成されぬまま怪しい男は去って行き、その場に残るエルフ達は愕然とした。
そしてポツリと声が聞こえた。
「この国に張られた結界が消えた。それに俺の魔法も使えなくなってる」
「ああ、何で? これじゃあ、森の猛獣達が襲いかかって来るぞ」
「軍務大臣は武器があるんだろ? 前線に立って私達を守ってくれるんでしょ?」
「煩い、しがみつくな。汚らしい」
「な、なんてことを。私達を守れ! それが貴方の仕事だろう?」
「「「「そうだ、そうだ!!!」」」」
イライラするアモンビラスと、不安が隠せない表情のギガンティース。他の高位貴族達は戦々恐々と様子を窺っていた。
(ああ。国王がアホなばかりに。そもそも何故世界樹が枯れたのだ? 寿命か? いや、そんな兆候はなかった筈だが?)
結界が消えたエルフ国の住民は、引きこもったり他国へ逃げた。市井にいるエルフ達には、今の国の上層部に従う義理はない。みんな彼らの傲慢さや悪事を知っているのだ。
現国王達の栄華は、既に消えたのだ。




