その21 世界樹の苗木
ちょっと重複部分があります。ナッカスの気持ちが主になっています。
「すっかりエルフのみなさんは、男爵領に馴染みましたね」
「そうだね。良いところだしね」
「本当に。こんなに緑が多くて空気が澄んでいる場所は珍しいですよ」
「だが、ナッカス。貴殿は大丈夫なのか? 変身魔法が使えないエルフ全員に、魔法をかけるなんて。相当な疲労が伴うだろう?」
「ああ。それなら大丈夫さ。今までは毎日、大きな世界樹に魔力を吸われていたからね。それに比べれば何にも疲れないよ」
「そうか。なら良いが。無理はするなよ」
「うん。ありがとう、バージル」
ナッカスは国王の時、側近達と共に毎朝保有する魔力の半分を世界樹に注いで、樹の活動を維持していた。しかしその魔力が満たされた良質な葉や枝は、昔からその素材を扱う貴族が売却し、多くの金銭を着服するようになっていた。
いろいろな場面で横領が罷り通り、指摘しても派閥で庇いあい罰することも出来ないでいた。そればかりか民の税金さえも上前をはねることが横行し出した。
反混血派の勢力が強くなり、現王族が地を統べることに限界を感じていた。
そんな時に、マーリンの元に来たナッカス達だった。
当然のように平民エルフ達も住みにくくなり、変身魔法が使える者は率先して他国に移住していく。特に混血児の多くは他国に流れていった。それはナッカスの祖父ボランチェが亡くなった頃のことだ。強い攻撃魔法の使い手だった祖父が居ないことで、年若いナッカスは舐められていた。どんなに懸命に尽くしても、狡猾な反混血派は逆らって来るばかりだった。
それならもう、信頼する者と共に国を出よう。
エルフの王国には、ナッカスと敵対する者だけを置いて来たのだ。
◇◇◇
そもそもエルフは人間とは違い、自然と暮らす生活をしていた民族だ。長寿で魔力はあるが、腕力は弱いのだ。それに魔力がきれると人間にも負けるくらいだ。
狡猾な民族が弱点を突き、村を襲ってエルフ達を奴隷にした歴史から、城を作り金銭を得て戦力の強化をして来た。
けれどもう、人間のように一部の欲望を満たす為の国ならば、誰かが我慢ばかりするならば、この場所で安らぐことはないのだ。
そもそもエルフは治癒魔法を使えて、空気中の魔素を吸い込めば食料さえなくても生きていける。弱点は弱さだ。保護を見込める場所があればもう、祖国に拘る必要もない。
エルフ国の重鎮達が眠る静謐な場所は、誰も立ち入れないように保護もした。だからもう、勝手にすれば良いと思うナッカスだ。
◇◇◇
ここに来たエルフ達は、既に腹を括った。彼らは意見の異なる同胞に見切りをつけた。苦難があっても前を向いて生きる為に。
この男爵領は老人が多かった。若い者は王都や華やかな町に出稼ぎに行ったからだ。賃金が低い畑仕事しかないので、それも仕方がないことではあったが。
それは逆にエルフ達には幸運であった。
暫く暮らしてやっていけそうならば、ここで農作業をしながら安住しようと考えていた。領民が少ないから移住者は大歓迎される。
農村部だけならば老人達と共存し、何れは寿命によりエルフ達がこの地を掌握するかもしれない。その時は孤児達をここで育てながら、また共存を目指そう。エルフ国のように独裁になることがないように。
長く若いままなら不振に思われるから、40才くらいになったらマーリンの邸で時間を過ごし(時々観光客として外出したり、夜は森を散歩したりし)、20年くらいしたらまた村に戻ることにしよう。
なんてことを考えていたナッカス。
幸いにしてマーリンもエルフと人間の混血だから、500年くらいの寿命がある。子供が出来たり養子を貰ったりしながら、長く当主を続けて欲しいと願ってもいる。
マーリンとは相談していない、ナッカスの未来予想図だ。クロームさえ知らなかった。
ただクロームは、ナッカスが世界樹の苗木を森に植えたことで、エルフ国に戻らないのだろうか? と一抹の不安を覚えていた。




