表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
華麗なる、家令  作者: ねこまんまときみどりのことり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/41

その20 市井でお世話になった人達

 「マーリン、久しぶりだね。顔もふっくらとして元気そうじゃないか?」


「お母さん!マーリン様って呼ばないと駄目よ。もう次期女男爵様になる方なのだから」

「だって。マーリンはマーリンだよ。可愛いグレースの子だもの。私の娘同然だ。マーリン様なんて、他人行儀な………」



マーリンに挨拶をして来たのは、隣に住んでいてグレースとマーリンの面倒を見てくれた、ミシェルとタリア母子だ。2人とも若くして夫と父を亡くしていたが、代々続く八百屋を継いで生計を立てていた。村には商店も少なく、みんながその店にお世話になっていた。


そんな彼女達が保護していたのがグレースとマーリンだったから、村に受け入れられるのも早かった。いや、受け入れられなければ、とうにここには居なかっただろう。人間として暮らすには何もかも足りないグレースに、1から教えてくれたのがミシェルだった。


(こんなに何も知らないなんて、きっと何処かの良いとこのお嬢様だったんだろうね。だってとっても美しいもの。私が姉として守ってあげるからね)

その誓いも虚しく、男爵にグレースを拐われた時は泣き濡れた。平民の女性には逆らえる力はなかったから。

「ああ、グレース、グレースが!」

「止めるんだ、ミシェル。あんたにはタリアがいるだろう」

「だって、だって。私の妹が、グレースがっ、あぁ、うわあぁ、酷いよぉ」

最後まで引き止めようとしていたミシェルと、それを止めた村人達は、全員苦しい思いをした。だって彼らもグレースのことが大好きになっていたから。


そうこうしているうちに、グレースは再び村に戻って来た。グレースの妊娠が分かったのはその数か月後だった。それからは母子共々、ミシェル達と暮らして来たのだ。グレースが亡くなり男爵に引き取られ、ずっと心配していた2人。男爵が夜逃げしたのは知ったのも、ずいぶんと後だった。貴族の家に会いに行くことは出来なかったから。

その後彼女達はバージルが、家出をして親元を離れたグレースの遠い親戚だと説明されていた。ミシェルは「やっぱりお嬢様だったのね」と納得したのだった。


ミシェル達とマーリンには、こんな経緯があったのだ。




「良いのですよ、今まで通りで。ミシェルさんとタリアさんは、私のもう1人のお母さんとお姉ちゃんですから。私も様なんて付けられると辛いです」


「ああっ、マーリン。お母さんと呼んでくれるんだね」

「マーリンったら、嬉しいよぉ」


抱きしめ合う3人に、護衛とばかりに付いてきたナッカスとクロームは微笑んだ。今日バージルは国王リンデンに呼び出され、登城していたのだ。


「俺は忙しいのに。辞めたやつを呼び出すなんて、他に人が居ないのか? 迷惑な!」

怒るバージルだが、何だかんだ言って行ってあげる程度には面倒見が良い。その間に(マーリン)の護衛を、事もあろうかナッカスとクロームに頼んだのだ。


「お前ら暇だろ? マーリンを頼んだぞ!」

「OK、OK! まっかせて、バージル。私の妹のことは必ず守るからさ」

「ご安心下さい、バージル様。私もおりますので」


ナッカスは手をヒラヒラと振って、クロームは敬礼をしてバージルを送り出した。


「行ってらっしゃい、気をつけてね」

「勿論です、お嬢様。なるべく早期に戻ります。では」


後ろ髪をひかれるように、バージルは転移魔法で姿を消した。


「心配症だね、バージルは」

「本当にお世話になっています。バージルは恩人なんです」

「そうだね。彼は良い奴だ」



そうあの時。

1人で借金取りの押し寄せる男爵家に残された瞬間、もう自分の人生は終わるのだと思った。死んだ方が良いと思える地獄に、落とされるのだと諦めていた。


バージルだけだ。

助けの手を差し伸べてくれたのは。

今がどんなに恵まれていたとしても、忘れることなどあり得ない。


バージルが居なければ、自分はここに存在していなかった。ずっと下を見て絶望のまま暮らした筈だ。

だからマーリンは思うのだ。


(バージルを助ける為なら、命を差し出せる)


マーリンの状況は変わっても、思いが変わることはないのだ。



ナッカスはそれを見て思う。

(良い人に巡り会えたのだね。良かったよ。人間も捨てたものじゃないようだ)

なんて考えているが、バージルのことはとっくに気に入っているし、人間と触れあうことでそれを実感しつつあった。


(人間もエルフも、良い奴も悪い奴もいる。種族など違っても、それは不変のようだね)


ナッカスの嬉しげな様子にクロームも相貌を崩す。今日も良い天気だ。


その後は視察を兼ねて領地を散歩するマーリン達。あちこちから声をかけられ微笑むのだった。


マーリンが(殆どバージルだが)男爵家の領地経営をするようになってから、高かった税金は適正にされかなり減額されていたから、領民の暮らしは楽になっていた。みんな元気に暮らしているようだ。



山林まで来た時、ナッカスがマーリンに声をかけた。


「なあ、マーリン。ここに1本だけ木を植えて良いかい?」

マーリンはすぐに頷く。


「何本植えても良いよ。木がたくさんあると森に住む動物や木こりさんも喜ぶから」

「ありがとう。心から感謝するよ」


そう言って、懐から苗木を取り出したナッカス。


「それは!」

クロームが声を出す前に、しーっと言って唇に人指し指を当てるナッカス。驚く筈だ。だってそれは世界樹の苗木なのだから。


そんなことを知らないマーリンは、いつも通り暢気に村人とお喋りしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ