その18 ナッカスとエルフ達が、男爵家に来た
「私は君に会いに来ただけなんだ。グレースのすることは、いつもむちゃくちゃだからね。彼女が亡くなって、人間との間に生まれた君のことを知り、君が困っていないか心配していたんだ」
そう言って笑うナッカスは、バージルの入れたお茶を飲んで、ほぉーと息を吐いた。
「1000人以上の兄弟姉妹がいると言っても、グレースが生んだ純血のエルフは30人。妖精や精霊達は別として、ドワーフや獣人、堕天使なんかとの混血は短い寿命の方に引っ張られる。だいたいは寿命は、グレースと相手の寿命を足して2で割る感じだな。だから一番の長寿であるエルフ以外との子は、エルフほど長く生きられないんだ。逆に短命の種族は大幅に寿命が長くなる。だから残念だけど、兄弟姉妹全員には会うことは叶わないんだ。半数はもう亡くなっているからね。
よくエルフが不老長寿の薬を持っているなんて言うけど、実際はこの状態が誤解されて広まったと思うよ」
ナッカスはマーリンの顔を時々見つめて、「美味しいね、これ」なんて言いながら、お菓子を摘まみながら話しをしている。特に秘密なことはないと言うように。
対して言われたマーリンは驚きの連続だ。給仕の為に隣で立つバージルも初耳のようで、時々目を瞬かせている。
当時のエルフ国の人口減少問題は深刻だったようで、もしグレースが子をたくさん産まなければ、妊娠可能な女性を国で管理し強制的に産ませることも考えられていたそうだ。
ただそう進言する大臣達は、娘や親族から犠牲になる女性を出すことは拒んでおり、他に押し付けようとする無責任さだった。それは高位の立場になるほど発言力や権力を持つからだった。
先々代国王は思った。そんなことをするくらいなら、ゆっくり衰退を迎えようではないかと。犠牲の上に成り立つ国はいらない。元々祖先は、自然と共に生きてきたのだからと。
そう思う国王とは裏腹に、重鎮達は選択を迫られていた。
(子供や孫達が苦しむ国にはしたくない。これから、どうしたものか?)
ここまで国を大きくし、いろんな組織編成をしたことで、戦力も大きくなり攻められなくなったのだ。高位に立つ者の選民性は頂けないが、国の滅びは他種族に蹂躙されることを意味する。
エルフは老化が遅く見目美しい種族だ。魔法も使え長寿であることで、過去に捕らえられ奴隷のように権利を奪われ続けた黒歴史がある。英雄的に強いエルフが生まれここまでの国になったが、平和になったことで人口減少には加速がかかっていたが。
そもそも長寿過ぎて研究に夢中になれる環境は、愛欲に割く時間や育児にかける時間を惜しんでしまうようで、積極的につがう者は稀なのだ。それでも過去の過ちを繰り返さないように、優遇処置を受けながら政略結婚を行い、その優遇で力をつけたのがエルフ国の貴族だった。
それ故に国王達は貴族に子を望むが、優遇を受け続けて来た貴族はその義務を忘れ権利を多く主張し始める。そんな愚かな状態がつい最近まであったのだ。
さすがに今は何百年に1人は子を産むことを、貴族や平民に関わらず目指すようになった。子を産むことで受けられる優遇処置は今も続いている。
そんなエルフ国でも王位を狙う貴族もいるのだから、何処まで行っても争いはなくならないのだ。
ナッカスの得意能力は、幻術と大規模な空間魔法だ。いざとなれば、国民の避難場所を作ることも可能だ。最悪時は守りたい者をだけを連れて、国を出ることも考えていた。
そんな時にグレースの死で、マーリンのことを知ったのだ。手の者に調査させると不遇に過ごしていたことも分かった。
何も能力のない哀れな子供。
それが最初に思ったことだ。
だけどそれでも、逞しく生きていたマーリン。それもバージルに出会うまでは、冷たい環境にただ1人で。
(逞しい。そして美しい妹よ)
当たり障りない話しをして、眷属猫のグレースを膝に乗せて愛でるナッカスに、その場もだんだん和んでいく。
「ねえ、マーリン。私は国王を降りようと思うんだ。もし辞めたら、ここに暫く住んでも良いだろうか?」
微笑みながらの突然の発言にマーリンとバージルは驚くが、ナッカスの瞳は据わっていた。少し国から距離を取り、経過を見たいことがあるから協力して欲しいと言うのだ。
バージルはマーリンを見て頷く。決めるのは彼女だと言うように。
「分かりました。事情があるのですね。部屋もありますし、ここに住むのは大歓迎ですよ」
「ありがとう、マーリン。さすがだよ、私の妹は優しいな」
そう言って抱きつくナッカスは、幸せそうに大きな声で喜んだ後、側近のクロームもよろしくねと付け足していた。まあもう、1人も2人も同じと引き受けたマーリン。
数日後バージルと相談していたナッカスは、 “病による退位”をした後にバージルの迎えで男爵邸に訪れた。最初はナッカスとクロームだけのはずだったのに、邸に訪れたのはバージルやクロームの家族とその側近達、総勢500名だった。
ぞろぞろ、ぞろぞろ、ぞろぞろ…………。
「「「「お世話になります。よろしくお願いいたします」」」」
大挙してマーリンに礼をするエルフ達は、美しい笑顔で輝いていた。
「え、ええ。な、ナッカスさん。これはどうなっているのですか?」
「ああ、家族達のことは気にしないで。私の空間魔法でいくらでも部屋は作れるから。私とクロームの部屋だけ貸して貰えれば、後は何とかするよ。よろしくね」
国王の圧に、頷くしかなかったマーリン。バージルは「まだまだですね、お嬢様」と、呟いていた。確かに住むのは2人だろうけど、空間魔法の部屋に大勢のエルフが住むなんて。
「まあ、良いじゃないマーリン。大勢の方が楽しいわ」
グレースの声に気が抜ける。まあ来てしまったなら、もうしょうがない。
「そうね。まあ、良いわよね」
マーリンはグレースを体ごと抱きしめて匂いを嗅ぎ、考えることを止めたのだった。




