その17 ナッカス国王、オレット男爵へ
そんな訳で約束の日。
バージルの迎えにより、エルフ国の国王ナッカスが護衛クロームと共に男爵家に現れた。
「はじめましてだね。私はナッカス・ベレトローズ。隣にいるのは護衛のクロームだ。よろしくね、マーリン」
「よろしくお願い致します。クローム・フィルレンです」
2人は深く礼をし、優しい声で自己紹介をした。
気高いエルフの国王が、人間に頭を下げることなどあり得ないことだ。そもそも姿を表すことすら稀なのだ。
そのことをレモングラスから学んでいたマーリンは、慌ててカーテシーと共に名乗りをした。
「ようこそ、おいでくださいました。マーリン・オレットです。こちらこそ、よろしくお願い致します」
緊張の面持ちで初対面を果たしたのだ。
2人は煌めく銀の髪に黄緑の瞳をした、美しく痩身な姿だった。脆弱ではなく無駄のない筋肉、そして身長もバージルと並ぶほどでモデルのような佇まいだ。
純血のエルフは何て美しいのだろう。
そう思ってまじまじと見てしたマーリンに、ナッカスが微笑んで声をかけた。
「私の髪色が珍しいかい? グレースの髪もとても綺麗な銀髪だったのだよ」
ナッカスはそう言うが、マーリンが知る母は珍しくもない亜麻色の髪だった。そう話すとナッカスは少し考えてから頷いた。
「そうか。きっと銀髪は目立つから、魔法で変えていたんだろう。亜麻色も素敵だけどね。マーリン、君にも魔法がかかっているよ。良ければ、解いて見ようか?」
そのどこまでも優しい声に、マーリンはいつの間に頷いていた。どんな魔法がかけられているのか気になったからだ。
ナッカスがマーリンに手を翳すと、彼女の全身が光輝き髪が腰まで伸びていた。そしてその髪色さえも変化している。マーリンが全身を鏡に映すと、驚きを隠せず声があがる。
「え、嘘。これが私の姿なの? だって全然違う………」
動揺するマーリンだが、バージルも目を見張った。
そこにいるマーリンは、ナッカス達のように銀髪でそれに耳も長く伸びていたから。紛れもなくエルフそのものだった。
「君はエルフの血が多いようだね。とても嬉しいな」
母グレースは変身魔法が得意だったそう。でもまさか、自分にまで魔法をかけられていたなんて。そんなこと考えたこともなかった。
「安心して良いよ。私も魔法は得意だからね」
そう言って呪文を唱えると、変身を解く前のマーリンの姿に戻っていた。
ああ。本当に自分はエルフの血が流れているんだ。母はエルフだったんだと認識出来た。
そこでバージルが、みんなに声をかけた。
「お茶の仕度が整っております。応接室へどうぞ」
「ありがとう、バージル。じゃあ、ご馳走になろうか、クローム」
「はい、ナッカス様。バージル様ご馳走になります」
「さあ、お嬢様もどうぞ」
「うん。ありがとう、バージル」
気を取り直したマーリンは、バージルと共に応接室へ歩く。
「ねえ、バージル。さっきの見た? 私の姿」
バージルは少し笑ってマーリンに言う。
「美しいお姿でしたね。でもどんなお嬢様も、お嬢様です。忠誠に変わりはありませんよ」
「………ありがとう、バージル」
何だか知らぬ間に、涙が溢れるマーリン。自分の存在が急に異質に思えたが、それをバージルが覆してくれたから。安堵の涙だった。
それが分かったのか、バージルは白い大きなハンカチを無言で差し出した。両手で受けとるマーリンはその武骨な態度に微笑む。
(バージルがいてくれて良かった)
訪問したナッカスに感情を揺さぶられるマーリンだが、そのことで更にバージルの存在を心強く感じたのだった。




