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華麗なる、家令  作者: ねこまんまときみどりのことり


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その13 ソレル・アルカネット侯爵の恋人

 ソレル・アルカネット侯爵には、幼馴染みで愛する婚約者がいた。名はサルベーナ・テクジュリア。微笑みが天使のように可愛い、子爵家の令嬢であった。


婚姻するならばギリギリの家格であるが、アルカネット家は政略を必要としない程豊かであった。親の反対もなく、誰もがこの2人は何れ結婚するのだろうと思っていた。


しかしそれを引き裂く者が現れる。ソレルに横恋慕した公爵令嬢で麗しい美貌を持つ、マチルダ・アンクレットだ。現在のソレルの妻である。事もあろうに彼女はソレルと結婚したいばかりに、サルベーナとその両親を盗賊を雇い、移動中の馬車を谷底に落としたのだ。


その事実に半狂乱になったソレルは生きる希望をなくし、食事も拒絶し床から起き上がれなくなった。彼女がいない世界に希望等ないとでも言うように。


それに心を痛めた両親は彼にある提案をした。

「この世には錬金術と言う学問があり、等価交換で望みを叶える術がある。幸いにしてサルベーナは打撲による衝撃(ショック)で即死したようだ。外傷は少なく綺麗なままでまるで生きているようだった。だから体を凍結させて保存してある。眉唾ではあるがこの本には、死者を甦らせる方法が書かれている。その中にはエルフの乾燥させた肉片が必要で、他にも手に入りづらいものも多数ある。

なあ、ソレルよ。ただそのまま朽ちるより、甦生に尽力してみないか? 私達とてサルベーナと幸せに暮らすのを楽しみにしていたのだ。出来ることはして見ようじゃないか」


それはソレルの生存を望む両親の賭けであった。その本の出所さえ不明であるが、僅かなその奇跡にすがった。真偽は不明、著者も不明。だが古文書のように古ぼけた書物には、こびりつく念のような莫大な魔力を感じた。ただ持ってきた両親すら、何処で手に入れたか記憶が曖昧だった。


まるで突然現れた『神の奇跡』のように。

良いものか悪いものかも分からない。


その本に従いサルベーナの甦生の為に暫く生き、そしていつか材料が見つからずに諦める時期が来ても、その時は思い出として生き続けられれば良いと思い、それをソレルに渡したのだ。


その甲斐あって、両親の思い通りにソレルは復活した。サルベーナ達に手を下したのはマチルダで、アンクレット公爵家が手を貸したことも分かった上で、マチルダと結婚したソレル。ソレルは上部を装い、マチルダを溺愛する公爵家の力をも手に入れた。ソレルの両親は心配するが、彼は大丈夫だと微笑む。


「サルベーナを復活させる為なら、何だって利用しますよ。彼女が生き返るなら、毒薬でさえあおりましょう」


幸福とはほど遠いソレルに、両親だけは気づいて心を痛めた。貪欲に権力を得ていくソレルの目的はただ一つ。何とも脆い足場の上に立つ息子だ。


周囲から見れば順風満帆に見えるだろう。

だがそれも愛するサルベーナの為なのだ。

趣味の錬金術の為には資金も手間も惜しまないが、それ以外のことにはことの他優秀で、付け入る隙はない人物。人たらしでみんなに優しい美しい侯爵。役職は軍事を扱う大臣。


その広い人脈で多くの情報を集めていたソレル。全ては愛する者の復活の為。


半ば夢のような目的は、突然のように手に触れそうな場所まで来た。それを逃す訳にはいかない。たとえ息子(ルバーブ)が犠牲になろうとも。マチルダのことは言わずもがな。


彼は誰も愛していない。

彼の愛の全てはサルベーナのもの。


そうでなければ、生きていられないのだ。



侯爵家の地下の更に地下に、彼女の霊廟はある。密かに手に入れたサルベーナの亡骸は、魔道具で凍らせてある場所に眠っている。彼女自体にもソレルが冷凍保存の魔法をかけ続けて。


地下へ続く階段への扉は、彼の部屋からしか行けず、彼の魔力でしか開けられない。毎夜彼は彼女に愛を囁く。


「もうすぐ会えますよ、愛するサルベーナ」



こうして短い夜は、過ぎ去って行く。



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