その11 マーリンの兄弟姉妹は、たくさんいるらしい
国王リンデンに呼び出されたバージル達は、応接室に案内された。そして直後、バージルは防音魔法を展開した。そこには宰相のコンフリーもいる。
ある意味いつものメンバーだ。
「悪いな、バージル。要件はエルフ国の国王、ナッカス殿が来訪することだ。届いた親書によればナッカス殿の御母堂の王女グレース殿は、少子化が進んで滅びる寸前だったエルフ国を救い、英雄視されているらしい。彼女が産んだ子がたくさんいることで、混血ではあるが国の立て直しが出来たそうだ。このことは勿論オフレコだ。
ここに息女となる、マーリン殿がいるから話したのだよ。ナッカス殿は最後の異母妹となる、貴殿のことを心配しておる。困っているようなら、エルフ国で暮らさないかと連絡が来ての」
リンデンの気取らない話し方で、マーリンは緊張せずに済んだ。いつもバージルが何でもないことのように、リンデンやコンフリーの学生の時のことを話していたから、親近感が湧いていたのだ。
それはさておき、以前兄弟姉妹が1000人以上いることに驚いていたマーリン。エルフと人間との混血で寿命が短いのはマーリンだけだから、きっとみんな何処かで生きているのだろう。再び確認され信じられない気持ちが沸き上がるが、猫のグレースも同意したことで納得出来た。
「グレースは自分で、自分の寿命は1000才はいけると思ってたらしいんだけど、少し短かったみたい。マーリンが成人までは生きられると思ってたみたいだけど、少し足りなかったと謝っている気持ちが残ってたよ。元々長く生きすぎて、その辺が曖昧だったんだろうね」
リンデンとコンフリーは、グレースが話すのを以前も聞いた筈なのにまた驚いていたが、それに構わずバージルは話を続けていく。
「マーリンは俺が面倒を見るから大丈夫だ。ナッカス殿が来たらそう伝えよう。マーリンもそれで良いか?」
「はい、それで良いです。ですが私のお兄様に会えるのは嬉しいです」
「まあ。300才は超えているけど、彼は純粋なエルフだから、若く見えるよ。母上のグレースよりも若く見える筈だよ。マーリンと同じくらいに見えるかもね」
「そうなのね、ふふふっ。教えてくれてありがとう、グレース」
「なんの、なんの」
普通に会話に加わるグレースに、だんだん慣れて来たリンデンとコンフリー。ただ彼らには心配事があるらしい。
「純潔のエルフはとても貴重な存在なんだ。過去にはいろんな魔法を使えて美しいので、力づくで拐われることもあったのはバージルに習ったかい? 混血でさえも能力が高く出ることもあり、エルフは国から出ないこともが多いのだ。グレース殿はきっと幻惑の魔法で、エルフだと思われないように暮らしていた筈なんだ。そうでなければ、男爵領でも大騒ぎになっていただろうからね。パートナーと生まれた子供達は知っていただろうけど、基本は秘密なんだ。だが何処からか秘密が漏れて、エルフ国王の来訪が漏れているようなのだ。密偵の報告で分かったのだが、闇ギルドでその話をしているあらくれ者がいたそうなのだ。エルフを捕まえたら、金貨100枚が貰えるとな。きっと雇った者は地位や権力がある筈。
………とんでもないことだが、該当者に予測も付いているんだ」
辛そうな顔で答えるリンデンに、バージルが渋面で答えた。
「ソレル・アルカネットか?」
「ああ、恐らくな」
「あの錬金馬鹿ならやらかしそうだ。遡ればエルフを拐い、滅びた国の末裔でもあるしな。あの一族は懲りることがない。せっかく姫が他国へ嫁いでいたから、生き残ったと言うのに。他のことに尽力すれば、大成する知恵者なのだが、欲望に忠実過ぎだ。この国を滅ぼす気なのか?」
呆れたように話すバージルだが、表情は硬かった。リンデンとコンフリーも同じだ。
「だがハッキリした証拠はないんだ、残念ながら。だからバージル。こちらから転移魔法を使い、親書届けてくれないか? 人の手を介すと、危険だと思うのだ。エルフの王への情報は誰にも話していない。漏れたとすれば書簡からだけだ。もう迂闊なことはできん。頼むよ、バージル」
「だがそれなら、尚更マーリンが危険だ。混血のエルフではあるが、馬鹿には垂涎の存在だろう」
そう言われ、リンデンは押し黙る。確かにそうだ。彼女には次期男爵家当主の他に、エルフの血を引く者としての価値が付いてしまった。
しかし連絡しないことは出来ない。向こうも心配しているだろうから。
「ご主人様。私がマーリンを守りますから、行って来て下さいな。私は普通の猫のふりで彼女をガードします。いざとなったら火で焼きますから、安心してください!」
敵は焼き払ったると、やる気の表情だ。
「う~ん、仕方ないな。任せるぞ、グレース」
「了解しました、ご主人様」
「リンデン、俺が行ってくる。本当はマーリンも連れて行きたいが、安全な状況か分からんしな。まずは単独で行って来るわい」
「おお、済まんなバージル。助かるよ」
「悪いが、護衛は頼むぞ。信頼出来る者をな」
「任せてくれ、俺の側近を出そう」
「リンデン、側近は駄目だろう!」
「いいや、それしかない。それ以外信頼できん」
「…………そうか、そうだな。数日だけなら仕方ないか」
ソレル・アルカネット侯爵は財力と権謀術数や美しさで、多くの貴族を掌握していた。その中には、リンデンよりもソレルに重きを置く者も僅かにいる程に。
そんな感じで準備が出来次第、バージルがエルフ国へ行くことに決まった。
「マーリンは私が守ります。安心してください」
「お願いしましすね、グレース」
相変わらずの心地好い低音ボイスで、グレースはマーリンに誓うのだった。マーリンはグレースを膝に乗せ、その背に顔を埋め、匂いを嗅いで安心するのだった。




