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華麗なる、家令  作者: ねこまんまときみどりのことり


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10/41

その10 淑女に近づくマーリン

 「まあ! また猫を拾ったの? え、女神様の眷族なの? すごいわね」


使い魔から眷族猫になったグレースは、1か月後始めてレモングラス(バージルの娘)と会った。いつもバージルの傍にいたけれど、以前は普通の人には見えない状態だったから。それに今は会話も出来るし、いろいろと変化していた。体もさらに大きくなり、それに……………。


「はじめまして、レモングラス様。わたくしはご主人様であるバージル様の使い魔でございましたが、この度バステト女神様の眷属にもなりました。どうぞ、よろしくお願いします」



亜麻色の体と黄緑の瞳の艶々な大きな猫は、顔を上げてレモングラスに挨拶をした。


「喋った! か、可愛い。それにつやつやなモフモフだわ。ごめんなさい、失礼して。こちらこそよろしくね」


一瞬驚くも、彼女もバージルの娘だ。今までも奇妙な体験をたくさんしてきたから、すぐに受け入れた。そして素直に非礼を詫びたのだ。


「謝罪には及びませんよ、レモングラス様」

「か、可愛いけど、声渋いわ~。ありがとうね」



大きくなったつやモフグレースは、男だった。1か月の時間をかけて体は馴染み、そして声帯も大人になったのだ。今の声は渡◯篤郎風だった。



「本当にびっくりよ。あの高い声がグレースの声だと思っていたから」

そうマーリンが言うと、バージルは感慨深く呟く。


「俺は嬉しいぞ。この子は大人になる前に亡くなった子だったからな。大人になれただけでも嬉しい。そしてこんなに大きくなって。うっ、うっ」

猫バカのバージルは自分の子のように、いやそれ以上に喜んでいる。


マーリンは優しいなぁとホッコリした。出会った時は怖い雰囲気もあったけど、一緒にいるうちにすごく一生懸命な人だと思った。表情は変わらないけど、いつもマーリンのことを考えてくれていた。それに猫に対しては全身全霊をかけてトラブルにも突っ込んでいくし。表情も穏やかになるみたいだし。猫の方に愛が深い気がするのは間違いではないようだ。


彼は弱きものに厳しくも優しい。

ただ猫にはただ優しいのだ。


さすがのバージルも、喋るグレースを(レモングラス)に見せるのを戸惑ったらしい。けれどこれ以上隠しておけないし、グレースに我慢させるのも辛いのでバラしたのだ。


そしてあっさり受け入れたレモングラスだ。

「ミントもそんなに驚かないと思うわよ。それに渋くて落ち着く声。この重量感と撫で心地は至極。眠くなっちゃうわ」

そう言って相貌を崩し、成犬程度になったグレースに抱きついていた。グレースも頬や喉を撫でられて気持ちが良さそうだ。


「おのれ、レモングラスめ。俺だって畏れ多くて、そこまでしていないのに」

どうやらバステト女神の眷属になったことで遠慮していたらしい。バージルにとって女神は別格なのだろう。いつも亡くなった猫達が天国に行けるように、猫が幸せになれるように女神に祈っているそうだから。国教をバステト女神に変えようかと思ったこともあるそう。


だけどグレースは言うのだ。

「ご主人様、今までと同じ対応で良いのです。特にバステト女神からの指令はありませんし、この体(前グレース)の願いはマーリンの保護です。今までと変わりません。

…………それともバージル様は、この大きくなった体と低い声がお嫌でしょうか? でしたらそのように言ってください」

寂しそうに俯き言うグレースに、バージルはレモングラスを押し退けて抱き締める。


「体や声が変化したとて、お前がお前であることは変わらない。成長出来たお前を見て、どんなに嬉しかったことか。もう遠慮はせんぞ、グレースよ」


「はい。よろしくお願いします、ご主人様」



ああ、良かったと思うマーリン。やっぱりバージルはこうでないとね。

あとグレースには、母の記憶が残っているらしい。残留思念というものだろうか? それとも朽ちていない肉体には、記憶も保たれていたと言うのだろうか? どちらにしてもグレースからは、いろいろ母のことを聞けるかもしれない。グレースの傍にいるだけで何となく落ち着くのは、母の気配に似ているからだろうか?



◇◇◇

そんな感じでグレースのお披露目は終わった。その後ミントさんと会っても全然驚いていなかった。

「渋くて良い声だね」なんて、猫に言わない褒め言葉をにこやかに捧げていた。「恐縮です」なんてグレースも返すから不思議な感じだ。



あの後バージルは、グレースとは対等に話をしている。子猫以外にはそうして対応しているそう。(バージル)のことだから、大人の猫にも赤ちゃん言葉かと思っていたが違うみたいだ。


本当にうとうとしていると、大人の男性が2人いるみたいだ。レモングラスさんとの授業の時にね、ちょっとだけ眠気が来ることもあるのよ。内緒よ。



そうして淑女や当主教育は進められていく。今のところ、概ね合格点に達しているらしい。


「良いわね、そのカーテシー。歩く姿勢も背筋が伸びて、身に付いて来たみたいよ。よく頑張ったわね」


「ありがとうございます。レモングラスさんのお陰です」


「私は少し手伝っただけよ。吸収できたのはマーリンが頑張ったからよ。これからもビシビシしごくからね」


「はい。よろしくお願いします。それと、今日のおやつは私も朝にバージルと一緒に作った、林檎のコンポートが入ったアップルパイなんです。是非食べてください」


「あらあら。授業の予習復習で大変でしょうに、早起きしたの? 無理しないようにね」


「はい、ありがとうございます。でも大丈夫です。とっても楽しかったので」


「そうなの? じゃあ、ご馳走になるわね。楽しみだわ」


「はい。準備しますね」



レモングラスさんは私の頭を撫でて、優しく目を細めた。もう1人のお母さんみたいだ。それでもバージルはお父さんって言う感じではないのよね。うんそう、師匠みたいなものね。グレースもいるし、ミントさんもいるし幸せだな。勿論、子猫達もね。


なんてのんびりしていたら、王宮からバージルに手紙が届き、バージルと私、グレースは謁見する為に登城しなければならないらしい。


「あいつらが来れば良いのに。面倒だな」

そう言うバージルは、心底うざったそうな顔で言い放ち、手紙を机に雑に置いたまま夕食に使う人参の皮むきを続けた。


あれっ? 王様への扱いが酷くない?

でもまあ、前に会った時もそうだったし、幼馴染みと同級生なら普通なのかな? 深く考えないマーリンは流したが、当然そんな訳はない。バージルじゃなければ、誰かに聞かれたら捕まる案件だ。そんな感じでバージルの王族を敬わない気味の教育は続くのだった。



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