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君と僕との秘密の日々  作者: 如月まりあ
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地獄の始まり

アオイは、ごくごく普通の家庭で育った。


サラリーマンの父・英一郎と、パートで働く母・楓、兄・悠一郎と姉・円の5人家族の末っ子だ。


高校生まで何不自由なく生活していた。


アオイは、成績がよかったので、奨学金を受けて大学に進学しようかと、両親とも相談して決めていた。


しかし、高校二年の夏前に、その生活は崩れ去った。


父は親友の連帯保証人になっていたのだが、その親友が三千万の借金を残し、失踪した。


一家は、それから借金を返す為に、必死になって働いた。


アオイも学校を中退して働こうとしたが、両親に止められた。


『高校ぐらいは、ちゃんと出ておきなさい』


と…


しかし、アオイはアルバイトで学費を稼ぎ、余った分を借金の返済に当てる事にした。


当然だが、大学進学は諦めた。


高校卒業後は、派遣社員となって、事務の仕事を従事した。


そこでコウスケとの出会いがあった。


アオイが派遣された会社は【H.C.C(ヒダカ・コンサルティング・コーポレーション)】と言い、企業のコンサルティングを主に展開している企業である。


その会長の孫であり、社長の甥にあたる、日高コウスケにアオイは見初められた。


当時、課長であったコウスケは、次期幹部候補もしくは、社長候補とも言われていた。


会社の中でもやり手の人物であり、ルックスがよく、気品に満ち溢れた人物だった。


当然の事ながら、コウスケを狙う女子社員の数は数知れない。


『今夜、食事でもどうかな?』


コウスケに笑顔で誘われたのは、勤務しだしてから一ヶ月にも満たない時期だった。


しかし、アオイはバイトがあったので、丁重にお断りした。


その時アオイには想い人がいたし、コウスケの笑顔が何だか怖かった。


だが、コウスケは諦めずにに、毎日、粘り強くアオイを食事に誘ってきた。


その度に、アオイは断り続けてきたが、周囲からの忠告やら、上司からの圧力もあり、バイトが休みの日に、その誘いを受けた。


初めての食事は、一流レストランだった。


その席で、コウスケはアオイに結婚を申し込んできた。


あまりの事に驚きながらも、アオイは、その話を断った。


玉の輿は、悪くないと思うが、コウスケという人間が怖かったのもある。


それにアオイには、想い人がいる…だから


しかし、コウスケは諦めずにいた。


社内でも、アルバイト先でも、アオイの近くにコウスケの影があった。


【ストーカー】と言いたかったが、権力者の息子である。アオイには、黙って堪えるしかなかった。


しばらくすると、その話が、コウスケの母・雅代の耳に入った。


雅代は、コウスケの嫁には、それなりの家柄の娘を考えていたし、見合いの話まで進めていたので、当然の事ながら猛反対した。


さらに、会社に手を回してアオイがH.C.Cにいられないようにした。


H.C.Cは、給料もよかったので痛かったが、アオイは内心ホッとしていた。


しかし、アオイに次の就職先は無かった。


コウスケが裏で手を回して、どの会社もアオイを採用する事はなかった。


さらに、バイトもクビになってしまった。


だが、それだけでは済まなかった。


借金返済の為にほとんど休みなく働いていた母が、脳梗塞で倒れて、そのまま帰らぬ人となった。


絶望に打ちひしがれ、沈んでしまっていた。


そこに、コウスケがある提案をした。


自分と結婚をしたら、借金はすべて肩代わりする…と。


家族は、猛反対した。


好きでもない相手との結婚で、アオイが幸せになれるハズがない。アオイが犠牲になる必要はない。


だが、アオイは、その話を受ける事にする。


父の体力は、限界に達していた。


兄は、恋人との結婚を先延ばしにしていた。


そして、姉も自分の夢を犠牲にしていた。


家族全員が昼も夜もなく働き続けていた。


そうして、結婚の準備に取り掛かったが、そこに雅代が立ちはだかった。


家柄の低いアオイは、コウスケの結婚相手としては認められない、と。


だが、コウスケの方が一枚上手だった。


雅代の父―祖父である日高宗助にアオイを引き合わせたのだ。


この判断は間違ってはなかった。


アオイを一目見て、宗助が気に入ったのだ。


雅代も、宗助がアオイとコウスケの結婚を認めた事により、しぶしぶ認めざるをえなかった。


こうして、アオイは20歳の若さで日高家に入る事になった。


誰もが羨む結婚だった。


【玉の輿】にのった…


周囲の誰もが、そう言っていた。


披露宴は、一流ホテルの大ホールで行われた。


アオイのウェディングドレスは、有名デザイナーによるオートクチュールで、アオイの身を飾った装飾品は、【億】単位のオーダーメイド。


招待客も、政財界の重鎮が顔を並べた。


料理も、一流シェフが高級食材を思う存分に使った豪華フルコース。


すべてにおいて、豪華であった。


だが…アオイの心は晴れなかった。


自分で選んだ。


だけど、好きな人と質素でいいから、幸せな結婚。


そんな当たり前な夢を見ていたのに…


愛してもいない人との結婚。


すべては【借金返済】と【家族の幸せ】の為に。


雅代の憎しみにも似た視線。


コウスケの笑顔への恐怖。


言い聞かせるしかなかった。


【アオイ、あなたが選んだのよ】


と…


新婚旅行も、ヨーロッパ一周だった。


宿泊したホテルも一流ホテルのスウィートルーム。


見た目には幸せそうな新婚夫婦。


だが…新婚初夜から、コウスケの態度は豹変した。


暴言と暴力が始まった。


毎日、暴言を浴びせ、何か気に入らないとアオイに暴力を振るう。


アオイは黙って屈伏するしかなかった。


抱かれる度に、自分が汚れていく気がした。


新婚旅行から帰ると、更なる地獄が待っていた。


義母になった雅代の執拗な嫁イビリが始まった。


アオイの姿が見えると、何かにつけて罵声をあびせた。


自分に従順な使用人も使い、服にはまち針が無数に刺してあったり、靴には画鋲が入っていたり、食事には洗剤が入っていた時もあった。


無理矢理、大量の氷が入った浴槽に裸で入れられた時もあった。


それはすべてコウスケがいない昼間に行われていた。


昼間は雅代のイジメ、夜はコウスケの暴言と暴力。


アオイは、ただ堪えるしかなかった。


しかも、二人の間には子宝がなかった。


状況から見ても、授かる状況ではないはずだが…


それが、雅代のイジメを加速させる事になった。


『子供も産めない役立たず』


そう言って蔑んだ。


そして、コウスケに


『跡継ぎを産めない女とは別れて、こちらのお嬢さんと…』


と、アオイとの離婚と両家の才女との再婚を薦めていた。


だが、コウスケは


『僕の妻はアオイだけですよ、お母様』


笑顔で返すだけだった。


それが、雅代が気に入らないらしく、今度はアオイを使用人として、こきつかうようになった。


アオイが掃除をした場所を、わざとひどく汚してイビり、食事作りを手伝えば『不味い』と言い何度も作り直しを命じ最後には『役立たず』と罵る。


着ている服もボロボロに汚れた服を着せられて、『汚い』と蔑む。


だが、コウスケが帰ってくる時間になると、普通の服を着るように命じていた。


そして、客人が来た時も挨拶だけ普通の服を着せて、すぐにボロ服を着せて雑用をさせていた。


庭を整備するように言われた時は、上から植木鉢が落ちてきて、植木鉢を壊したとアオイに罵声をあびせた。


それを、コウスケに訴える事はしなかった。


コウスケに言っても仕方がないと分かっているから。


暴言や暴力はエスカレートしてきた。


アオイの体や腕、太ももにはいつも傷か青アザができていた。


表立って見える場所は傷つけない…コウスケは計算高い男だった。


恐怖を与え、アオイを屈伏させていた。


アオイは、ビクビクと恐怖に怯えながら毎日を過ごしていた。


地獄のような、悪夢なら醒めてほしい。


そう思ったのは、何千回だろうか…


だが、堪えるしかなかった。


自分は、もう逃げられない、と分かっているから。


借金返済の為に、自分が選んだ事だから。


この苦しみから解放される日は、きっと命が消える時だろう。


逃げたら、いけない…


自分に言い聞かせていた。


だが、そんなアオイにも味方はいた。


コウスケの弟の啓介だ。


アオイが嫁入りした時、啓介は小学四年生だった。


しかし、啓介は雅代の子供ではない。


コウスケの父・日高啓司が外の愛人に生ませた子供であった。


啓介の母親が病気がちで、入退院を繰り返しているせいもあり、日高家に引き取る事になった。


当然だが、愛人の息子である啓介を雅代が歓迎しているハズがなく、雅代からの折檻などは日常茶飯事だった。


コウスケも、イラついた際に啓介をサンドバック代わりに、殴る事もあった。


だがアオイは、コウスケや雅代に傷つけられた啓介を優しく看護した。


傷の手当てをしたり、勉強を教えたり、血は繋がってないが、仲のよい姉弟だった。


それが、コウスケの嫉妬心を刺激した。


さらに、アオイへの暴力はエスカレートした。


ある日、アオイは倒れてしまった。


雅代は、罵声を浴びせて放置しておくように命じたが、コウスケにアオイへの仕打ちが知れるのを恐れて、病院に運んだ。


病院で下された診断は…


『身体的、精神的な疲労による過労』


という事だった。


しかも、アオイの体にはアザがいくつもあり、コウスケは、啓介がアオイに暴力を振るっている、と嘘を並べ立てた。


それにより啓介は、離れに幽閉される事になった。


アオイの心は、砕け散った。


屋敷に帰った後、もとの生活に戻ったが


『日高家の恥をさらした』


と毎日のように雅代になじられた。


アオイには、何も感じられなくなっていた。


喜び、悲しみ、驚き、すべての感情が凍りついたかのように、無表情になっていた。


雅代のイジメ、コウスケの暴力は、収まるどころかヒドくなるばかりだった。


そして、事件は起こった。


いつものように、アオイはコウスケの暴力を受けていた。


少し開いたドアの向こうに離れに幽閉されているはずの啓介がいたのだ。


その訳は、啓司が長い海外赴任から一時帰国するので、雅代が啓司に幽閉している事を隠したいばかりに、屋敷に戻していたのだ。


あまりの暴言・暴力に啓介は怒り


『義姉さんに、ひどい事をするな!』


とコウスケに殴りかかってしまった。


コウスケは、口の中を切ってしまい、雅代は金切り声を上げて、警察に連絡するように指示した。


啓介は、警察に連れていかれてしまった。


さらに、更正施設に入れられるらしい。


数日後、それを雅代から聞いた瞬間、アオイは家を飛び出してしまった。


【自分さえいなければ…】


どこを向かっているのか分からないまま、ただ歩き続けた。


やがて、肩に


【ポツリ…】


と雨が当たるようになった。


【ザー…】


雨が強くなってきた。


微かな感覚で、アオイは懐かしい地元にいる事に気づいた。


このまま行けば、母のお墓にたどり着ける。母の元に行こう…


ぼんやりと考えながら歩いていた。


(お母さん、お母さん、お母さん…)


激しくなる雨の中を、フラフラと危ない足取りで歩いていく。


母が眠る場所に向かい…


(すぐ…行くからね)


だが…その瞬間、誰かに腕を捕まれた。


見覚えのない手。


手の持ち主を、ゆっくりと見る。


アオイは、驚きで声も出なかった。


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