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君と僕との秘密の日々  作者: 如月まりあ
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緊張2

アオイも体が、よく暖まった事もあり、浴室から出た。そこで、迷った。


アオイの下着も、当然ずぶ濡れであった。


だが、下着をつけない訳にもいかない。


仕方なく、濡れたままの下着をつけた。


(冷たい…)


顔をしかめたが、しばらくしたら慣れてきた。


そして、戸惑いながらもカナメのスウェットを着る。


(少し大きい…)


袖や裾を捲ってから、濡れた服を持って、ドアの鍵を開けて脱衣場を出る。


「ごめんなさい」


声をかけると、カナメは持っていたリモコンを降ろして


「湯加減、大丈夫だった?」


と、聞いた。


アオイは、笑みを作り


「ちょうどよかった」


と答えた。


「コーヒー入れたんだけど、どう?」


テーブルの上には湯気のたっているカップがある。


「あ、ごめんなさい、ありがとう」


アオイは、お礼を言ってから、カナメのいる部屋に入り、【ストン】と座る。


濡れた服を持ったまま


「それ、洗った方がいいんじゃ」


カナメは、洋服を指差す。


「でも…」


「洗って乾かさないと、ね?」


カナメの言葉に


「うん、そうだね」


と、アオイは答える。


「洗濯機のとこに持っていこうか?」


立ち上がる姿勢でカナメが言うと、アオイは慌てたように


「いい!自分で持っていくから」


ものすごく慌てて素早く立ち上がり、そそくさと脱衣場にある洗濯機に向かう。


だが、洗濯機の前に立ち


「どうしたら、いいんだろ」


と呟いた。


このまま、彼の好意に甘えている訳にはいかない。さらに彼は、やはり“男”なのだ。何かが起こってもおかしくはない。


彼には失礼な話だが、今の彼女には男性に対する不信感は強かった。


(どうしよう、やっぱりこの状況は、よくないよ…)


グッと手を握る。


『俺を信じて』


ふと、先程のカナメの言葉が頭をよぎった。


(信じたい…でも…)


その瞬間


【ぞわっ!】


アオイの全身に恐怖が沸いてきた。


しゃがみこみ、カタカタ震え出す。


(早く、ここから出ていかないと)


「大変な事になる」


小さく、重々しく呟いた。


「どうしたの?」


アオイが戻らない事を不審に思ったカナメが声をかける。


アオイは、びっくりして振り返る。


そこには、心配そうな表情をしたカナメがいた。


「どこか具合でも悪いの?」


その問いかけにアオイは、首を横に振り


「何でもないよ」


と、笑顔を作る。


カナメは、それ以上は問いただす事はしなかった。


彼女―アオイを傷つける真似だけはしたくなかったから。


「そう…コーヒー冷めるよ」


と、言って部屋に向かう。


アオイは、ふぅっと小さく息をついてから続いた。


「さ、どうぞ」


笑顔のカナメに奨められるまま、アオイはコーヒーを口に入れた。


「美味しい」


思わず口に出してしまう。


「だろ?」


そう言ってカナメもコーヒーを口に含む。


「どこの豆なの?」


アオイの問いかけに


「いや、知らない」


「え?」


「行きつけの店のオリジナルブレンドなんだ」


そう言ってから、台所から袋を持ってきた。


「マスターに、どうしてもって頼み込んで、売ってもらっているんだ。最初は断られたんだけどさ、諦めきれなくて、通いに通いつめて、やっと。でも、他の客には内緒なんだけどさ」



アオイは、袋を手に取り封を開ける。


深く味わいのある香りが鼻をくすぐった。


「いい香りがするだろ?」


嬉しそうに言うカナメ。


アオイは笑ってしまい


「ええ」


と答えてしまう。


そして


「なんてお店?」


何気に聞いた。


「喫茶サイレント」


とカナメが答えた瞬間、アオイの表情が曇った。


「穂積君の勤めているとこ…もしかして葛城製薬?」


なるべく平静を装うよう努力する。。


カナメは、気づいてないフリをしながら


「知っているの?」


と明るい感じで聞いた。


アオイは、目を泳がせながら


「遠い知り合いからね。…葛城製薬の近くで美味しいコーヒーを煎れている店があるって聞いた事があるの」


動揺を知られたくないのだろうか…普通に話すように答える。


必死に動揺を隠しているのが分かりやすい。


少しの間、沈黙が続いた。


「さて、もう遅いから、寝ようか」


カナメの一言に、アオイが固まった。


「え?」


だんだんと顔が赤くなってきている。


「何、赤くなってるの?心配しなくても、俺は別の部屋で寝るつもりだよ」


カナメは、冗談でムッとした表情をする。


アオイは、両手を必死に振り


「いや、あの…そういう事じゃ…」


慌てながら言う。


かなり動揺していた。


「そんなに疑うなら、どこかに縛り付けておく?」


カナメが笑顔で提案すると


「あの…そういう訳じゃ…」


アオイは、どうしていいのか分からず困っている。


カナメは、クスッと笑い


「大丈夫だよ、別に怒ってないから」


と、立ち上がり隣の部屋への襖を開けた。


部屋の中に入って明かりをつける。


ベットと小さな机…それに小さな洋ダンスしかないシンプルな部屋。


カナメは、少し乱れがちなベッドの上の布団をキレイに整えてから


「さ、どうぞ」


と言われたが、アオイは戸惑ってしまう。


「…穂積君は、どうするの?」


恐る恐る聞くと


「俺は、そっちの部屋で寝るから」


カナメが答えると、アオイは首を横に振り


「そんなの悪いわ。あなたが自分のベッドで…」


そう訴えた。


だが、カナメは笑顔を浮かべて


「女性に、不便な思いをさせたくないよ」


「でも…」


「君は疲れているのだから、ゆっくり休んだ方がいい、ね?」


だが、アオイは引かずに


「それはあなただって…」


そう主張するが


「俺の事は心配しなくてもいいから」


カナメの笑顔に、アオイは何も言えずにいた。


優しくされればされる程に心が痛む。


「今日は、ゆっくり寝なよ」


その優しく心地よい声に


「そう…ね。ありがとう」


アオイは立ち上がり、部屋に入る。


不安気にしていると…


「大丈夫だって。俺、そんなに信用できないかな?」


笑顔でカナメが言う。


(違うの、そうじゃないの)


アオイは、心で呟いた。


今、自分がしている事は明らかに夫への反逆行為になってしまう。


そうなれば…


なのに、彼は自分にこんなにも優しくしてくれる。


アオイにとって、胸を締め付けるだけだった。


(神様、どうして穂積君と出会わせたのですか?どうして?)


はち切れそうな胸を、アオイは押さえ込む。


「じゃ、おやすみ」


カナメは、笑顔で襖を閉めた。


しばらくその場に立ち尽くしていたアオイだったが


【ポスン…】


と、ベッドに座る。


(どうしよう…どうしよう…)


自分が居る状況が、かなり重大な事を、じわじわと痛感してきた。


(早くここから出ていかないと…大変な事になる)


太ももに置いた拳をグッと握りしめる。


(どうしたらいい?どうしたら、穂積君に迷惑をかけないまま、事を済ませられる?)


すでに頭の中は、パンク寸前だった。


どうしたらよいのか分からない。


立ち上がり、窓に寄って閉められたカーテンを少し開ける。


窓を打つ雨は、再び激しくなっていた。


(穂積君と出会ってなかったら、私…どうなっていたんだろ?)


こんな冷たい雨の中に薄着、しかもずぶ濡れ…もしかしたら、命がなかったかもしれない。


アオイは、それでもよかった。


死んだ母の元に逝った方が幸せかもしれない。


それ程に彼女は傷つきボロボロになっていた。


「神様のいじわる」


雨を見つめながら、小さく呟いた。


その頃、カナメは湯船に浸かってのんびりを上を向いていた。


(このお湯に、宮里が入っていたんだよな…)


そう意識してしまい、顔が赤くなってしまう。


(なに想像してんだぁぁ!)


【バシャッ!】


顔を叩いて気合いを入れる。


(宮里は傷ついているんだ。傷ついて…)


悲しげな彼女の表情は、カナメの胸を締め付けた。


本当は、気になる。


何が彼女の笑顔を奪ったのか…気になって、気になってしょうがない。


だけど…


無理に聞けるほど…カナメは度胸がない。


彼なりの優しさ故に。


「はぁ…」


ため息をついてから


「情けないなぁ、俺」


そう呟いた。


(一体、何が…)


上を見ながら思うが


(いかん、いかん。逆上せてしまう)


【ザブ…ン】


と湯船から上がる。


風呂上がりに飲むビールは最高だ。


労働の後なら、なおさら格別である。


しかし、今日は飲む気にはなれない。


冷蔵庫を開けてから、麦茶を取りだし、コップに注ぐ。そして、一気に飲み干す。


「ハァ、うまいな」


満足気に呟いてから、コップを置いて、部屋に入る。


襖の向こうには、アオイがいる。嫌でも、意識してしまう。


(ちゃんと寝たかな)


すごく、気にはなったが


(開けて覗く訳にはいかないよな)


そう思いながら、押し入れから客用の布団を出して敷く。


(さて、寝るか)


一応、布団には入ったが眠れるハズがない。


何度も寝返りを打ちながら、襖をジッと見つめていた。


(眠れる訳ないよな…)


だからと言って、どうしようもない。


寝付けない夜は続く。


それは、襖の向こうにいるアオイにも言える事だった。


(もう、寝たかな?)


アオイもまた、襖の向こうを気にしている。


先程まで、漏れていた明かりが消えているので、寝たのかもしれないと思った。


しかし、やはり、カナメは男性である。意識してしまうのは当たり前であった。


しかも、自分は結婚している身である。この状況は、どう見てもよくない。


(今頃、大騒ぎになっているのかしら?)


その瞬間に


【ぞわっ!】


と、恐怖が降りてきた。


【ガタガタ…】


震えが止まらない。


息が苦しい。


頭の中が、混乱する。


(もう嫌…もう…)


涙が溢れて止まらなかった。


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