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君と僕との秘密の日々  作者: 如月まりあ
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【葵】2

「帰りました…」


事務所に入ると、職員が全員一か所に集まって窓の向こうを見ている。


「あ、来た来た」


山崎さんが葵に駆け寄って来る。


「今ね、祐花ちゃんが岸壁で知らない男性と歩いていたのよ。誘拐じゃないかって、今、沼田君が…」


青ざめながら言う。


葵は笑いながら


「まさかぁ。たぶん、兄ですよ」


と言うが


「あの人はお兄さんじゃないわよ」


山崎さんが答える。


「え?」


と呟いてから、急いで窓に駆け寄る。


沼田が誰かに向かって何か叫んでいた。


葵が息を飲む。


「まさか…」


小さく呟いた。


「そんな…」


葵は、急いで事務所から飛び出した。


「おい!貴様!!」


沼田は、上擦った声で男に向かって叫んだ。


「祐花ちゃんを返しやがれ!!」


声のトーンが外れている。


「あ、ぬまただ」


男性に手を繋がれた祐花が、笑いながら言う。


「祐花ちゃん、こっちにおいで…」


沼田が手を広げる。


「やだ!」


祐花は、男性の後ろに隠れた。


「危ないよ」


男性は、祐花を抱き上げる。


その顔を見た瞬間、沼田は凍りついた。


「お…お…お前は…」


その顔は、祐花によく似ていた。


当たり前である。


その男性こそ、要なのだから。


要は、祐花に


「祐花ちゃん、この人は?」


と聞く。


「ぬまた。ママのしょくばのひと。ママにしつこくせまっているの」


祐花は、にっこにこと笑いながら言う。


「そうなのかい」


要は苦笑いを浮かべる。


3歳児に、バカにされた言い方をされている…


「て、てめぇは…」


沼田が、声を上げる。


「あぁ、自分は…」


要が言う前に


「ゆうかのパパ」


祐花が先に答えた。


「え?」


沼田の口が開いたまま塞がらない。


「ゆきのばあばがいっていたのーゆうかのパパがきっとおむかえにきてくれるって」


そう言って要に抱きつく。


「祐花…」


だが、沼田は納得がいかない。


「てんめぇ、何、勝手な事してんだよ!!4年もの間、葵さんと祐花ちゃんを放ったらかしにしていたくせに、何今更!!」


と、要にくってかかるかのように言う。


「ぬまた…めっ!!」


祐花が、声を上げる。


「パパ、いじめちゃ…めっ!!」


小さな子供なりに怒っている。


沼田は、困ったように


「でもね、祐花ちゃん、こいつは、祐花ちゃんとママを…」


と言いかけた所で


「要!!!」


葵が、大声で名前を呼んだ。


葵の方に振り向いた要。


「あ、ママー」


と、祐花は、ジタバタする。


要が祐花を降ろしてあげると、


「ママ!」


祐花は葵に抱きつく。


「祐花…」


葵が屈んで、祐花の顔を覗くと


「ゆきのばぁばのいっていたとおりだね。ゆうかのパパがおむかえにきてくれたよ」


祐花は、嬉しそうに言う。


葵は、困ったように笑ってから立ちあがり


「要、どうして?どうしてあなたがここに来ているの?」


真剣な表情で聞く。


要は、微笑んで


「悠一郎さんが、教えてくれたんだ」


要の答えに


「お兄ちゃんが…」


葵は、驚いた。


「そんな…お兄ちゃんには…ちゃんと約束…」


葵は、戸惑っていると


「このままじゃいけないってさ。俺も葵も…そして、祐花も、幸せになれないって。俺もそう思う」


「そんな…」


「俺、ずっと、待っていたよ。葵が帰って来るの、ずっと。でも、待っているだけじゃダメだよな。ちゃんと迎えに行かないと…」


そう言って、葵と祐花に近づく。


「でも、…要」


「…会社なら、辞表出してきた」


要の言葉に葵は固まる。


「はぁ?」


素っ頓狂な声を上げた。


「な、な、なんて事を…」


「葵が気にするなら、別に辞めたってかまわないよ」


要がにこやかに言うと


「何をそんな気軽に…」


葵は頭を抱えた。


「今は、不況で就職難の世の中なのよ…」


「しばらくは貯金があるし、何とかなるよ。バイトもするつもりだし」


「何を、お気楽に構えているわけ?」


「言ったろ?俺は、葵と祐花がいてくれるだけいい」


葵は言葉が出なかった。


「宮里さん!!」


そこに沼田が割り込んでくる。


「騙されるな!こいつは、あんたたち2人を捨てたんだろ?」


と、要を睨みつけながら言う。


「は?」


要と葵が、同時に呟いた。


「俺、聞いたんだよ。宮里さんが、コイツに捨てられて、この町に来たって」


と、言う。


葵は、吹き出してから


「何をバカな。それ違うわよ。私が彼の目の前から去ったの。…いろいろあってね」


「でも、コイツがあんたを傷つけたんだろ?」


「それは逆よ。私が…要を傷つけたの…いっぱい、傷つけたの」


葵は、悲しげに言う。


「葵…」


「でも、今更、なんだってんだよ!!4年も放っておいたんだろ?そんな男!!」


葵は首を横に振り


「私が、居場所が知られないようにしていたの。知ったらきっと…」


そう言って顔を背ける。


「だろ?こんなヤツ追い出せよ!!な?」


必死に訴えかける。


だが、葵は…迷っていた。


我慢できなくなった沼田は


「こんな奴と一緒になっても幸せになれないって。俺とさ、幸せな家庭を築こうって。祐花ちゃんだって幸せにして見せるから…な?」


そう言って葵の肩をゆする。


「何度も言っているけど、それは出来ないわ。ごめんなさい」


葵は、目を反らして言う。


「どうして?こいつがいいのか?」


そう言って要を指差す。


葵は何も答えられなかった。


沼田は、要に食ってかかり


「とにかく、てめぇは、こっから出て行きやがれ!!」


と叫んで殴りかかろうとするが…


「沼田君、止めるんだよ!」


後ろから山崎さんが声を張り上げて言う。


「山崎さん…」


沼田が振り上げた腕を降ろす。


「宮里さん、二人きりで話をしなさい。祐花ちゃんは、私らでみているから」


山崎さんに言われて


「…はい」


葵は返事をする。


「さ、祐花ちゃん、パパとママは大事なお話があるから、おばちゃん達と事務所で遊んでようね。お菓子があるよ」


と屈んで祐花に言う。


「わぁい」


祐花は、山崎さんに抱きついてからそのまま抱かれて事務所へと向かう。


沼田も、納得できない様子でその後に続いた。


二人の間に沈黙だけが流れた。


「…ばかよ」


葵は小さく呟いた。


「今まで築き上げた会社での地位を捨てるなんて」


葵は俯いたまま言う。


「そうかな?」


要は、空を仰ぐ。


「そうよ…バカよ」


泣きそうになるのを抑えつける。


「うん、そうだね」


要は笑いながら言う。


「でもさ、俺、葵と祐花がいてくれるなら、そんな事構わないよ」


「え?」


「だって、それが俺の幸せだから」


そう言って要は笑う。


葵の瞳から涙が零れ落ちる。


「要!!」


葵は、その胸に飛び込んだ。


「ずっと4年間、ずっと葵の事だけを考えていた」


要は、ぎゅっと力を込めて抱きしめる。


「私だってずっと…」


「いつか葵が帰って来るって思って、待ち続けようって。でも、それじゃダメだよね?自分から動かないと、何も変えられない」


葵は泣いたまま何も言わない。


「葵、結婚しよう。祐花と三人で幸せになろう」


「でも…」


「あの人だって、それを望んでいる。俺達が幸せにならないと、あの人だって浮かばれないよ」


葵は、ただ泣き続けるだけだ。


「一緒に生きて行こう」


要の言葉に葵は頷いた。


力を込めて二人は抱き合った。


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