衝動3
「コウスケさん、あなた今言いましたでしょ?この方と話をしてから変わったと」
雅代が顔をしかめる。
コウスケは、ため息をついてから
「だから、それは偶然です。私が変わったのは、いろいろと考える事があったからで、彼のせいではない!!」
と、声を少し荒げた。
雅代は、悲しげに首を振り
「何を訳が分からない事を…この方のせいだと、私は聞きましたよ」
「誰がです?」
「それは…その…」
コウスケの追及に雅代は、困ったように目を泳がせる。
「自分の名前は出さないでくれ…とでも、言われたのですか?」
コウスケの厳しい口調に
「それは…ね」
「でしたら、それは、彼を追い落とそうとしている人間でしょう。お母様は、その方に嘘の情報を提供されて、それを鵜呑みした」
「そんな!私がそんな愚かな!」
雅代が、抗議して言うが
「現に、こうやって嘘の情報に踊らされて、ここに彼を呼んでいるではありませんか?」
コウスケの厳しい口調に
「…コウスケさん、私はね、あなたの事を考えているのよ」
同情を誘うかのような言い方だ。
コウスケは、そんな雅代に冷たい視線を送り
「それは分かっております。しかし、誠実な青年の将来を脅かそうとしていた事実は変わりません」
と、言い放つ。
「あなたの為なら、誰が犠牲になろうと関係ありませんわ」
雅代は、自信たっぷりに言う。
「そんな…」
コウスケは呆れたようにため息をつく。
雅代は、アオイに怒りの視線を向け
「コウスケさんが変わったのは、あなたのせいね」
断定するように言う。
アオイが息を飲む。
「コウスケさんは、私の言う事をよく聞く、とても誠実な息子でしたわ。ですが、あなたと結婚してから変わってしまった。私の言葉を聞き入れず、あなたの言葉ばかり聞き入れるようになって」
雅代は、グッと手を握りしめて
「私の元から離れて暮らすなんて、とんでもない事を!!あなたがコウスケさんを誘惑して、この屋敷から出ていくように仕向けたのでしょう?」
アオイを追及するかのように言う。
アオイは何も答えない。
その代わりに
「それは違いますよ。お母様」
答えたのは、コウスケだ。
「お母様の元を離れると決めたのは、一人立ちしようと考えたからです。アオイは何も言っていません」
きっぱりと言い放った。
「コウスケさん…この女も庇うの?」
信じられないように首を振る。
「庇ってなどいません。アオイは、私に何も言わずに付き添ってくれていました。断じて、アオイから何か言われたからではありません」
コウスケは、強い口調で言う。
雅代は、失念したかのように首を振ってから
「なんて事…ここまで、この女に浸食されていたなんて…」
と、言ったあと立ち上がり
「あれを持ってきて」
と執事に命じる。
「…かしこまりました」
執事の声は、沈んでいた。
彼は、部屋の隅にあるアンティークキャビネットの上から紙とペンを持ってきて雅代に渡す。
雅代は、それをアオイの前に差し出して
「さ、これにサインをしてから、日高の家から出て行ってちょうだい。お金なら、いくらでも差し上げますわ」
と、言い放つ。
その紙は、【離婚届】だった。
しかも、雅代が書いたのであろう、コウスケの署名はされていた。
「お母様!何を勝手な!!」
コウスケが抗議をすると…
「目を覚ましなさい!コウスケ、あなたはね、この女に騙されているのよ。可哀想に…」
そう言ってから目を潤ませる。
「あなたは、私の言う事をよく聞く、とても聞きわけのよい子でした。ですが、この女の巧みな言葉を信じて…」
悲しげに訴えるように言う。
コウスケは、呆れながら
「何を言っているんですか?アオイは、私に何も言っていません。私が家を出たのは、私の考えだけで、アオイは何も言っていません」
コウスケの言葉も、雅代は受け付けない様子で
「コウスケ!!お母様の言う事が聞けないのですか!?」
命令するかのように言う。
コウスケの怒りが爆発しそうになる。
しかし、その前にアオイが動いた。
離婚届を手に取る。
雅代の表情が一瞬明るくなるが…
次の瞬間
【ビリビリ…】
その離婚届を引き裂く音が部屋に響き渡った。
雅代が、目を見開く。
「あ…あなた、一体何を…」
体を震わせながら、雅代が破り捨てられた離婚届を見つめる。
そして、怒りの視線をアオイに向けて
「何をするのです!?」
ヒステリー声を張り上げて叫んだ。
アオイは、雅代を見据えて
「私は、サインいたしません」
静かに言い放った。
「な…何を…」
強気なアオイの態度に、雅代は驚く。
「私は、日高コウスケの妻です。それだけは、誰にも譲るつもりはございません」
雅代を見据えて言い放った。
近くでカナメの表情が固まったのが見えた。
「なんですって!!」
雅代の怒りが爆発した。
「本心が出たわね…この女狐め!」
怒りで体が震えていた。
「ごらんなさい、コウスケ。この女はね、この日高家の財産が目的なのよ。あなたを騙しているのよ…そうよ…このお腹の子供も、きっと外で作ったんだわ…あなたは騙されているのよ…」
と、コウスケに掴みかかる。




