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君と僕との秘密の日々  作者: 如月まりあ
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変化4

天井が見える。


(…どこだ?ここは?)


目覚める時に見えるのは、部屋の天井。


ここは、違う。


記憶の中から、リビングの天井だと理解するまで、時間がかからなかった。


コウスケの記憶では、確かにリビングで酒を煽っていた。


途中から記憶が無くなっている。


起き上がろうとすると、頭がかち割れる位に痛い。


今まで、二日酔いになった事すらなかったのに。


(痛っ!!)


それでも起き上がると、布団が掛けられている事に気付く。


よく見たら、枕もあった。


テーブルの上も、きちんと片づけられていた。


コウスケは、二日酔いの痛みで理解するのに時間がかかる。


二日酔いとは、こういうものかと痛感した。


そして、それがアオイの行為の結果であるという結論にいたる。


(アオイ…)


コウスケは立ちあがり、部屋へと向かう。


ドアを開けて中にはいると、いつもの位置でアオイに眠っていた。


タオルケットと毛布を重ねている。


時期的には、寒くはないかもしれないが、お腹の子供の事を考えるとよくないだろう。


コウスケは、アオイの傍に立つ。


アオイは、寝息を立てて眠っている。


ベットの端に座り、アオイを見つめる。


幸せな夢でも見ているのだろうか…優しく微笑んでいた。


こんな顔を見た事はない。


コウスケが知っているのは、苦しそうに恐怖の浮かんだ顔ばかりだ。


(こんな風に笑っていたな)


H.C.Cに派遣社員として、コウスケの部下であった時代。


アオイは、いつも元気な笑顔で仕事に励んでいた。


だが、こんな笑顔は、4年の間、一度も見た事がない。


それが、何故なのか?


…分かっている。


だが、認めたくはない。


そうして今、アオイが笑っている理由。


それは、きっとそのお腹に宿った命のお陰。


そのお腹の父親の存在があるから。


アオイが、すべてをかけて守ろうとしている男。


…それも、認めたくなかった。


だが、アオイは、4年以上も苦しめた男の為に布団を掛けたり、後始末をしてくれていたりしている。


「君は、どうしてそんなに…優しいんだい。こんな俺に、どうして?」


分からなかった。


アオイから優しくしてもらった事がないから。


傷つける事しか出来なかった自分。


壊す事しか出来なかった自分。


そんな自分が嫌で、その鬱憤を晴らすように、また傷つけ続けていた。


自分を恐怖の目で見つめるアオイの瞳が焼きついて離れない。


なのに、どうして?


アオイは、優しくしてくれるのだろう?




彼なら、答えが分かるだろうか?


きっと、彼なら分かるだろう。


そう思っていた。


自信を持って…


翌朝


アオイが目覚めると、掛け布団が掛けられてあった。


一瞬、頭が真っ白になる。


「あら?」


考えながら起き上がる。


隣には、コウスケの枕があった。


だが、コウスケの姿が何処にもない。


アオイは、ベットから降りて、部屋を出る。


リビングには、コウスケがいた。


難しい顔をして新聞を読んでいる。


「おはようございます。旦那様」


おそるおそる、コウスケに声をかける。


コウスケは、新聞に視線を留めたまま


「おはよう」


小さな声で答える。


「お加減は、大丈夫でしょうか?」


アオイの問いかけに


「ああ、大丈夫だ。…痛っ」


と、頭に手をやる。


「大丈夫ですか?」


アオイは、心配そうに駆け寄る。


「大丈夫だ」


コウスケは、強がるが


アオイは、コウスケをジッと見て


「そうですか…」


と、言い


「着替えてまいります」


そう言って一礼する。


「あぁ…アオイ…」


部屋の中に戻ろうとしたアオイを呼び止める。


「はい?」


アオイが振り向くと


「昨日は…ありがとう」


ギリギリ聞き取り可能なくらいの小さな声で言う。


「え?」


アオイが固まる。


「布団をかけてくれただろ?ありがとう」


顔はよく見えないが、照れているのかもしれない。


アオイは、微笑んで


「いえ、旦那様が、お風邪を引かないでよかったです」


と、言う。


「そう…」


「今日は、英子さんにお願いして、旦那様が負担にならないメニューにしていただきますね」


「…いや、別にそんな」


コウスケは、慌てて立ちあがるが、頭がズキッとくる。


「ご無理は、なさらないでください。旦那様」


そう言い残して、アオイは一礼してから部屋の中に入って行く。


コウスケは、痛む頭を抱えて座り込んだ。


不思議な感覚がする。


それは、二日酔いのせいではない。


アオイの優しい笑顔が見れたからだと思った。


コウスケは、気付いた。


【自分の欲しいモノは、こんなにも簡単に手に入る】


という事に。


着替えを済ませたアオイは、部屋から出て来てから


「お茶でも、お飲みになります?」


と、話しかける。


「あぁ、そうだね」


こんな状態に慣れていないコウスケは、戸惑いながらも答えた。


「では、すぐに用意いたします」


そう言ってキッチンに入り、薬缶でお湯を沸かす。


急須に茶葉を入れて、一度沸騰したお湯を少し冷ましてから、ゆっくりと回し入れた。


湯呑を取り出して、急須と共にトレーに載せてから、コウスケのリビングに戻ってきた。


屈んでから、テーブルにトレーを置いてから急須を持ち、ゆっくりとした動作で湯呑にお茶を入れる。


コウスケは、その様子を黙って見ていた。


「旦那様、どうぞ」


湯呑を前に置かれ


「あぁ、ありがとう」


そう言って、湯呑を持つ。


優しい味がした。


「美味しいな」


コウスケは、小さく呟いた。


「ありがとうございます」


そう言って、アオイは立ちあがろうとする。


「アオイ、そこに座ってくれないか?」


そう言って、自分の隣を指す。


「…はい」


アオイは、戸惑いながらもコウスケの隣に座る。


「ねぇ、アオイ。君は、穂積君と同級生だったよね?」


アオイの指が、一瞬ピクリと動く。


「…はい、中学生まで」


平常心を装おうように、アオイは答えた。


「穂積君は、どんな人だった」


コウスケの視線は、遠くを眺めているようだった。


アオイは、コウスケを見つめて


「あまり、お話はした事はありませんが…とても優しい方だと思います」


「優しい?何故?」


「いつも、優しく笑っておられましたから。でも、本当の所はわかりません」


アオイは、静かに答えた。


「そう…」


コウスケは、小さく呟いた。


「穂積君も、君が優しい人だと言っていたよ」


虚空の見つめながら、コウスケの声は沈んでいた。


「そう、ですか」


アオイは、小さく言い


「何かあったのですか?」


思い切って聞いてみる。


「え?」


「最近、お元気がないから」


アオイは、迷いながら言う。


「でも、君は助かっているだろう?」


空しさが伝わってくる。


「君を傷つける事しか出来なかった俺を、何故気にかけてくれるんだい?」


コウスケの問いに、アオイはグッと手を握りしめて


「私は、旦那様の妻ですから」


そう答えた。


「妻として、当たり前の事です」


そう言ってアオイは、微笑んだ。


「そっか…そうだったね…」


コウスケは上を見つめる。


二人の間に沈黙が続いた。


やがて、コウスケはアオイの手を握り


「元気な子供、産まれてくるといいな」


そう言って微笑む。


アオイは、驚きながらも


「はい」


そう言って微笑み返した。



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