変化3
そのままコウスケは崩れるように床に倒れた。
「旦那様?」
アオイが、揺り起こそうとするが反応がない。
泣き腫らしたまま、深い眠りに落ちてしまったようだ。
(一体何があったというの?)
コウスケの豹変ぶりは、異常だ。
今までのコウスケからは、こんな姿は想像もつかない。
どんなにお酒を煽ったとしても、きちんとベットで眠っていた人だ。
なのに、今日は大泣きした上にそのまま深い眠りに落ちてしまった。
アオイは、困り果ててしまった。
お腹に子供のいる身で、コウスケを抱える事は出来ない。
いや、妊娠していなくても、それは不可能であろう。
コウスケは細身とはいえ、身長がある。
アオイには、抱える事など到底無理。
外にいるボディーガードに頼もうとも思ったが。
それは、コウスケのプライドを傷つける事になる。
妻として、それだけは出来ない…してはならない。
迷った末に、アオイは部屋に行きベットから掛け布団を持ってくる。
そっと、コウスケにかけてやる。
次に枕を取りに行き、コウスケの頭を載せた。
一瞬、眉を寄せたので驚いたが、すぐに元に戻る。
アオイは、ホッとしてから、床に散らばった酒瓶を拾い集めてキッチンにあるダストボックスに入れる。
キッチンからクロスとトレーを持ってきて、グラスやお皿を片付けてからテーブルをクロスで拭く。
キッチンに持っていき、グラスなどを洗浄してから、乾燥機にかけた。
その間、アオイはコウスケに何が起こったのかを考えていた。
人格が豹変してしまう程に、コウスケは変わってしまった。
それだけの事はコウスケに起こったのだ。
やはり、自分のお腹の子供の事だろうか?
自分が子供が出来ない体なのに、アオイが妊娠した。
どう考えてみても、アオイが誰かと…としか思えない。
実際にそうなのだが…
しかも、アオイは否定を続けている。
どんな目に遭っても、何度も何度も問いただしてもアオイの答えは同じだった。
アオイは、ただカナメを守りたい一心でそうしてきた。
しかし、それはコウスケにとっては苦痛でしかなかったのでないか?
もしかしたら自分の子供かもしれない…などとコウスケは考えられなかったのではないか?
そう思うと、胸が痛い…
水道でクロスを洗っている手が止まる。
水の流れる音だけが、響き渡っていた。
今までコウスケがアオイにやってきた事は許す事は出来ない。
だが、アオイがやった事も、許されるハズはなかった。
【夫への裏切り】
それは、アオイの中で十字架としてのしかかる。
アオイは、首を横に振って再びクロスを洗う。
水道を止めてから、クロスを絞る。
クロスをたたんでから、台の上に乗せ、自分の手を掛けてあるタオルで拭いた。
深く息をつく。
(今更、何を迷っているの?こうしなければ、カナメを守れなかった…あの人の幸せだけは守りたい)
両手をキツく握りしめてから、キッチンを出る。
コウスケは、規則正しい寝息を立てて眠っていた。
穏やかな寝顔。
アオイは、コウスケの近くで屈んで見る。
コウスケの寝顔を、こんな風に見たのは初めてになる。
隣で眠っていても、コウスケはいつも背を向けていたし、アオイは怖くて顔を見る事はなかった。
(こんな穏やかな顔をして眠る人だったのね)
アオイは、そっとコウスケの髪に触れる。
柔らかい…
4年間、コウスケは苦痛以外の何も与えてくれなかった。
そんな姿からは、考えつかない程にコウスケの顔は穏やかだ。
「どうして変わってしまったの?」
アオイは、小さく呟いた。
コウスケが変わった事は、アオイにとって嬉しい…事なのに、何故か胸に引っかかる。
何が起こったのか?
それが気になってたまらない。
なぜか気になってしまう。
アオイは、考えるのを止めた。
(考えてもムダよ。分かりはしない。それよりも、この平穏な日々がいつまでも続くように、それだけを願わないと。この子を守る為にも)
アオイは、お腹に手をやる。
こうしている間にも、お腹の子供は成長している。
…そうだ、振り向いている暇はない。
(今はただ、この子を守る事だけを考えないと)
アオイは、立ちあがり部屋へと戻る。
コウスケをリビングに残すのは気が引けたが。
(とりあえず…毛布だけで眠るしかないわね)
今の時期なら、毛布一枚でも支障はない。
アオイは、毛布を取り出してタオルケットと重ねて眠りについた。
『コウスケさん、佑介に負ける事は許しませんからね』
『日高家の正当な跡取りはあなたよ』
『コウスケさん、満点を取ったの?それは上出来です』
『そうよ、そうやって佑介を、あの汚れた一家を陥れてしまいなさい』
【止めてくれ!!】
『この子の父親はあなたです』
『私は、一人でいました』
【そんなみえすいた嘘は止めろ!!】
『コウスケさん、あなたは私の自慢よ』
『あの女狐…よくも裏切り続けて…子供まで…』
『コウスケさん、あなただけが私の味方よね?』
【もう、うんざりだ!!】
『コウスケ…あなたは、そうやって支配する事しか知らないのね?』
『あなたは、人に心から優しくする事を知らない』
『私…佑介と結婚します』
【何を言っている?この裏切り者!!】
『私は、お義母様から正式にコウスケ様の嫁として認められているんですよ』
『私と結婚すれば、あなたの願いが叶いますわ』
【うるさい!!分かったような事を言うな!!】
『コウスケさん、あなたは私のたった一人の生甲斐なの』
『お帰りなさいませ、旦那様』
『どうして亜由美が、君じゃなく自分を選んだか…考えた事がある?』
『コウスケ、あなたは人には心がある事を理解出来てない』
『コウスケ様、私はあなたの為にどんな事でも致しますわ』
【うるさい!!うるさい!!うるさい!!】
『コウスケさん』
『旦那様』
『コウスケ』
『コウスケ様』
…!!
…!!
…!!
…!!
…!!
…!!
…!!
…!!
…!!
『…愛されてもいない相手と一緒にいても幸せになれないと思います』
真剣な眼差しで言うカナメの顔。
『穂積課長』
満面の笑顔を浮かべた初々しいアオイの笑顔。
【アオ…イ?】
コウスケは目を開いた。




