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君と僕との秘密の日々  作者: 如月まりあ
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確信3

コウスケのカナメへの嫌がらせに近い行いは、止まる事はなかった。


だが、カナメは挫けることなく、地道に書類を消化して行った。


しかし、さすがに定時までに仕上げ切れない場合もある。


カナメは迷わず残業をして、消化して行った。


社内でも、噂が苛烈になっていく。


「穂積君、頑張るわね」


「でもさ、部長のなさりようって、あんまりじゃない?」


「部長も面子潰されたからねぇ、仕方ないわよ」


「それよりも、村瀬さん、あの子の神経どうしているのかしらね?」


「そうよ、専務の姪かもしれないけど、権力振りかざして男を思い通りにしようなんてさぁ」


「まぁ、わがままなお嬢様だからね。ほら、父親は大学の教授だから…」


「うちの会社に情報を提供している?」


「そうそう、その大学の」


「いくら自分の思い通りにならないからって、あんな事させて黙っているなんて、ちょっとサイテ―よね」


「ほんと、ほんと」


その話で、絵莉花も社内で窮屈な思いをするようになった。


そして、とうとう叔父である専務に


「叔父様、穂積君への扱いを止めてもらえるように、部長に言ってよ」


と、抗議をした。


専務は、困ったように唸り


「うーん、絵莉花、申し訳ないんだけどね、誰も部長には逆らえないんだ。今は部長と言う職に甘んじているが、将来は社長…になるかもしれない素質があらされる。そんな方にねぇ」


と渋った。


「社長?次期社長は、彼の従兄弟でしょ?」


絵莉花は、意味が分からない。


「うーん、私もあまりよく知らないんだけどね、部長のお母様の息のかかった社員で、いずれクーデターを起こして今の社長一家を追い出して、彼を社長に据えるという話があるんだよ」


絵莉花が何も言えないでいると


「まぁね、今の社内の雰囲気は、絵莉花によくない。ま、彼に辞めてもらえばいいだけだからね」


と、電話に手を伸ばそうとしたが、その手を絵莉花に掴まれる。


「叔父様!何を言っているの?彼を辞めさせるって?」


絵莉花の抗議に


「仕方ないだろ?彼が絵莉花の気持ちに応えられないのが悪いんだから、可愛い絵莉花が、こんなに苦しんでいるのに諸悪の根源である彼を野放しにしておく訳にいかないよ」


専務は、ケロッと答える。


「それは止めてよ!」


「まだ、彼に未練でもあるのかい。止めておきなさい。彼は、社会のルールに反する行為をしたんだ。そんな男に可愛い姪を任せられない」


「社会のルール?」


「郷に入らば郷に従え。こんなの常識だよ。そんな事より、お前にいい話があるんだ。総務課に素晴らしい好青年がいてね。ぜひ、絵莉花とお付き合いしたいって言っているんだが…」


「あんなキモイ男は嫌!」


絵莉花はハッキリと断った。


誰かなんて聞くまでもない。


未だに絵莉花が名前を覚えられないあの男に決まっている。


絵莉花にフラレたから、叔父である専務に尻尾を振ったのだろう。


「とにかく、穂積さんを辞めさせたら、叔父さんを一生軽蔑するから!!」


絵莉花は、そういい残して部屋を後にした。


カナメは、目の前がクラっとなる。


さすがに、連日の負荷が出てきているようだ。


(やばいな…)


そう感じていた。


周囲でも、心配する声は出ているのだが、誰もコウスケが怖くて手を出せずにいる。


それは仕方がない、とカナメも諦めている。


どうやら、コウスケはカナメを潰す気でいる…それは、誰も目から見ても明らかだった。


「穂積君、まだ仕上がらないの?」


厳しい声でコウスケが言う。


「申し訳ございません。すぐ出来あがります」


カナメは返事をしてから、書類の仕上げにかかる。


「早くしてくれたまえ。時間がないんだ」


嫌味たっぷりで言う。


しかし、時間がないっていうのが嘘だというのは、分かり切っている。


現在は朝の10時…その書類が必要な会議は3時から。


完璧な嫌がらせだった。


「ふう…」


息をついてから、立ちあがり書類をコウスケの元へ届ける。


「出来あがりました」


そう言ってから書類を渡す。


コウスケは、書類をチラリと見てから


「ダメだね、これじゃあ、先方が納得しない。もっと、分かりやすくしてもらえないかな?」


と、ゴミ箱に捨てる。


カナメは、グッとガマンしてから


「申し訳ありません。すぐに作り直します」


一礼してから、自分の席に戻る。


コウスケは、イラついたように舌を鳴らす。


この男といい、アオイといい、自分の思い通りにならない人間が多い。


ケイスケの裁判も、時間がかかっている…と報告があった。


すぐに更生施設に追いやりたいのに、何故こんなに時間が掛かっているのだろうか?


その事でもコウスケはイラついていた。


そのイラつきは、会社でカナメに、家庭ではアオイに向けられている。


アオイは、コウスケの暴力を受けながらも、必死に子供を守ろうとしている。


その態度が気に入らない。


(どいつも、こいつも…)


コウスケは、イラつきを隠せないようになっていた。


その原因は、他にもあった。


「皆様、こんにちは」


にこやかな声が総務に響いた。


コウスケは、再び舌打ちをした。


総務課に現れたのは、芹澤貴子だった。


彼女は、大手銀行頭取の娘であるという地位を利用して、毎日のように葛城製薬を訪問していた。


後ろに包みを持ったメイドらしき人物が数人控えている。


「皆様、お疲れ様でございます。皆様のお疲れが少しでも、癒されるようにと、本日は私がよく通います和菓子店の新作和菓子をお持ちいたしました」


そう言って上品に笑う。


コウスケは立ちあがってから、貴子に近づく。


「あら、コウスケ様。お疲れ様でございます」


貴子は、上品に笑いコウスケにすり寄るように腕を絡める。


コウスケは、それをほどいて


「貴子さん、申し訳ないのですが、今は皆、職務中ですので…お引き取りください」


優しい口調で厳しく言い渡す。


「あら、私、コウスケ様がお世話になっている皆様を、お労りしようと…」


「いつも申し上げているではありませんか?あなたにそうしていただく必要はありませんと」


「いいえ、私の夫となる方の会社ですのよ。私が皆様を…」


「ですから、私にはアオイという妻がおります」


「でも、お義母様は、私をコウスケ様の妻だと、お認めになっているのですよ」


自信たっぷりに言う貴子に、コウスケはため息をついて


「お母様が、どう言おうと私の妻はアオイだけです。お引き取りください」


「コウスケ様、私だってこのような事は申し上げたくはございませんが、あなたがこれからH.C.C.本社で上がっていく為に必要なモノを、あなたに提供できるのですよ。あの方にそれが出来て?」


「確かに、あなたのお父様のお力は、大きいですが、もう私には妻がおります。ですから…」


「妻として必要な事は、立派な跡取りを産む事です。あの方にそれが出来て?」


嫌味を含めて言う。


「ですから、今、アオイのお腹には…」


「その一人が出来るのに、どれだけの時間がかかりましたの?私でしたら、すぐにでも後継ぎを…あ、失礼」


貴子は、恥ずかしそうに笑う。


コウスケは呆れながらも


「とにかくお引き取りください。そして、母に伝えてください。『もう、このような事はお止めください』と」


貴子は、ふぅっと諦めたように息をつき


「分かりましたわ、今日のところはこれで。ですが、よく考えてくださいまし。これから、あなたに必要なモノが何であるのか?それを提供できるのは誰なのか。よく考えてくださいね」


念を押すように言ってから、メイドに包みを置いて行くように命じてから去っていく。


「ここに置いておきます」


メイドが、カウンターに風呂敷包みを数個置いてから一礼して主人の跡を追うかのように小走りで去っていく。


コウスケは、苦々しく包みを見つめて


「せっかくだが、これで処分しておいてくれ」


そう言ってから自分の席へと戻った。


イラつきは、最高潮になろうとした。


総務課内の空気が悪くなっている。


皆が困ったように顔を見合わせていた。


ただ一人…書類に没頭しているカナメの除いて。


コウスケは、しばらくカナメの様子を見てから立ちあがり、カナメの後ろに立つ。


「穂積君、ちょっと」


と、カナメの肩に手を置く。


「…はい」


カナメは、戸惑いながらも立ち上がり、コウスケの後を付いて行く。


二人が出て行くと、総務課内がざわめきだした。




二人は屋上に出た。


澄み渡るような青い空に、わたあめのような白い雲。


製薬会社という関係上、会社は空気の澄み渡った田舎にある。


かじろうて電車とバスが通っている為、社員は何とか出勤出来るのだ。


コウスケは軽く背伸びをして


「ここは、いい場所だね」


と言った。


「そうですね」


緊張しながらもカナメは答えた。


「私はね、将来、こんな田舎で過ごしてみたいんだよ」


「そう…ですか」


そんな事は、カナメには関係ない事だ。


カナメは、ドライに考えていた。


「…君はアオイと同級生だったね?」


「はい、そうですが」


「アオイは、どんな女の子だったんだい?」


カナメは、少し考えてから


「頭の回転がよくて、明るくて、優しい人でした」


言葉を選んで答えた。


「ふぅん、そうなんだ」


コウスケは遠くを見つめる。


H.C.C.に派遣に来た頃のアオイは、その通りの女性だった。


明るくて、優秀で、優しい。


飛び抜けて美人でもないのに、魅力的に見えた。


だが、コウスケと結婚してから4年の間にアオイは変わっていった。


まるで心のない人形のように…


いつも、怯えた顔をして目を合わせない。


母から、相当な仕打ちを受けているハズなのに、自分には一言も話さず黙って耐え忍んでいた。


だが、あの日から何かが変わった。


怯えた顔は変わらないが、目には生気がある。


しっかりと、自分を見据えてゆずれない一点だけは守り通している。


コウスケには、それが癪に障ってイラついてくる。


「あの…奥様は、大丈夫でしたか?」


カナメは、思い切って聞いてみた。


「え?アオイ?」


コウスケの表情が険しくなる。


「この前…階段から落ちそうになった時です。お子様はご無事なんですか?」


恐る恐る聞いてみる。


「あぁ、あの時ね…」


「すみません、余計な事を…」


「いや、いい。…子供もアオイも無事だったよ」


コウスケは、他人事のように言う。


遠くを見つめて。


「そうですか…それは」


「どうして君はそんな事を?」


「あんな場面に出くわしましたから…」


コウスケの問いにカナメは苦笑しながら答える。


「あぁ、そうだったね…そっか…」


そう言って、コウスケは遠くを見つめた。


「部長?」


カナメが声をかけると、コウスケはハッとして


「いや…なんだ…君に聞きたいんだ。君が知っている時代のアオイには恋人とかいたのかな?」


「は?」


「ちょっと、気になってね」


コウスケは、ジッとカナメを見る。


「さぁ、私は…そんなに話をした事もありませんし…でも、浮いた噂は聞いた事はありませんが」


カナメは、自然に答えた。


コウスケは、ジッとカナメを見つめてから


「…そう」


短く言い


「君と話せてよかったよ」


そう言ってから、コウスケは


「さぁ、仕事が残っている。戻ろうか?」


と、カナメを促した。







それから、コウスケのカナメへの嫌がらせは止まった。


どんな心情の変化があったのだろうか?


それは誰にも分からなかった。


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