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君と僕との秘密の日々  作者: 如月まりあ
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確信1

あの日以来、カナメにかかる仕事量は目に余るモノだった。


それをカナメは休みなしで仕上げ、何とか間に合わせていた。


だが、そんな体でコンビニのバイトは、かなりの重労働になる。


それは、店主であるイチロウやナギサにも分かっていた。


「しばらく、お前をシフトから外す」


出勤してきたカナメを事務所に呼び出して、開口一番にカナメに告げる。


「え?て、店長…」


カナメが動揺していると


「しばらく、体を休める事を考えろ」


イチロウが、さらに告げる。


「でも…」


カナメが何か言おうとすると


「最近のカナメは、無理のしすぎだ。会社で何があったかは知らない。だが、このままでは、お前、潰れるぞ」


真剣な表情でイチロウは言う。


確かに、今のカナメは、ヨレヨレの状態だ。


疲労が取れてないのか、目の下にはクマが出来ている。


「私達、カナメ君に何かあったら、嫌なの」


ナギサが心配そうに言う。


「あなたは、陽子やおば様から預かった大切な私達の弟みたいなもの。だから、もう無理をしないでほしいの」


懇願するように言う。


ちなみに陽子と言うのは、カナメの姉であり、現在は結婚して浅川陽子となっており、母と同居している。


「そうだ、お前に何かあったら、陽子ちゃんに対して申し訳ない。だから、無理はするな」


イチロウの言葉に


「すみません、迷惑掛けて」


カナメは、頭を下げた。


イチロウは、カナメを頭をポンポンっと叩いて


「何言ってんだよ。お前は、弟みたいなもんだ。だから、気にしなくていいんだよ。それに…」


そこでイチロウは、言葉を詰まらせる。


「お前には、幸せでいてもらいたいんだよ」


小さく重々しく言う。


ナギサも思わず顔を背けた。


「?」


顔を上げたカナメが不思議そうにしていると


「気にするな」


イチロウは、微笑んだ。


そこに


「テンチョー、お客さまでーす」


バイトらしき男の子が、店内からイチロウを呼ぶ。


「おう!」


イチロウは返事をして、事務所のドアを開ける。


「悠一郎!」


イチロウは、来客を中に引き入れた。


先日、イチロウを訪ねてきた男性だった。


悠一郎と呼ばれた青年は、カナメを見て


「…彼が、陽子ちゃんの?」


と、イチロウに問うた。


イチロウが、苦笑して


「あぁ、そうだ」


と、答える。


カナメには、意味が分からなかった。


悠一郎は、カナメに近づいた。


「はじめまして…じゃないよね。昔は、よく顔を合わせていたんだから。俺は、宮里悠一郎。覚えてる?」


その一言で、カナメは思い出した。


誰かに似ている…そう感じたのは当たり前。


アオイの実の兄なのだから。


アオイに雰囲気が似ている。


確か、カナメの姉と同級生だと聞いた事がある。


「あぁ、宮里さんの…」


「君の事は、妹から聞いた事があるよ。『とても優しい人』だと言っていた」


悲しげに悠一郎は言う。


(アオイ…)


もしかしたら、知っているのだろうか?


アオイの想い人がカナメである事を。


悠一郎は、微笑みを浮かべて


「アオイの事を、昔のアオイを忘れないでやってくれないか?」


と、問いかけた。


「え?」


その問いかけに戸惑う。


「悠一郎!」


イチロウが窘めるように言う。


「あ、戯言だから気にしないでくれ」


悠一郎は、また微笑む。


(絶対に忘れませんよ)


カナメは心の中で答えた。


あの儚げな感触を、忘れられるハズがない。


「カナメ、もう家に戻って休め」


イチロウが言う。


「…はい」


その言葉にカナメは甘える事にした。


店を後にするカナメを、悠一郎は寂しげに見つめていた。


カナメが見えなくなると


「イチロウ、ごめんな。余計な事言って」


悠一郎は、小さく呟いた。


イチロウは顔を背けて


「いや、俺達のせいで…アオイちゃんは…」


「アオイの事は、イチロウやナギサちゃんのせいじゃない。アオイが決めた事だ。そのお陰で、俺達一家は救われたんだから」


悠一郎は、自分を責めるように言う。


「でも…」


ナギサは、涙を浮かべて


「私が、あの時、日高家との縁談を受けていたなら、アオイちゃんは…もしかしたら…幸せに暮らしていたハズよ。もしかしたら、想いをとげて…カナメ君の傍で笑っていたかもしれないのに…」


と、言う。


悠一郎は首を横に振り


「ナギサちゃんのせいじゃない。あの話を受けていたら、ナギサちゃんが不幸になっていただろう?」


「でも…」


「ナギサちゃんが幸せでいるのは、アオイも望んでいる。今、お腹には跡取りがいるならば、少しは幸せになれるだろう」


複雑な感情であった。


妹が妊娠したのは、素直に嬉しい。だけれど、その父親は憎むべき男。


素直に喜べないのが実情だ。


イチロウもナギサも、悠一郎も真実は知らない。


アオイとカナメが結ばれて、そのお腹にはその証が宿っている事を。


「悠一郎君…」


「アオイの事はいい。でも、彼の事は…頼む。アオイが愛した、たった1人の彼が幸せであるように…」


悠一郎は、静かに言った。


アパートに帰り、部屋の電気を点けると、テーブルの上に置手紙があった。


アオイからの置手紙を思い出し胸が痛い。


カナメは、片あぐらで座り手紙を手に取る。


それは、母からの手紙だった。


『カナメへ


 元気にしてますか?


 最近、家に顔を出さなくなって心配しています。


 たまには顔ぐらい見せてくださいね。


 田舎の叔父さんから、野菜とか送って来たので、

 冷蔵庫の隣に置いておきますね。

 

 生ものは冷蔵庫に入れて置きました。


 そうそう、彼女とか出来たのなら、ちゃんと

 報告しなさい。


  母より』


カナメは、冷蔵庫の隣にある袋をチラリと見る。


「そっか、そんな時期か…」


小さく呟いてから立ちあがる。


冷蔵庫を開けると、チーズやら乳製品が入っている。


北海道で牧場と農場を経営している母の兄。


毎年、有り余るくらいの乳製品や野菜を送って来る。


(アオイにも、食べさせてあげたかったな)


カナメの体に、アオイの感触が甦る。


あの時、アオイを受け止めた時の感触が…


「…くっ」


悔しさから歯ぎしりを立てる。


あのまま抱きしめていたかった。


時が止まってしまえばよかったのに。


しかし、現実は、そんな都合よくいかないのだ。


アオイは、スルリ…とカナメの腕から離れて行った。


それに、絵莉花の話も気になる。


『お腹の子供、部長の子供じゃないみたいですよ』


『部長、子供が出来ないらしいです』


その言葉を信じるならば…


お腹の子供の父親は、カナメだという事になる。


そうだとしたら…


それは、【奇跡】だとしか思えない。


神の悪戯か?


…それとも?


二人の愛への褒美か?


だが、カナメは首を横に振り


「そんな事ある訳ないよな…」


自虐的に微笑む。


「さて、せっかく、イチロウさんとナギサさんからの好意だ。早く風呂を済ませて寝ようかな」


と、お風呂の腕まくりをする。


まずは風呂掃除だ。


しかし、お風呂は、キレイに洗われていたし、雑に置いていたソープ類も片付けられていた。


おそらく母であろう。


「…母さん」


その行為が、ちょっとくすぐったくも感じたが、とりあえずお風呂にお湯を張る。


よく見てみると、溜まっていた洗濯モノもいつの間にやら外で風になびいていた。


忙しさにかまけて、洗濯すらロクに出来ない状況だった。


母の世話好きは、たまに迷惑な時もあるが、こんな時はありがたい。


お湯が溜まるまで時間があるので、久々にコーヒーを入れる事にした。


冷蔵庫から豆を取り出してコーヒーメーカーにフィルターを敷いてから入れるようとするが…


ピタリ、と動作が止まる。


マスターである拓也の事を思い出していた。


本当に(えにし)というモノは不思議なものである。


アオイをかばって、コウスケを殴った啓介は、拓也の甥になる。


そして、アオイの夫であるコウスケは、カナメの上司になった。


あの日、雨の中で、カナメとアオイは再会したのだ。


そして、アオイの夫であるコウスケは、カナメの上司になった。


偶然にしては、出来すぎて怖くなってくる。


(そういえば、啓介君は、どうしているんだろうか?)


顔も見た事も会った事もない啓介に、何やら親近感が湧いてくる。


あの地獄のような屋敷の中で唯一アオイの味方でいた少年。


しかし、その少年は…


カナメに何の関係もないかもしれないが、怒りが湧いてくる。


アオイを、啓介を、そして、多くの人々を不幸にしている日高家。


だが、カナメに何か出来る訳ではない。


こうやって、人知れず怒りを燃やしているしかない。


そんな自分が情けなくて、嫌になった。


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