招待3
その少し後であった。
「そういや、今日、奥さまは?」
コウスケの周囲に、たむろっていた内の一人が、周囲を見渡しながら聞く。
コウスケは、すこしだけバツが悪そうに笑い
「アオイは、体調が悪そうだったから、今日は遠慮させているんだ。本人は、大丈夫だと言うけど、大事な体だからね」
「奥さまは大丈夫なのですか?」
コウスケは、笑顔を作り
「安静にしていれば大丈夫だから。本当に残念だよ」
遠くで聞いていたカナメは、かなりショックを受けていた。
アオイに会える…そう信じてやってきたのに…
しかし、周囲に悟られてはならない
「残念ですね。部長のプライベートを聞くチャンスだと楽しみにしていたのに…」
周りにいた一人が言うと、笑いが起こる。
カナメもそれに交じる。
誰にも悟られてはならない。コウスケの妻がアオイである事を知ってる事に。
…誰にも知られてはならない。
【ガチャ…】
ドアが開く。和服を着た中年女性が入ってくる。
…雅代であった。
その後ろには、若い女性が慎ましく控えていた。
「皆様、いつもコウスケがお世話になっております。コウスケの母でございます」
雅代は、愛想よく笑いながら頭を下げる。
「大したおもてなしも出来ませんが、どうぞごゆっくりとしていってくださいまし」
そう言ってから、チラリと後ろの女性を見て
「こちらのお嬢さんは、芹澤貴子さん。お父様は大手銀行の頭取を、お母様はデザイン会社の経営をされてますのよ。ご両親がぜひ私に花嫁修行をと、おっしゃってお預かりしていますの」
そう言ってから中を見渡して
「あら、アオイさんはいらっしゃらないの?コウスケさんの大切なお客様がいらっしゃっているのに。何を考えていらっしゃるのかしらね」
わざとらしい物言いだった。
「本当に…旦那様の大切なお客様がおみえになっているのに、顔すら見せないなんて礼儀を知らないのでしょうか」
貴子は、嫌味のように言う。
「そうだわ。貴子さん、皆様をもてなして差し上げたらいかがかしら?」
雅代の言葉に
「まぁ、そうですわね」
貴子は、笑顔で答える。
そして貴子が中に入ろうとするが
「貴子さん、ご好意は嬉しいのですが、遠慮していただけませんか?」
コウスケは、前に出る。
「コウスケさん!貴子さんに失礼ですよ」
雅代が、コウスケをたしなめようとするが
「誤解されているようなので言わせていただきますが、アオイが出ると言ったのを欠席させたのは私です。アオイは大切な体ですから。それに私が個人的に開いた席に、関係のない貴子さんに手伝っていただく必要はないでしょう?」
コウスケがやんわりとにこやかに言うが
「な…関係ない…って、貴子さんは…」
「お母様が個人的にお預かりされているお嬢様ですよね?」
「ええ」
「では、そのような大切なお客様にお手伝いしていただく事は、先方への失礼に当たりませんか?お母様?」
「貴子さんは…あなたの…」
「私の妻は、アオイだけです」
コウスケは笑顔で、きっぱりと言った。
「コウスケさん!」
雅代がコウスケに、くってかかろうとするが…
ドアが開く音がして
「遅くなりまして申し訳ございません」
雅代の背後から、綺麗な通る声がした。
「!!」
正面から見据えたコウスケ、振り返った雅代―二人ともが驚いていた。
そこには、淡いワンピースを着たアオイが立っていた。




