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君と僕との秘密の日々  作者: 如月まりあ
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監禁

アオイは、どんなに屈辱を受けようとも、カナメの名前を出す事はしなかった。


どんな苦痛も黙って堪えていた。


その態度は、コウスケの癪に障るらしく、さらに暴力を振るうようになった。


殴られようが、蹴られようが、罵られようが、アオイは、ただ黙って堪え忍んでいた。


アオイの生活は、コウスケの絶対な監視下に入っていた。


スマホは取り上げられて、外出も家族に会う事すら、許されない。


マンションの入り口及び玄関の前には、常にガードマンが張り付いており、室内には英子が、コウスケのいない昼の間は、アオイを監視していた。


たまに外出はあったが、コウスケと共に、仕事関係の接待でしかなかった。


(思い出があるから、私は生きていける)


アオイは、一秒たりとも忘れてはいなかった。


カナメと過ごした時間を。


そのすべてを…


その思い出だけが、アオイを生かし続けている。


今日も、ただ黙って外の景色を眺めている。


【コ、コン…】


ドアが鳴り


「奥様、お茶の用意が出来ました」


英子がドアの向こうから言う。


アオイは、ドアの方を振り向いてから


「わかりました、すぐに参ります」


まるで棒読みかのように、答えてから立ち上がる。


部屋から居間に出て、ソファーに腰を下ろすと、すかさず英子が紅茶とお菓子を出す。


「ありがとうございます」


そう言ってから、ティーカップを手に取る。


英子は、日に二度このようにお茶を出す。


アオイを監視しているが余計な事は口にせず、ただ黙々と家事などをこなしている。


居心地は悪いが、快適な生活などは諦めている。


いつものように、一日が過ぎるかに思えたが、今日は何やら玄関の方が騒がしい。


誰かの荒げる声がきこえてくる。


興味があるわけではないが、玄関の方へと視線を移す。


英子は、覚ったように


「騒がしいですわね。様子を見てまいります」


ササッと玄関に向かう。


「どうしましたか?」


玄関を閉めたまま、英子が尋ねると


「ここを開けなさい」


その声は雅代だった。


「先程より申し上げておりますように、旦那様から、大奥様であろうと中に入れてはならないと言いつけられております」


ガードマンらしき男性が言うが


「おだまりなさい!私は、コウスケさんの母親です!そのような必要はありません!」


強気な口調で雅代は言ったが


「旦那様からの言い付けですから」


ガードマンも譲らない。


「あなた、誰に向かってモノを言っているのか分かっているかしら?私は、あなた達の雇い主…つまりは主人なのよ」


雅代は、ガードマンを睨み付ける。


だが、ガードマンは…


「我々の雇い主は、コウスケ様です。コウスケ様の命令は絶対ですから」


と雅代に屈する事もなく答える。


雅代は、ドアを叩いて


「話にならないわ。そこに誰かいるのでしょ?早く開けなさい」


と、命令するが英子も


「コウスケ様より、誰も中に入れてはならないと言い付けがございます」


キッパリと答えた。


「私は、コウスケさんの母親です!早く開けなさい!」


「コウスケ様の命令です」


英子は答える。


雅代は、キッとなり


「わかりました。コウスケさんには私から申し上げて、あなた方を即刻解雇してもらいます!」


そう言ってからスマホを取り出す。


「あ、コウスケさん、私だけど。今、あなたのお宅までお邪魔しているのだけれど、わからず屋の人間がいて、中に入れないの……え?コウスケさん?それは…ちょっと、お待ちになって。『お帰りください』?…それは、どういう?…コウスケさん!」


電話は一方的に切られたようだ。


雅代は、ただ、ワナワナ…と震えている。


雅代は、ハッとなり


「…あの女ね?あの女がコウスケさんに、よからぬ事を吹き込んだのね?」


そうしてから、ドアを激しく叩いて


「出てきなさい!この性悪女!早く出てきなさい!」


だが、すぐにガードマンに腕を掴まれて


「お止めください。ご近所にご迷惑ですから…」


雅代は、ガードマンをキッと睨み付け


「黙りなさい!早くあの性悪女を出しなさい!」


恐ろしい剣幕で言う。


しかし、ガードマンは動じもせずに


「お引き取りください」


とだけ言った。


そして付け加えるように


「日高の大奥様の名を落とすおつもりですか?」


小さな声で言う。


雅代は、自分が取り乱している事に気づく。


軽く咳払いをして


「とにかく、ここを開けて中にいるあの女を出しなさい。責任は私が取ります」


と威厳を持って言う。


ガードマンは、仕方なく無線機を取って


「旦那様に連絡を取ってもらえないか?大奥様が、中に入られたいとの事だ」


そのしばらくした後、雅代のスマホが鳴る。


「あ、コウスケさん」


雅代の声が甘ったるくなる。


だが、すぐに顔を強張らせて


「コウスケさん?あの女に何を言われたの?…え?…そんな?…それでは、どうして?…そんな…コウスケさん!」


雅代は、携帯電話を持ったまま立ち尽くす。


だが、ハッと我に返って


「あなたが、そのような事をなさるなら、私にも考えがあります。後悔しても遅いですからね」


ドアの向こう側にいるであろう、アオイに突きつけるように言ってから


「失礼させていただきますわ」


凛とした様子で去って行く。


ドアの向こう側にいたのは英子であったが、胸を撫で下ろしてから、居間に戻った。


「大奥様ですか?」


恐る恐るアオイは聞いた。


英子は、微笑みを作り


「大変申し訳ございませんが、今日はお引き取りいただきました」


簡潔に答える。


アオイは、顔を曇らせて


「そんな事をしたら、旦那様から…」


と、声をひそめて言うが、英子は微笑みを崩さすに


「いいえ、旦那様からのお言い付けですから、心配はございません。それに旦那様から大奥様に直接お伝えいただきましたから」


と答えた。


だが、アオイには不安が残った。あの雅代の事だから、家に入れなかった事でアオイを逆恨みしているはずだ。


ドアを激しく叩く音や叫び声も聞こえていた。


十中八九、近い内に雅代から何か仕掛けてくるだろう。


グッと拳を握る。


英子は、アオイの様子を悟り


「大丈夫ですよ。きっと、旦那様が大奥様に取り計らってくださいますから」


笑顔で言うが、アオイには信じられない。


これまで、コウスケや雅代から受けてきた仕打ちは、あまりにもひどいのだから。


それに、コウスケはアオイが怪我をしていても、雅代が『転んだ』と言えば疑いもしなかった。


ここに監禁状態にあるお陰で、雅代からの執拗なイジメには遭わないで済んでいるが、アオイを監禁しているのは、二度と家出をさせない為であろう。


自分の監視下において、支配する為。


その内に雅代からの命令で、屋敷に戻る事になるであろう。


また…あの日々が始まる…


考えただけで恐ろしくなった。


同時に短い時間だった、小さな幸せを思い出す。


(アオイ、ダメよ。自分で決めたの!みんなを守る為には、こうするのが一番なのよ)


溢れ出しそうな感情を抑える。


瞬間…


目の前の景色が、ぐにゃりと歪む。


ほんの一瞬であったが。


それに、数日前から胸焼けみたいな感じがしている。


「うっ…」


アオイは、口元を押さえた。


何か吐き出しそうな感じがしたので、慌てて洗面所に入る。


何度か吐き気に襲われながらも、ようやく落ち着いて居間に戻ると、英子は


「まさか…」


と呟いた。


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