阿修羅観音・リュウセイ
──夜だ。
パレードが始まる時間。
太陽は沈み月が祝福の起こす時間。
太陽を信仰する帝国への敵対を意味する夜のパレードは、建国以来一度も変わっていない……らしい。
「セト、そろそろ俺は」
「わかってるよソル。おやすみなさい」
太陽王も例外ではない。
ソルは太陽がない時間帯に活動するには私の魔素をすごい勢いで消費しないといけなくなる。
それは体を使おうと使わなかろうと関係なくだ。
その状態だと純魔の血を持つ私であっても5分と持たない。
だからソルは太陽が沈むと同時に寝ることでそれを回避している。
1人の時間というのはいつも物悲しい。
お互いの時間ができるといえば少しは聞こえがいいだろうか?
普段ならソルが寝て数十分もしないうちに私も寝るのだが…今回に限っては例外も例外。
お金があって祭りが開催される?そんなの遊ぶしかないよね。
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イカ焼きにゲソの丸焼き。
おスシに車海老の丸揚げ。
海に面してる都市なだけあって海鮮ものが多い。
もちろんどれもこれも美味しいのだから文句はない。
この美食の中でも格別ゲソは美味い。
このオメンというのもなかなか良い。
オメンの屋台のおっちゃんによれば、これは都市国家ツバサの伝統芸能らしい。
ツバサからの使者は今日来ていないが、パクス・ユニシアの一員ではあるとかなんとか。
食事を楽しんでいた頃。自身のいる場所へと新王たちパレードが向かって来ているのが見えた。
どうせだ。新たな王のツラを確認しておくのも一つだろう。
──もうすぐ新王が見える位置まで来る寸前。
月明かりが消え隠れる。今日は快晴つまり雲の移動による一時的な暗闇などではない。
月の光を隠すほどの大きな物体か何かが……
「上にあるはず!」
咄嗟に空を見上げる。
雲はやはり無い、なのに真っ暗……その正体が空を泳いでいる。
「煌冥竜っ!」
煌冥竜。
竜種の中でも希少な冥竜が特殊な環境下で煌めきを手に入れた特殊個体。
神話には外より攻めて来た異獣を虹の炎にて全て焼き殺し、王都を救った竜であったとされている。
しかし竜狩りの時代とともに姿を消したはず!
なぜ今、この瞬間に…この場所で現れたんだ?
──そんなことを考えさせてもくれぬよう、煌冥竜は地へと降り、その背中に置いてある2人を地面へと降り立たせた。
「さて、"オルクス"はどこだ?」
「俺は美味そうな人間を優先する。邪魔すんなよ」
片方は周りをキョロキョロ見渡してるチビ。
もう片方は真っ黒なスーツに身を包む全身が綺麗な男性。
あの2人…誰だ?見たことは無い。
グランヴァハトを従えるなんて荒技…そんなことが行える人間がこの世にいるのか?
「…お、おおお?おー?君は美味そうじゃないか!ほら腕を出して!食べさせておくれよ!」
「いやぁぁぁぁぁぁっ!」
スーツの男が1人の女性を捕まえる。
あいつ!食う気かよ!
「オド・マグn……」
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
──元々、このパレードの襲撃を上層部は事前に知っていた。
それでも決行した理由はする他に無かったから。
普段であればわざわざ他国からの使者が阿修羅観音や剣鬼である必要はない。
それに新王はパレードにいない。今居るのは影武者だ。
つまり、この事態を最大限に被害を出さずに終わらせるための布陣をすでに終えていた。
「おい、食人族!俺が相手になろう!」
「ぐぁ…がっ…」
女性を食おうとしてる男の頭を"3本の腕"で押さえつけ、投げ飛ばす。
「民間人は避難しろ。俺が背中を守る!」
「あ、あ、あ、ありがとう…ございますっ!」
「おいおい、いきなり頭を掴んで投げ飛ばすとかどういう教育受けてるんだよ?」
「ふん、食事の流儀を知らぬガキを躾ける折檻だ。」
獲物を持っているようには見えない。
身体に着ている服も普通に見える。
……じゃぁなんで投げ飛ばされた先の地面がナイフを突き立てられたように斬られていて。
鉄の塊が落とされたように大きな凹みができているのに。
……あいつは無傷なんだ。
「名乗っておこう。ソレイユ連邦、阿修羅観音リュウセイ」
「悪魔会ソロモンの一柱、29位アスタロト」
悪魔会。
帝国にもパクス・ユニシアにも属さない世界を荒らす第三勢力。
ソロモンの一柱だと?悪魔会の存在が認識されてからこれまで一度としてその名を聞いたことない。
未知の相手だ。
「こいよ。食人族。」
「ああ、お前も美味そうだからな。」
「無駄な腕食って、人族にしてやるよ!」
「俺は生まれつきの多腕族だ」
壁や地面…空まで蹴って飛び回っている。
見た目とは裏腹に動きは獣のように不規則で欲望剥き出しだ。
悪魔会の奴らは皆悪魔と融合している。
故に普通の手段じゃ倒せない奴がほとんどだ。
さっきの手応えといい、悪魔会の襲撃とは…とんだハズレを引いたもんだ。
「貴様相手に出し惜しみなどする暇もないか。」
背中に担いでいた二振りの夜断ちを取り出す。
夜断ちはソレイユの名匠が俺専用に作り出した大鉈。
特徴はその超重量と特殊な持ち方だ。
一本持つのに3本の腕を使う。本来の下の持ち手に加えて刃こ反対側に空いている隙間で上側の重量を支える。
一般人が持とうものなら重さに潰されるか、ひっくり返るのが関の山だ。
「阿修羅観音の本気を見られるなんて光栄だね!」
「悪魔ごと断ち切ってやる」
感覚を研ぎ澄ますんだ。
相手がどこにいるのかを見極めろ。
壁や地面、空さえも蹴り跳んでいようとも、向かう方向そのものは物理法則に反していない。
蹴った反動の方向へ直線的に進んでいるのに変わりはない。
俺に向かってくる瞬間、こちらを向き足は俺の反対を向いている。
「食ってやるよ!」
「握撃『地抑え』!」
握撃『地抑え』。
突っ込んできた敵を掴んで地面に叩きつける技。
普通の人間なら武器を捨てないと使えない技だが、俺は腕6本使ってもあと2本、腕が残っている。
「さぁ、処刑執行だ。断首撃!」
「君、また触れたね?」
何か言ってるのも気にせずに首向けて夜断ちを振り下ろす。
普段ならこのコンボで勝てる…受けた相手は皆死んだ。
こいつも例外ないはずだった。
「……感触がない。断首をした硬い感触が」
夜断ちはなんの抵抗もなく地面に叩きつけられた。
それはつまり、握撃から抜け出したことになる。
……どうやって?
「アドレナリンがドパドパ出てる君に教えてあげるよ。」
「僕を掴んだ手を見てみな?」
アスタロトを目線から外さぬよう、自分の目線の前に手を持ってくる。
──多腕族の腕は通常の人間よりも硬い。
それは元来、山岳で暮らす多腕族が山の岩を掴んで登ろうとも怪我をしないための進化であった。
「…俺の手が爛れて溶けているだと……?」
「僕の体皮は人間には毒なんだよ。焼けるような猛毒」
「でも良かったね、毒が効いたってことは君は人間だ」
「嬉しい知らせだな。」
「残念な点があるならすでにそれは知ってるってコトだな!」
夜断ちを構え直す。
握撃はもう使えない。
夜断ちを持ってない手はもう使い物にならないだろう。
観音様が居てくれればな。




