ベガ・フォン・アーノルド
「さて、オルクスはどこだ?」
──パレードは止められなかった。
もし止めてしまえばそれはパクス・ユニシアの崩壊を意味する巨大な祭事であり式典からだ。
延期も出来ない。世界を統べる大王国の宿命はその責任の重さだ。
そのために自分が居る。
出来損ないなりに秀優の称号を手に入れた自分は、この時のために生きている。
それが女であるだけで蔑まされた私、剣鬼ベガであった。
今でも女であることは隠している。
剣王の名前もオルクスの名前も継げないのは私が女だからだ。
男を立てられないカスみたいな女だから、この任務は完遂しなければいけない。
これ以上剣王の家系に泥を塗りたくない。
「オルクスはまだ継いでないが、その名の一族は私が居る」
「あ゛?なんだテメェ」
「ベガ・フォン・アーノルド。オルクスの名を受け賜る剣王の一族だ。」
「剣王の一族って、お前剣鬼じゃねえか。オルクスだって名前についてないじゃねえか」
「まぁいい、準備運動だ」
相手の獲物は…小太刀と太刀の二刀流。
ずいぶん小柄だ。長い布のローブとサンダルだけの質素な格好…貧民街でよく見る服装だ。
煌冥竜を使役していたのはこっちの方の力なのだろうか?
それとももう1人…阿修羅観音様が相手してる方の力?
「改めて名乗ろう。剣鬼ベガ・フォン・アーノルド」
「悪魔会ソロモンの一柱、70位セーレ。盗人セーレ」
悪魔会…。
ルーツ騎士団と化け物狩りの協働で悪魔会の拠点襲撃を行ったことがある。
その時にはソロモンなんて奴には会っていない。
あの拠点は偽物だったのだろう……今更そんなことを考えても意味はないか。
「いざ尋常に」
「卑劣上等で」
「「勝負!」」
動きは単調で直線。ただ突っ込むだけと見える。
相手は二刀流だが、私の剣の方がリーチは長い。
先端で戦う意識をするだけでいい。
「喰らえ!必殺の大薙!」
予備動作もどこを狙ってるかも丸わかり!
こいつ、剣の扱いはド素人!
弾く必要もなく先に攻撃を叩き込める。
「ふっ、今僕のこと舐めたね」
「え?」
「悪戯心」
「がっぁ!?なん、で!」
考えるより前に剣を振り相手と距離を取る。
私はこいつの横っ腹を斬ろうとした。
だが、今現在横っ腹を切られているのは…私だ。
あいつの能力は…攻撃の反射?
そしたら討伐どころか戦うことすらままならない。
私がどうにかできる相手なの?
折れるなベガ。負けるなベガ。まだ一度食らっただけだ。傷も浅い。
──剣を鞘に納め紐で鞘に固定する。
もし、攻撃の反射なら斬撃は致命傷になる。
だからここからは撲殺するつもりで、戦う。
「おいおい、騎士サマが剣を敵の前で仕舞うとか」
「お前、舐めてるだろ」
「至って本気だ」
「……確かに本気らしい」
もう油断はできない。
オルクス…剣王の家系にこれ以上泥は塗らない。
兄様や弟たちのために。
「戦い中に考え事とか僕を舐めてるよね!」
「ちゃんと意識してるさ!」
上から飛び掛かってきた彼に向けて鞘付きの剣の突きをお見舞いする。
そんなに小さくても自身の体重が剣先に集中すればそれだけで大ダメージのはず!
「やっぱ舐めてるじゃねえか。」
「ぐっ……ふーっ、鞘は付けておくべきね。」
腹を強打された痛み。
やっぱり反射だろうか。
私の攻撃が全てフルオートで反撃されている?
けど気になるのは、反射する前に必ず聞く"舐めてる"という言葉。
発動条件に関係がある、と考えるのが自然。
しかし、それを狙ってのブラフの可能性も?
最初の攻撃なんかは完全に私を油断させるためだった。
「自信を失ってるでしょ。剣鬼サマ♪」
「まだ、失うには早すぎるかな」
先2回の攻撃とも、私が後手に回っていた。
こちらから先制攻撃を仕掛けてみよう。
「は、はや!」
対面で向かい合える距離なら一瞬で詰められる。
懐に入り込み、足に向けてローキックを叩き込む。
「僕が速度を追えないからって舐めたな?」
足に力が入らない。立つこともままならずに地面に膝をつく。
入った。そう確信をしていた。
…舐めていた。心の無意識での慢心じゃない。
心が、脳が信じきっていた。相手にダメージが入ったと。
「もう終わり?剣鬼も大したことないね!」
「あ、あ、あ、っ!?がぁぁっ!?」
太刀が私の背中を斬る。
熱い、痛い寒い。
「痛っっっったぁ!」
痛みに駆られて咄嗟に…脊髄に身を任せて、手に持った剣を振るう。
空を斬るか、反射されて痛みを負うだけだとそんなことわかるのに振らずにはいられなかった。
「お前!?僕のことを舐めてないっ!」
けどその諦念の心をへし折るように私の攻撃はあいつの横腹に叩き込まれ、あいつは吹っ飛んだ。
反射はフルオートでも無条件でもない。
条件があって、それを満たさなかったさっきの攻撃はあいつに当たった。
「舐める…舐めてない……」
ほぼ確信に変わった。
あいつは相手が舐めてることで反射が発生する。
私はさっき痛みに耐えながら決死の思いで当たらないと思った攻撃を仕掛けた。だから当たった。
だいぶ天邪鬼な能力だ。
だが、カラクリがわかったところでどうする。
当たったと思ってしまうだけで反射される。
「痛い痛い痛い痛い痛い。痛いよー。うわーんっ!」
「お前の紙芝居にはもう付き合うつもりはない。」
「痛くもないんでしょ?」
「立てよ卑怯者。そのひん曲がった根性叩き直してやる!」
「たまたま当たっただけの攻撃でイキがるなよ!」
「どうせ剣王の一族の出来損ないの癖に!」
「だから、!ここでお前を倒して認めてもらう!」
そうだ。たまたま当たっただけの攻撃だ。
次はそのたまたまを致命傷にしてやる。
「もう許さない!悪意に変わった悪戯心!!」
「もうお前は攻撃することなんかできn」
「オド・マグナ!」
──あいつが何かを言おうとしたところで、それを遮るように空から降ってきた血族の魔術があいつを吹っ飛ばす。
あいつが吹っ飛ぶと同時に、私の目の前に白髪の美少女……いや美女が降りてくる。
その見た目は剣王…オルクスの一族にそっくりで、直系の母様のようにも見える美貌。
「誰だぁ?次はよぉ」
「セト・オルクス!」
「あんたの探し人だ!」




