王都コルニアス
「目を開けろ。着いたぞ」
どうやら、転移はうまく行ったらしい。
ソルの声を聞き、ゆっくりと目を開ける。
「ここって……!」
赤い屋根、私の肌の色によく似た色の壁。
どこもかしこも似たような形の家々。
そして、中央に聳え立つ8本の塔に囲まれたお城。
間違いない。間違えるわけがない。
「王都…コルニアス!」
「ここが、コルニアス…?」
「あんな辺鄙な農村だったコルニアスだと?」
「ソルの生きてた頃の王都は違ったの?」
「ああ、俺の頃はもう少し東にあったレオニス・シータって場所だ」
「レオニス・シータ…」
聞いたことのない地域の名前だ。
それにコルニアスはユニシアの際極東。
帝国から最も離れた場所であるはずだ。
これ以上東はない。いや、一応海はあるにはあるか。
けど、海しかない。レオニス・シータなんてものが立つ隙間があるとは思えない。
「名前が変わった可能性は?」
「わざわざする必要あるか?」
「それにシータは城下町の外にゃどでかい隔離街。」
「地下には旧市街が広がっていた。」
「旧市街はさておき、どでかい隔離街を壊してるとは思えないな」
「そっか。」
レオニス・シータについては一旦おいておいて、これからどうしようか。
まずは寝床が必要かな。
いや、その前に戦闘で汚れた服が先か。
どこかのお家に押しかけて〜とかは出来ないし…。
出来ることなら戦って稼げる仕事が天職。
それまではオドの魔術書を売ってでも繋ぐか。
「ずいぶんと賑わってるな。」
「だねー、去年よりも馬車の出入りが激しいみたい。」
街を散策していると大量の馬車を見かける。
街の人たちはそれを当たり前の光景のように気にしてないのだし、この交通量が王都じゃ当たり前なのだろう。
──そうこう歩いている間に目的地へと着いた。
魔術書店…魔術書を専門として売買をしているお店だ。
ここでならオドの魔術書もお金に換えることができる。
店の扉を開けて、中へ入る。
こんな場所に入るのは一年前じゃ盗みがためだ。
しかし、今は真っ当に金を得るためだ。
…あの家から盗んだ本じゃないかだって?
あの家に住んでたのは私だ。
「すいませーん、この魔術書を売って欲しいんですけど」
誰もいない…?
ずいぶん暗くて先が見ずらい。
扉が開いてるから入ったが…もしかしてまだ開店前なのか?
「あ゛ーんだよ。忙しくなる前に人が気持ちよく寝てたのによ」
良かった。
全く忙しくなさそうな店員が寝てるだけだった。
めちゃくちゃ人相は悪いし接客態度最悪だけど、開店はしてるらしい。
「オドの魔術書を売りに来た」
「・・・ぷっ」
「だーはっは!あはははははは!オ、オ、オドの魔術書だって?」
「ばかも休み休み言え、そんな一級品をお前!お前みたいなガキが持ってるわけないだろ!」
この店員、マジで接客態度最悪。
絶対高くふっかけてやる。
「いや、持ってるよ」
オドの魔術書を取り出して、店員に見せつける。
さっきまで大笑いしていたのが嘘のように、その魔術書をマジマジと見ている。
「………ほ、ほ、本物だと?」
「精巧に作られた本物……ってわけでもない」
「さっきは笑って悪かった!言い値で買おうじゃないか」
手のひら返しが早いな。
言い値でいいのか。ふーん、そんなあっさり交渉を放棄するってあたり、この店員…バカだな。
「星鉄金貨5枚」
──星鉄金貨。
民間人が持つ中で最もグレードの高い硬貨だ。
1枚でも最も安い銅貨100,000,000枚分
星鉄金貨の一個下の金貨でも100枚分
星鉄金貨が一枚あれば半年は仕事をせずに生きていける。
──だいぶ高くふっかけたが応じるしかないよな?
「ぐっ……い、いいだろう。買ってやる」
「なら星鉄金貨を見せろ。5枚分きっちりとな」
「星鉄金貨は4枚しかうちにはない」
「は?なら交渉はなしだ」
「いやいや、待ってくれ。星鉄金貨は4枚しかないが、金貨100枚はある。」
「そんな大量の金貨を持っていても盗まれるだけだ。」
「星鉄金貨じゃ軽食を買うのにも苦労するぞ」
「お釣りが出せなくてな」
たしかに、10銀貨程度のものに星鉄金貨を渡すのは趣味の悪い成金がやることだな。
小銭で金貨100枚より大量の貨幣を持つことにもなる。
「わかった。星鉄金貨4枚と金貨100枚でいい。」
「交渉成立だ。ついでにこれもやるよ」
「これは……袋と紐?」
「銭差縄って代物でな。貨幣の入ってるケースを束ねる縄だよ」
「この袋は?」
「銭差縄を入れる袋だ。銭差縄だけ持ってたら盗んでくださいって言ってるもんだろ」
オドの魔術書を除いてほぼ手ぶらだったからこれは普通に嬉しい。
これで服も買える。ついでにもっと高いところで持って来れなかった。
コルニアスの祈祷や、
神龍の星暦。
あとは他の適性の高い…死者の嘆きに
赤蝶の花鱗粉
…そこら辺の本を買いたいところ。
「まずは服だからな?セト」
「わかってる。お高い店にこれじゃ入れないのは知ってるから」
まずは服屋に向かう。
幸い王都の作りは直線的でわかりやすい。
中央に伸びる大通りを進めば自ずと服屋を見つけられるだろう。
そんなことを考えて歩いている時だった。
「お、おい!あれってソレイユ連邦の阿修羅観音リュウセイじゃないか!?」
「あの人の姿を二度も見られるなんて…」
「あっちには化け物狩りのリネア・ネクタだぞ!」
「あの傷…さっきも征伐に行ってたらしい」
「うわ、あいつもいるよねそりゃ…」
リネア・ネクタ…ついさっき私が負けた相手。
顔は覚えられてるだろうか。
とりあえず服だけでも変えて身なりで別人に見えるようにするまでは顔を見られるわけにはいかないな。
「おいおい、大盤振る舞いかよ。ルーツ騎士団の剣鬼ベガ・フォン・アーノルドじゃねえか!」
ベガ、阿修羅観音。この感じからリネア・ネクタも各地域の強者や世界に名を馳せる絶対的実力者。
普通こんな奴らが集まれば人々は怖がるもんだろ。
なんで興奮してる?まるで集まる理由を知ってるようで…。
「不思議そうな顔だな。嬢ちゃん」
「お前は、さっきの店員!?」
「これから何が起きるか知らないんだろ?」
「ああ、知らん」
「あれはな、新王戴冠式に集まったんだよ。」
「たいかんしき…?」
「戴冠式ってのは、新しい王を祝福する行事みたいなもんだ」
新しい王?
つまり前の王は辞めたのか。
新しい王を祝福するためにあんな強者が集まるってよくわからないな。
ここじゃ当たり前なのか?
「パクス・ユニシアの新たな王誕生だ。」
「各々の国家が再度平和の前に服従することを全国民に見せるための儀式でもある」
「帝国はいないんだね」
「帝国はユニシアの叛逆者だとお前がいったんだろ?」
「ソル!どこ行ってたのさ」
「寝てた」
街を歩いている間出てくることなかったソルがぬるっと出てくる。
やっぱり帝国はユニシアの敵なんだな。
敵に対して服従する儀式なんてできない…か。
「さて、夜に備えて準備に戻るか」
「夜に何かあるの?」
「…パレードだよ。新王が王都を馬車で巡り国民と触れ合うんだ。」
「当たり前だが街は大盛況する。」
パレード…なるほどお祭りか。
忙しくなる前に寝てたってのはそういう意味でのことか。
良いことを聞いた。早く服を買って夜に備えないと。
お祭りってことは沢山の食べ物が売られるはず!
──この時私は知らなかった。
身なりを整え、お金を換金して、魔術書を買い漁っていたこの時間が今日最後の平穏になることを。
パレードで起こる悲劇と政略の渦を




