激動の森
「どうしたどうした!避けるので精一杯か!」
ソルの指示を頼りに体を動かし、攻撃を避けていく。
目を瞑ってる私に当たらないようじゃ、相手にならないかな。
「……!飛べセト!」
地面を蹴って宙を舞う。
刹那、足元を薙ぎ払うように炎が広がる。
魔術師もやっぱりいるよね!
「着地した瞬間この炎はお前を焼き尽くすぞ!」
「なら、炎の範囲外に行かないとね!オド・マグナ!」
両手の人差し指を伸ばして、2魔術師に向けて血で作られた弾丸を放つ。
オド・マグナの反動は強烈だ。
普通に撃つと腕がひん曲がること待ったなし。
なら、耐える足場のない空中ならどうなる?
──予想通り、反動を受け流せない体はそのまま宙で吹っ飛ばされ炎の範囲外に落ちることができた。
「お前、血族の魔術使いか。」
「2人とも大丈夫か!」
「大丈夫っ!けど相方は無理そう」
ソルが言うにはどうやらオド・マグナに当てられた魔術師の左腕は腕が吹き飛び、その激痛で意識を失ったらしい。
もう片方は頑丈なことにガードして耐えたようだ。
「まずは1人、どう?帰る気になった?」
「残念だが、腕の仇を取ってやらないといけないみたいでな。」
やはり、対話の意思はなさそう。
正義に燃える彼らに痛みは逆効果なのかな。
と言っても、やるしかないわけだ、それ以外の交渉カードがあるわけないのだから。
「そろそろ本気で行くか」
「今のが本気じゃなかったの?」
「3人で本気とか舐めプも甚だしいと思わないのか?」
…戦ってから残りの5人を見てない。
何か策があるってのは理解してる。
理解してるからなんだっていうんだ。
それが何かわからないのなら、意味はない。
「セト!しゃがめ!」
ソルの言葉より早く体を下げる。
風を切る巨大な鉄の塊の音。
その音が木々を掻き分けながらこちらにやってきていた。
弓…いや、大弓か。
扱うものは少ないって話だったでしょ!
あの5人はどこに展開してる。
そっちから潰さないと圧倒的不利!
「この森は私たちのテリトリーとなった!降伏しろ。血族の魔術師」
「悪いけど、それはこっちも無理かな!」
ここから離れないと、離れなきゃ確実にやられる。
地面を蹴り、木々を盾にしながら、次々放たれる大矢を避けて包囲網を突破しようとする…が。
「セト!ターン!」
動き方がバレてる。
木から少しでも体を出そうもんならすぐに矢が飛んでくる。
それに、
「ほらこっちも付き合えよ!」
「うっさいストーカー!」
あのうざったいリーダーの執拗な追跡が包囲網突破の邪魔をしてくる。
詰みな盤面……どこか、どこかに穴はないのか?
1人倒れてるんだぞ、その分の穴があってもいいじゃんか。
「逃げてばっかじゃ面白くないじゃないか!」
「やってられるかってんの、」
「イグナーヴァス!」
オドの力場の最も基礎的な魔術、イグナーヴァスは相手の視界を奪う。ただそれだけの魔術。
穴がないなら、穴になりそうな場所を掘ればいい。
崩すべき場所は少しガタついてる魔術師!
「はぁっ、!はぁ…!見つけた!勝ち筋!」
ここなら目を開けられる。
私の目を見た彼女は蛇に睨みつけられたカエルのように、腰を抜かしてただ後退してる。怖がっている。
小さな子供のように、恐怖している。
「……私だって征伐隊の1人だ!」
「征伐隊の中でも弱そうなあんたを倒す。恨まないで……
「ファイガ!」
私が言い終えるよりも前に顔の横を炎が掠め通る。
髪の毛を少し燃やして通り過ぎたそれを見ることもなく彼女に向かって歩みを進める。
「ファイガ!当たれ!あたれ!当たれよ!なんで当たってくれないんだよ!」
ただまっすぐ歩いてるいるだけなのに炎はただ横を掠めて通る。
まるで人混みを逆走してるかの如く避けられる。
いや、当たるつもりも当てるつもりもない不干渉、無関心。
「なんでかって?そりゃお前、殺す覚悟がないからだろ」
「来るな!来るな!来るなぁ!……」
私のことを見ようともせず、ただ炎を撒き散らす。
森が焼けるから、このぐらいで眠らせておくか。
「助けてよ…助けて!」
──此処についてから大矢がいつまでも飛んでこない。
木と私の位置関係的に狙撃は簡単なはずだ。
それなのに一矢も来ない。
これじゃぁまるで…こいつ。捨て駒じゃねえか!
「なんで、なんで私ごと貫きすらしてくれないのかな…」
「…捨て駒というか囮か。」
「悪いね。これ以上熱いのは勘弁だから」
「オド・マグナ」
指から放たれたその血の弾丸は、ただただ無慈悲に無邪気なまで直線的に、そして…悲しいほどの殺意で彼女の右腕を吹き飛ばす。
「あ、がっ……このっ、」
「人殺しが!」
「酷いな、まだ殺したことはないぞ。」
地面を踏む音が的確なまでに聞こえる。
草木を潰し、小さな命を気にしない傲慢な音が聞こえる。
「遅かったね、ストーカー。遅すぎて別の女に手を出してたよ」
「……前衛のくせにこんなんじゃ情けないな。」
「2人捨て駒にして何を為すつもり?」
「化け物退治」
大弓持ちの5人がどこにいるか、それがまだわからない。
魔術師を囮にまでして、何をするつもりだ?
「この森が決戦の地って聞いた時ずっと考えてたことがあるんだ。」
「策を教えてくれるのか?」
「ここには猛進の巨群の棲家だってな」
「………あの5人はまさか!」
確かに此処には猛進の巨群の住処がある。
今は休眠状態のはずだろ!
そんな時に巣を突いたとしたら森の果てまで全てを薙ぎ倒しながら敵を追いかけるだろう。
道中の生物は皆例外なく死滅することになるぞ。
そんな、そんな狂気的な選択をするか?普通
「巣を突いた。」
「ばっ!」
「更地にされるその瞬間まで踊ろうぜ」
「私と一緒に心中してくれるの?」
「俺らは街に飛ぶ魔結晶があるお前はないだろ?」
「妬ましいほど大正解、だから終わりまでに奪う!」
──地面を蹴り、 攻撃を仕掛ける。
今は遠距離でチマチマする暇はない。
接近戦でぶっ倒して奪う!
そして戦いながら大体どこにあるかを見つける。
「オド・リーパス!」
指先に溜めた血液が爆ぜる。
オド・リーパスは弾けた血による高速攻撃!
当たれば針のように動きを鈍くしてくれる。
「当たるか!」
──手に持つ剣を地面に叩きつけ、そこを支点に宙に跳ね上がる。
討伐隊のリーダーだけあって流石に規格外だ。
1人の方がこいつ強いだろ!
「くっそ!なんだよその動き」
「どうした?追撃はしなくていいのか?」
「ああ、するとも!」
だがどうする?あの規格外な動き。
マグナやリーパスのような技じゃ捉えることすら困難と言わざるをえない。
あの刃物には慣れてきた。目は開けられる。
だが、猛進の巨群というタイムリミットの焦りがあるせいか、それともこいつの強さへの焦りか。
動きが一段と悪い。
ソルならどうする、ソルなら!
「セト、逆転の秘策がある」
後ろから頼もしい声が聞こえる。
私が最も信頼する彼女の声が。
「遅いよ、王様」




