46・引越しは何回する?
今日はマチハルくんの引越しの日。
実家を愛人に明け渡すべく、一人暮らしを始めるのだ。
昨日、軽く手伝うだけのハズが、結局泊まり込みになってしまい……。仕事が忙しくて荷造りが…!ということで…。
引越し業者も手空きの時期で、引越し作業はスムーズに終了する。
「こうして二人はいつまでも幸せに暮らしました」
「めでたしめでたし、ね」
ジンと晴美さんはソファでひと休みの体。暖房はひと足先に取り付けてもらったそうで、引越し当日から暖かくて、その気の利き具合にもやっぱり感心する。11月も半ばを過ぎると、暖房が嬉しい。
「ここからは、ハルミと俺の物語だな」
「また別の話ね」
「そんなクールなハルミも堪らなく素敵だ。一生そばに居ます」
「まぁ。さすが炎の精ね。情熱的〜」
「俺の愛は燃えつきない炎だぜ?」
「ふふふ、ガス油田並みなのね」
切れ味は相変わらずの晴美さん。
無事、協議離婚で決着がつき、既に離婚届も提出、受理されている。晴美さんは名字を結婚前のものに戻し、実家へ引っ越した。なお晴美さんのご両親は海外で現役の研究者とのこと。
「ちなみに財力も…」
そう言って親指と人差し指を擦り合わせるジンに、海外ジンなんだな〜と思う。
「あら、打算まみれの愛になるかもよ」
「許すよ。俺の愛にまみれてくれ、ハルミ……」
ナチュラルに晴美さんの頬をなでて、そのまま近づくジンーー
「「はい、そこまで!!」」
私とマチハルくんの声が被る。
「引越しの手伝いに来たのじゃないのか!」
「しただろ、手伝い」
「だからって何、ソファで口説いてんだ」
「バカ、口説いてない、求婚だ」
「「なんだってー!?」」
思わずマチハルくんと同時に叫ぶ。
ジン…さすがラテン仕込み…。
この煙の精が居たハーレムとは、アンダルシアにあったものらしい。彼はラテンの男(人外)なのだ。
ベビーシッターもアンダルシア産のワインひと瓶で引き受けていたとか。そういえばワインの蘊蓄を語ってたけど、聞き流して覚えていない。
そして晴美さんはやっぱり晴美さんで。
「ジンくん、その続きはまた後でね。
マツリさん、引越し蕎麦、冷蔵庫に入れてあるわ。二人で食べてね。
マチハル、昨日あなたが作ってた冬瓜のポトフ、食べなかったの?鍋ごと持ってきたみたいだけど」
あのポトフ、マチハルくんの手作りだったの!?ひょっとして、あの時の冬瓜だったとか…?
ジンが晴美さんの耳元でささやく。丸聞こえだけど。
「ハルミ、ヤボだぜ。マチハルは違うものを食べてたんだよ…」
「あらやだ、私としたことが…。ふふふ。
もぉ〜二人で住んじゃえばいいのに!」
「ホントそれ〜。二部屋あるから、マツリも住めるぜ!俺は台所で十分だしな!」
「まぁ。それはお邪魔虫になっちゃうんじゃない?」
「え…ハルミの家から通っていいのか!?」
再びテンションが上がりだすドリンク剤の精。
居た堪れない私の隣で、マチハルくんがぐったりとつぶやいた。
「ジンを野放しにして良いのか悪いのか…」
そうか。三つの願い事のうち二つはもう願った。あと一つはジンが好きに使う分だ。つまり実質、ジンは自由。
ジンがニヤリと笑う。
「心配か?願えよ。叶えてやるぜ?」
あれ、願い事ってまだイケるのだっけ?
マチハルくんは怪訝そうな顔でジンに返した。
「いや…願い事は全て使ったと思うが」
「もう一つ、残ってるぜ」
そう言って、ウインクするジン。
マチハルくんは目を見開いた後、すすすとジンに寄って小声で言う。全部聞こえたけど。
「もう少し待ってくれ。俺がプロポーズするまで」
「求婚なら、もうしただろ」
秒でジンに打ち返されて、途端に冷静さを失くすマチハルくん。
すっ飛んできて、私の手を掴んで言う。
「あれは…あれは…まだ有効ですか!?」
ジンのヤツめ…相変わらず風情のないやつ!でも、私の心は決まっている。
「……一緒に住む?」
「っ!もちろん!はい!是非!」
あまりの食い付きぶりに思わず笑ってしまう。ガバリとハグされた腕の中でささやく。この腕の中は変わらず心地良い。
「もれなくジンと晴美さんも一緒に、良いかな?」
「マツリさんが一緒なら、何だってOK!!」
お互いを見つめ合う、私たちを横目にジンがささやいてる。
「ほら、息子は片付いたぜ。さっきの続きやろう?」
「こうして皆は、それぞれいつまでも幸せに暮らしました、ね?」
「モチのロンだぜ!!」
「ふふふ。じゃあみんなで、もう一回引越しね」
「ハルミ〜!」
マチハルさんもジンも、どうやら本懐を遂げられたみたい。晴美さんと目と目を合わせて、笑い合う。
さぁ、みんなで幸せになろう。
本編、無事完結!ここまでお付き合い頂き、厚く御礼申し上げます!!
次回より、俺たちの大山田先輩の、その後が始まります。どうぞお楽しみください!!
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