45・何でもよく調べてから…
「はぁ、それで会社のためと常務に言われて、秘密裏に株式公開を進めた、で間違いないですか」
「はい、そうです」
「社長に黙ってることへの疑問は」
「その方が会社のためだと」
「疑問は持たなかったと」
「はい」
ツッコミ所しかない聴き取りを淡々と進める。人事部が事件の現場なので、対応は総務部(藤森部長と私)がするしか無い。ホントに!?
口裏を合わせないように、5人は小会議室で離されて座り、情報の三人組が交代で見張っている。
という事は本日の情報は、女性社員二人と二ノ宮部長の三人で業務に当たる事に…。二ノ宮部長が土日不在だったのは、秋葉原の電機部品屋に潜っていたかららしい。情報の奥の手?は二ノ宮部長作とか。
それはもちろん、総務部も同じで。出向のインコくん、説明無しで放置してごめんね。心の中で謝っておく。
私たち完全に巻き込まれ組だよね。情報と総務で慰労会とか、アリかも…。
肝心の勅使河原常務への聴き取りは、弁護士と天堂社長が担当してる。一番関わりたくないところ。
朝の7時台から始まった“テッシー捕獲大作戦”は昼を挟んで午後も続いた。
秘書室の白田室長が昼食をデリバリーしてくれたけれど、全てカツ丼だった。
「社長の意向です、すみません」
みんないろいろなドリームを持っているんだな…。
謝りながらカツ丼を配る白田室長は、既に取り調べ済み。
白田室長は、常務の計画全てに関わっていたわけでは無かったらしい。出張先の改ざんを黙認するよう圧を掛けられていたとか。圧に弱くて秘書室長なんて務まるのか…。
個別で聴き取り、全体で確認し、あえて犯人探しをさせて新情報をあぶり出し…。
それぞれが持つ全ての情報や書面データを当人から提出させ、スマホを返せた時は、終業時間となっていた。
やばい、そういえば労働基準監督署への提出書類、途中だった!本日分の通常業務も全然だし、死んだわコレ。
常務以外の4人は自宅待機になった。SNS等含む一切の拡散禁止を厳命して、帰宅させる。
他の人事部社員にも、話を聞く必要があるけど今日はもぅムリ。
総務部の扉を開けて、ため息を吐きながら顔を上げたらーー。
「城野くん、お疲れ様。大変だったみたいだね。大丈夫かい?」
息が、一瞬止まる。
「み、み、み」
「ははは、今日から復帰したよ。今まで苦労かけたね」
「三宅課長〜〜!!」
思わず手を握りに走っていく。
「課長、よくぞご無事で…!」
後は言葉にならない。後ろから大声がした。
「三宅くん!!よくぞ帰ってきてくれた!!」
今日一日でさらにヨレヨレになった藤森部長だった。部長と二人で涙ぐむ。
「お二方とも大変でしたね。こちらは出来る限り、対応しています。飯田くんがすごく良くアシストしてくれてね。本当に助かったよ、ありがとう」
飯田くん?あ、インコくんのことね。
今日は軽い残業で済むかもと、希望が見えてきた。
が、思い出す。小川くんの、着替え!!
会話を交わす二人をそのままに、そっと抜け出す。
情報の部室前で、小川くんと鉢合わせした。
「ごめん、着替え渡せてなかった」
小川くんはにっこりすると、私を給湯室へ引っ張りこんだ。
「すみません、部室前だとちょっと…」
「そ、そうだよね。ごめん」
お互い、中学生みたいにモジモジしてしまう。手に持った紙袋をそっと渡す。
「遅くなったけど、これ…」
「いえ、ありがとうございます。というか」
小川くんは私の顔を覗きこんで、さらりと言う。
「先輩のお家に置いとこうかな〜なんて」
「へぇっ!?」
言われた私は声が裏返ったが、言った小川くんも顔が赤い。小川くんは照れ笑いして続けた。
「な〜んて、冗談で」
「それはまだ早い!時期尚早だ!!」
…お約束の、藤森部長がやってきた。
翌日以降、判明したテシジョーの詳細を都度教えてもらう。
テシジョーを悪事に引っ張ったのは、やはり海外の、しかも陰謀論者だった。テシジョーはその主張の真贋を良く調べないまま鵜呑みにし、陰謀論者の主張と真逆の方針をとる我が社を敵対的買収しようとする海外会社の手先になっていた。
株式公開は、買収に必須な株の公開買付をするためだった。ウチは上場してなかったから。
社長と話し合うよりも、海外の不確かな極論を受け入れちゃうなんて、どうかしてる!私の残業代、必ず払ってもらいますからね…!!
ところで総務部への人員補填を認可しなかった理由は…。出来るだけ社内を混乱させたかったらしい。混乱に乗じて、株式公開へ漕ぎ着けようと目論んでいたとのこと。
公にはされなかったけれど、柳木先輩への歪んだ想いもきっとある。先輩が退職してから計画が始まったフシがあるからだ。破滅願望か八つ当たりか…。
私の怨念?が届いたのか、常務は平社員に降格となり、社長の鞄持ちからやり直すことになった。クビにしないの!?と皆、思ったけど、あのまま放逐すると本物のアンチになるから、とのこと。
そして陰謀論の真贋を見極めるために、件の国へ商談のため出張という名目の観光旅行へ連れて行かれて、見事に陰謀論から脱皮して帰国された。彼の国の歴史記念館で号泣したとか何とか。意外と子ども好きだったらしい。飛行機に十何時間も乗った甲斐があるというもの。
壊れかけてた商談と信用をV字回復させたのは、何とジンのおかげなんだけど、それはまた別の話。
嵐の後片付けがようやくひと段落し、小川くんは実家から出るため、引越し先を探し始めた。
次回、最終話。マツリターンでお送りします




