43・恋の奴隷、陣野
朝起きたら、世界が輝いて見えるかも…とか思ったけど普通だった。
いや、ジンの様子が普通ではない。あれ?ジンに普通って、あったっけ?
ソワソワして…毎日やってる「髪巻くぞ」「今日もダメ」のやり取りすら無い。
「ちょっと、どうしたのよ。どうしてアンタの方がソワソワしてるの?」
「…俺も、哀れな恋の奴隷だということだな」
「はぁ?」
ジンが片手に下げてる紙袋は、小川くんの着替えかな。
駅に行く道すがら、真面目に聞くとー。
「仕方ないわね。あなた、ハエになれる?ほら、映画じゃ変幻自在でしょ」
「蜂じゃね?」
評議会メンバーで100回くらい観たんだぜ!とか言ってるジンを横目に、小川くんに電話する。
「おはよう…大丈夫?」
掛けてからドキドキしてきた。
『はい…朝から女神の声がします…』
ね、寝ぼけてるのね。徹夜明けかもしれない、ということにして。
「お母様から連絡あった?」
『あー…。ありました』
「愛人の両親がお母様と面会したいって…」
憤慨しようとして気付く。いや、普通そうだな。普通の親なら、止めるわ。
「それでジンを付き添わせようかと思うのだけど」
『んー…。ジン、そこにいますか?』
「スピーカー、オンにするね」
『ジン、お前ハエになれるか?』
同じこと言ってる。
「おいおい〜、息ピッタリだな、お前ら!愛の力ってヤツだな!」
思わず周りを見回す。良かった、早朝すぎてひと気は少ない。ウォーキング中のおじいさんと目が合ったので、おもむろに頷いておく。
『ハエじゃなくて、なんかピンバッジみたいなのがいいか』
「任せろ、青い薔薇になって、ハルミさんを支えるぜ!」
「青い薔薇?」
「花言葉は、“不可能を可能にする”」
ジンのドヤ顔って、ほんと腹立つな…。
『城野先輩、ジンが不在でも問題なさそうですか』
「大丈夫。…小川くんがいるから」
『先輩!好きです!!』
「マチハル!死ぬなよ!?」
朝っぱらから二人とも…。顔が熱い。
紙袋をジンの手からもぎ取って、送り出す。
「お母様によろしくね。みんなで幸せになろう」
「マツリ…お前ほんとイイ女だな!埋め合わせは必ずするぜ!」
そう言ってジンは煙のように消えた。やはり炎系なだけある。
さっきのおじいさんが目をひん剥いてたのて、分かった風に頷いておく。駅まで走れ!
小川くんが電話の向こうで悶えていたことは、知らない。
出社すると藤森部長がヨレヨレだった。
「部長も泊まり込みですか?」
「おはよう城野くん…。この歳で徹夜はキツイ。途中から記憶が無い」
それ単に寝てたんじゃ…。
「そして何より、小川くんと両思いになったそうだね。昨日の晩、戻ってきた小川くんに勝利宣言されてから、もぅ…」
「部長、二兎追うものは何とやらですよ。勅使河原常務に集中しましょう」
それ、落ち込む話なの?なぜ?
「それと陣野は欠勤です。まぁ今日はややこしいですし」
「風邪かね?」
「いえ、恋の病です」
「欠勤理由に恋煩い、って書けたものか…」
「運命の人が大ピンチなので、付き添うそうです」
「まぁ、今日だけなら…」
あら、意外に理解がある?それとも徹夜で明けで判断力が落ちてるとか?大丈夫かな…今から修羅場なのに。
ふと時計を見る。
「部長、そろそろ時間では?」
「うむ…。行くか。テッシー捕獲大作戦、開始だ」
常務が首長竜の仲間みたいになってる。
藤森部長、元気ないけど…現場には原因の小川くんも居るはず。部長と反比例するように気持ちが上がってくる。
「了解です!!」
そういえば、着替えってどのタイミングで渡せば良いのかな。
次回、ハグの余韻に浸る小川ターン。テッシー一味を捕獲せよ!!




