41.5・オジサン達の祈り
藤森は何度目かの留守番電話サービス案内を聞いて、舌打ちと共に通話を終わらせた。
「…電源切ったな」
「順ちゃん…。僕、順ちゃんが馬に蹴られて死ぬの、嫌だな」
藤森は腹の底から溜め息をついた。
「分かってるよ、ダサいことしてるって。でも…あの万能メガネがウチの子に手を出しているかと思うと…」
歯軋りが止まらない。
「順ちゃん、さすがに今日は手を出さないよ」
「天ちゃん!若い時の衝動を忘れてしまった!?翌日のことなんか、考えなかっただろ!?」
アイツ、副社長宅に二人で訪問してるんだぜ?二人で!私にはひと言も無しに!!
そして今日も二人で!いや、昨日も二人だった!二日連続だと…!?
「順ちゃん…だからって邪魔するのは、やり過ぎだよ。
電話に出ないってことは、二人でご飯でも食べてるんじゃない?」
楽観的な天堂に、心の声がそのまま出る。幼馴染バンザイだ。
「晩めしだけで済めばいいけどな。
…小川くんには帰ってきてもらわないと、進まないんだろう?」
追加で調べる必要があるものが出てきた。明日朝までに出来るか…。
「そうだよ。もう少ししたら連絡も繋がるはず。
僕たちのすべきはね、祈ることだよ」
「へ?祈る?」
想定外の“すべきこと”に、毒気を持っていかれる。
「そう。考えてごらんよ。小川くんが告白して、振られたら…」
「願ったり叶ったり!?」
ぜひそうなるように。なのに幼馴染は苦笑いする。
「バカだなぁ。振られたら、落ち込んで仕事にならないよ。彼は一途っぽいからね!」
ウッと息を呑む。そうじゃん…アイツ、目移りしなさそうだからな…。クソ、仕事は出来る、周囲からの信頼は厚い、女には一途、おまけに20代のイケメンときた日には…。
「…盲点だったよ…さすが天ちゃん…!けど、何て祈ったらいい?」
「あのキレイな黒猫ちゃんが、小川くんに懐きますように」
なるほど。そりゃ祈りたくもなる。藤森は祈ろうとしたが…。
「まぁ、城野くん、まんざらでも無さそうだったよね〜」
一番見ないフリしているポイントを抉られる。
「………無理!天ちゃん、代わりに祈っておいて!!」
「もう祈ってるよ。従業員の幸せは雇用主の義務だからね。黒猫ちゃんが選ぶ幸せを応援するよ」
ハンカチを噛みたい。非常事態なのに、ほわほわしてるCEOに言ってやる。
「天ちゃんの裏切り者」
「何言ってんの。産みやすい会社、復帰しやすい会社は、我が社のモットーの一つでしょ」
「…ぐぅの音も出ないよ!」
経営者の正論斬りに合い、今度こそハンカチに噛みつく。キーッ!社長までも味方につけちゃって、あんのイケメガネ!
「ね、だから祈ろう。小川くんも黒猫ちゃんも、僕たちも幸せになれるように」
天ちゃん…やっぱり君は社長の器だよ。
「天ちゃん…君が社長の間、僕は全力で支えるからね」
「わお、プロポーズみたいだね!心底ありがたいよ。嵐はこれからだ…。頼りにしてるよ、順ちゃん」
うんうんと頷きながら、藤森は決意する。せめて自分だけは、小川をネチネチ邪魔…もとい、冷静なお付き合いが出来るように戒め続けよう、と。
忘れていたのだ。逆風こそ恋の炎を燃え上がらせる要因だということを。
戻ってきた小川に「藤森部長のおかげで勇気を出して、両想いになることができました」と告白されるまで、あと数時間。
次回、両思いになった後の一番名残惜しい時間




