41・先輩が泣いてる時は俺のターン再び
「あのね。私、結婚が怖い」
その言葉に、先輩の男女観のほとんどが詰まっているように思えた。
話し始めた時に潤みだした瞳から、早くも雫がこぼれそうだった。
え…俺この宝石を指で受け止めていいの?まだ許されてない?
藤森部長に邪魔されそうで、一気に想いの丈をぶち撒けたが、それに対する返事はまだだ。返事という名の関係性の発展を、どう展望しようか。オトモダチのままで…とか言われたらどうしよう…。なんとかして恋人の関係に持って行きたい…。
タコワサを追い回しながら考えだした矢先に、先輩が涙ぐみだした。
先輩の涙は二回目だが、何であんなにも綺麗なんだ…。雫は宝石よりも美しく煌めくし、泣き顔の先輩は世界一かわいい。もちろん俺には泣き顔で欲情するような性癖は無い。要するに城野先輩の全てが可愛いのだ。これは世界の真理だな。
先輩は唇を噛み締めながら続ける。あぁ、傷になるから噛まないで…。
「結婚というか、先を見据えたお付き合いが怖い。両親が、子供の目には失敗した夫婦で。私も、失敗したらどうしようと思って…」
ねぇ、これハグする案件じゃね?「そんなこと無いですよ〜」とか言って優しく抱き…抱きしめる案件では?!
昨日は出てきたハンカチが、今日は出てこない。そうか二日連続で泣いてるのか…。備え付けのナフキンを多めに取って、そっと差し出す。
「ウチの両親も失敗夫婦ですが、先輩はどんなところが失敗だと感じているのですか?」
出来るだけ優しい口調で、先輩だけに聞こえる音量で…。
「母が…父に依存してるのが嫌だったの」
「依存ですか」
「経済力も愛情もなくて、仲が悪いのに一緒に住んで、父に頼って…」
「なるほど」
「そんな風になりたくなくて」
「ええ、嫌なスタイルを真似する必要はありませんよ」
「でも…同じになったらどうしよう」
先輩がパッと顔を上げ、目と目が合わさる。涙目も崩れかけたメイクも隠すことなく。
あぁ…堪らないな…。
「ご両親から学ぶことが出来ますよ。
良かったことは真似をして、悪かったことは、そうならないように工夫すれば良いんです」
「でも私に出来るか…」
「話してください、今みたいに。二人で工夫するんですよ」
「うん…でもまた泣いたら、ごめん。こういう話になると、すぐ泣いてしまう…。ごめん」
そんな自分が嫌いだと言わんばかりの先輩。だが俺の心は感動でいっぱいだ。
「いえ、僕としては…心の一番柔らかい部分を見せてもらえてるようで、特権に思うんで、泣いてもいいですよ。待ちます、話せるまで。何度だって」
「〜〜〜」
先輩の目から大粒の涙が煌めいてこぼれていった。あの涙、あの輝きそのままに保存できないものか。
下心しかないが、下心抜きにしてもハグして慰めたかった。そうしていいのか?その資格を得ているのか?
「小川くん…カッコよすぎよ」
そんな涙目で睨まれても、可愛さ10倍増しなだけなんですけど。
ちょっとだけ、調子に乗ってみる。
「惚れ直しました?」
ナフキンを目元に当てたまま、先輩はこくりと頷く。可愛い…。いや、なんだって!?!?
しかもさっき、小川くん、って!主任から昇格した!!
「先輩!結婚しましょう!!」
思わず先輩の手を握りしめて叫ぶ。もちろん小声だが、叫んでから正気が戻ってくる。
しまった、調子乗りすぎた…!
だが…先輩は涙の残る、潤んだ瞳でほほえんだ。
「ふふ。さすがジンのご主人様ね。
お付き合いから、よろしくお願いします」
「はい…宜しくお願い致します…」
お付き合いから…!?恋人に、なれたのか…!!
今、死んでもいいなんて、絶対に思わない。
俺ほんと、生きてて良かった…。
次回、その頃の藤森たち。
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