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32・指と指、目と目

城野先輩と指がぶつかってから、動悸(ドキドキ)(おさま)らない。向かいに座った女神の可愛い麗しさに心臓が脈拍を狂わせている。ついでに語彙力は安定の低下中。

今俺は女神の視線と関心の全てを一身に集めている…!


“となり、フツーだね”

城野先輩が書き加え、ボールペンを手渡される。先輩の手の温もりまで手渡された気分になり……。

“長期戦かもです”

本来の目的を忘れるところだった。


隣りは、マスコットキャラの話ーー青と赤で眼球が三つ以上あるーーで盛り上がってる。そういえば先日閉幕したような。


手に持ったままだったボールペンがするりと抜ける。俺のコメントの下に書き込む先輩の伏せた目元を、そっと見つめる。()めるようには見ていない…つもりだ!

まつ毛長い…上目遣いとはまた違う、瞳の曲線の美しさよ…。


“万博 行きたかった”

そういえば、総務部の人員が減っていった時期、土日返上で回していた時期と重なっていたよな。俺が手をこまねくだけだった時期と。


“跡地公園 行きませんか?”

“行く!”


筆談だと、こんなにもスムーズに誘えるのか……。俺、今デートの約束取り付けた、ってことで合ってる?

公園て、いつ整備されるんだっけ?明日?


どうやら隣の客人は万博に複数回行ったらしい。通訳者も。自慢に聞こえるのは俺の(ひが)みか。

だが城野先輩は可愛いし、焼き鳥は旨い。全て赦そう。

肉派の先輩は相変わらず、色んな調理法の肉を注文している。


“食べてね”


え、城野先輩をですか!? はい、違いますよねすみません。

疲れのせいかナチュラルハイ気味なのは認める。


“ぼくのと合わせると味変できます”

“ホントだ!”


城野先輩はメモ上でも可愛い……


「株式公開はいつになりそうですか?」

通訳者の質問。答えるのは、もちろんテシジョー。

「来年の9月までには」


城野先輩と目を合わせる。さらに静かに食べつつ、会話に集中する。


「監査法人は、どうでしたか」

「ありがとうございました。問題なく進んでいます」

もしょもしょもしょ……もしょもしょ!もしょ!

「社長は大変満足されています。引き続き宜しくとのことです」

「ありがとうございます」

「出来るだけ前倒ししてください。また何が起こるか分かりませんから」

「心得ております」


そのままガヤガヤと帰り支度の物音がする。


城野先輩が袖をつんつんと引っ張り、メモを指差している。

“前を通るかも“


はい……先輩は何をしても可愛いですね……。

頷いて同意を示す。二人で壁際のタブレットに向き、注文に集中してるフリをする。向かい合ってた時より近いかも…。メニュー画面を意味無くタップする先輩の指先に、ここぞとばかりに見とれる。整えられた爪先はジンの仕事か。羨ましくて、良い仕事ぶりに満足して、やっぱり羨ましい!


おっさん衆は無事、通り過ぎて行った。

スマホの録音を終了させる。念のため、コピーをクラウドにも保存した。


「クロ、だったね……」

「そう、ですね……」

ようやく声を出せるが、全く解放感がない。もっと重いものに捕らわれた心地がする。


「知ってた?」

「知りませんでした」

「私も」


一人で株式公開の準備なんて出来るものだろうか?誰か他にも関わっているのは間違いないが……。

こっそり隠れて準備するのは、なぜだ。

外国人が知ってて、社内人が知らないのは、なぜだ。


「小川主任、総務部は明日10時集合なの。陣野は派遣だから来ないけど、今の話、藤森部長に話す時、立ち会ってくれないかな」


俺はしっかりと頷いた。

「もちろんです。10時過ぎに総務へ伺います」

「藤森部長はああ見えて、テシジョーと陰でバトルしてたみたい。人員増を巡ってね」

「つまりテシジョーの仲間ではない…?」

「そうであってほしい」

「望月副社長には」

「先にウチの部長を確かめたい」

確かに。頷き、同意を示す。


スマホの時刻は21時を指していた。

長い…一日だったな。まだ終わってないが。


「とりあえず、帰りますか」

持ち上げた段ボール箱、冬瓜と南瓜がさっきより重く感じた。

そしてもちろん、交換メモは全て回収した。店の人に、怪しまれるといけないからな!

次回、それぞれの帰宅後…

6/13 18:00更新


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