31・ドリームの叶え方
今…なんかすごいこと言った?なん…だって…?
一生?え…それってまさか…??
だけど小川主任は冬瓜と南瓜をゴロゴロ言わせながら、黄色タクシーの後ろに停まっていたタクシーへ走って行った。慌てて後に続き、隣に飛び込んで叫ぶ。
「前のタクシー、追ってください!」
「キターーー!」
タクシーの運転手が叫んだ。
「オレ、そのセリフが聞きたくてドライバーやってたんだよ!」
燃え上がる運転手さんに、小川主任が念押しする。
「前の黄色いタクシーです」
「任せとけ!ぜってー気づかれないように尾いていくからよ!」
熱量高いドライバーさんだ……ジンの仲間かもしれない。
暑い口調とは裏腹に、タクシーは滑らかに前行くホシの後を尾けだした。
「お二人さんは刑事さん?なんか事件追ってんだろ?その箱はブッショーってヤツだな!」
「守秘義務がありまして…」
小川主任がクールに返す。
え、運転手さんの妄想に乗る感じ?
「ヤボなこと聞いちまったな!わりぃ!」
「いえ。SNS等には載せないで頂けると」
「分かってるって!オレは口の固い男だよ。大船に乗ったつもりでいなよ!」
「ご協力感謝します」
……意外に小川主任がノリノリだ…。
口は固くとも、指は緩い場合もある。呟いてもいいけど、身バレしませんように……。
黄色のタクシーは、夜でも目立つ。
尾行は難なく……と思っていたら、あっという間に停車した。
「おう、もう停まるのか。あえて通り過ぎるぜ」
気の利くドライバーさんだ。
黄色タクの死角になるよう、他の車の陰に滑り込む。
「ありがとうございます」
ワンメーター越えてない…。確かに歩いてでも行けそうな距離ではあった。よっぽどの運動嫌い集団か、接待の一環か……。
「先輩、先降りて見ててください。
支払いしておきます」
「おっとニイサン、料金はサービスしとくよ。オレのドリームを叶えてくれたお礼だよ!」
「ご協力感謝します。名刺、頂いていきます」
「おう!またのご利用を、お待ちしております!!」
声がデカいから、ドア開けたままだと丸聞こえ…週末の喧騒に紛れますように。やっぱりジンの仲間かもしれない。
小川主任は爽やかに笑顔で挨拶を交わし、タクシーから降りてきた。
私は、ホシを木陰から見張ってる。
小川主任が後ろに並ぶ。コピー用紙の箱が間にあるとはいえ、近さにドギマギするのは、なぜ!
「話の早い、いいドライバーでしたね」
「あの人、ちゃんと利益上がってるのかなぁ。
あの店に入ったわ」
あの店とは以前、小川主任とジンが飲みに行き、私とインコくんでスパイした、あの店だ。
「あの店ですか。行ったことありますね」
ソウデスネ。
「確か店内はスダレが仕切りで……上手くいけば話が聞こえるかもしれません」
「……。そうね」
経験があるとは、とても言えません。
店の入り口から、三人のオジサンを探す。あの時より、やや混んでいる。
「二名様ですか?ご案内します〜」
にこやかな店員さんに頼み込んで、席を選ばせてもらう。
「いました」
小川主任が耳元でささやく。
今…いまものすごいドキッとしたんですけど!
小川主任は店員さんに笑顔で優しく話しかけ、ターゲットの隣のブースに誘導する。店員さんの頬が心なしか赤い気がする。そうよ、小川主任て割とイケメンの類だもの。とってもスマートなのに、抱えたコピー用紙の箱のせいで、なんだか台無し。店員さんをトゲ付いた目で見てしまう自分も、なんだか台無し。
見られないよう素早くブースにすべり込み、向かい合って座る。
隣側には小川主任が座った。向かいの私に隣の会話は……聞こえる!しかもかなり声がデカい!
「ここの焼き鳥を選ばれるとは、お目が高い」
もしょもしょもしょ…もしょもしょ!
「社長自らリサーチされたとのことです」
「チョイスの決め手は何だったのですか?」
もしょもしょ…もしょもしょもしょもしょ!
「タレがお勧めだと」
「なるほど!」
小川主任がスマホを取り出した。これは、メモアプリでやり取りかな?
私もスマホを取り出して、気付く。バッテリーが残り5%!!
小川主任に手振りで伝えると、軽く頷いて録音アプリを立ち上げた。
コピー用紙の箱を立て、私のカバンを積んで高さを出し、隣の会話を録音し始める。小川主任のカバンはサコッシュだから今回は待機ね。
冬瓜と南瓜がこんなにも役に立つとは。藤森部長の義兄様、ありがとうございます。
小川主任はボールペンを取り出し、備え付けのナフキンに書き込んだ。今回はリアル筆談。
“スマホ、機内モードに“
“OK バッテリー大丈夫?”
“80%あり〼”
“〼かわいい“
“注文しましょう”
一本のボールペンとやり取りが行き交う。
隣のやり取りのせいで、二人とも焼き鳥の口になってる。
注文タブレットの画面、焼き鳥の上でお互いの指がぶつかって、顔を見合わせて、にっこりする。ちょっと照れる。
隣のオジサン三人の件が無ければ、今ごろどんな雰囲気で座ってただろうか。いつの間にか、トゲトゲは抜けていた。
ふと気づく。筆談なら、さっきのひと言のこと…詳しく聞けるかな。
『一生、ご一緒しますよ。』
ただのノリだったりして。勘違いで本気にして、気まずくなったら嫌だな。聞かない方がいいのかな。どうしよう。
次回、肉と城野先輩と…ついでにオッサン。つまり小川のターン




