30・冬瓜と南瓜と帰り道
コピー用紙の段ボールを補強して、冬瓜と南瓜を入れる。かなりの重量だ…。申し出て良かった。
「小川主任、ありがとうね。本当に助かる」
「いえ、結構、重いですしね。お任せください」
今の俺は100%下心でできている。
望月邸に戻るか、どうするか。戻るなら是非とも同伴したい。戻らないなら、晩ご飯をご一緒したい。
もちろん、先輩のご自宅までお邪魔する邪な下心は無い……無い!
「柳木先輩のところ、どうしようか。微妙な時間になっちゃったね」
「総務部は明日はどうされますか?」
「休日出勤よ……まぁ震源地でもあるし、仕方ないよね」
「情報も同じです」
二人で顔を見合わせて苦笑いする。イイ……この心が通い合ってる感……。
「じゃあ…あんまり遅くなると明日ツライし、柳木先輩には一言連絡するね」
「はい。次回…別日に必ず…ということで」
次回も誘ってくださぁぁい!
城野先輩は柳木先輩に電話を掛ける。すぐに繋がり、報告と今後の話がしばらく続く。
段ボール箱の中で冬瓜か南瓜がゴロリと動いた。俺の分は後日受け取ることになっている。カレーかシチューか、ポトフも良いな。冬瓜とベーコンのポトフ…。そうだなベーコンは分厚いものがいい。
「はい、では皆様に宜しくお伝えください。ええ、また必ず」
電話の終わる挨拶に、意識を引き戻す。
今夜の晩ご飯をお誘いしたい…。
通話を切った城野先輩は、物憂げにため息をついた。再び語彙力が低下しだす。ヤバい、色っぽいとカワイイが混じってもぅ…
「用意した食材、副社長の娘さんが来てくれたからムダにならないって。」
「……再婚相手との家に娘さんが?」
「うん。仲の良い再婚家庭って、あるんだねぇ」
「ほんとですねぇ」
柳木先輩の人徳だろうか。何となくホンワリして、しばし会話が途切れる。疲れと緊張の緩みから来る自然な沈黙が心地良い。なんかこう、マブダチ感があって余計にイイ。
土曜夜の会社周りは閑散としていて、暗い夜道、を具現化したようだ。先輩を一人で帰さなくて良かった。
商業施設の集まる中心街に近づくにつれ人も明るさも増えてきた。飲食店も増えてくる。つまり……。
「小川主任、何か食べて帰る?」
え…?! 先輩から誘って頂けるとは、もしかして女神?
なんかもう今日で人生の幸運を全部使い果たすんじゃなかろうか。
「そうですね、がっつり食べるならファミレス、軽くならその辺の居酒屋で、どうでしょうか」
あくまでスマートに。飛びつかない、ギラつかない……。
「そうね、でも飲むと明日に響くから…」
うっ。前科者で申し訳ありません。
言葉の途切れた城野先輩を横目で見る。城野先輩は、道の前方をジッと見つめていた。熟考中かな。横顔アングルも堪らなくイイ。
「小川主任、ちょっと」
やおら腕を掴まれ、ビルの物陰に引っ張られる。
ナニ!?なんですか!?逆壁ドンのフラグですかね!?全然オッケーです!!
段ボール箱の冬瓜と南瓜がゴロゴロと中で派手に転がる。
「ねぇ、見て。あそこの三人」
城野先輩を見ていたいです。
あそこの三人とは、おっさんばかりでニコニコ笑って話してる三人ですかね。遠目にもイケメンでは無いと認識され……
「勅使河原常務に似てますね。」
三人の内の一人は、ウチの常務に良く似ている。総務部の人員増願いを拒み続けている、あの常務に。
やり取りを見ていて気づく。三人は和気あいあいというより……
「一人、通訳者っぽいですね」
「外国の方みたいな感じよね」
なぜこんな時間にこんな所で……。
「今日、会社でテシジョー見かけた?」
テシジョーとはもちろん、勅使河原常務のことだ。名前が長くて呼びにくいと、皆、省略して呼ぶ。
「僕は見かけて無いですね」
連絡も付かなかったはずだ。
テシジョーは出社してないだろうにも関わらず、スーツを着用していた。休日仕様とは思えない。
と、テシジョー達三人はタクシーに乗り込み、出ようとしている。後部座席のドアを開けて他の二人を乗せた後、前に回る。
助手席のドアを開けてーー。
「どうする?」
三人が乗り込むタクシーの後にも、何台か止まっている。追跡は容易い。
「追うべきだとは思いますが……」
時刻はすでに夜の七時前だ。今日を振り返ると、濃厚すぎる一日だった。城野先輩の精神的疲労を慮るなら、もう帰宅した方が良い。
「私は大丈夫」
俺は城野先輩の目を覗き込んだ。大丈夫と言う人に限って大丈夫ではないのが世の常だ。
城野先輩は目を逸らさずに、言った。
「小川主任が一緒に来てくれるなら……」
夜の帳が降りたビルの物陰で二人、見つめ合う…。
城野先輩の頬が薄く色づいているような何だその身長差のせいで無自覚の上目遣い可愛いすぎとか語彙力〜!このまま時が止まればいいのに。ではなくて、
「一生、ご一緒しますよ。急ぎましょう」
次回、「ドリームの叶え方」ただし、M&Mコンビのではなく




