29・二代目襲名の覚悟
コンビニ買い占め買い出しの後、部長と気を取り直して、提出書類を確認する。
何種類あるんだろ…。各部署との連携が必要な書類もある。しかも速やかに出さないと労働基準監督署の心象が悪くなる……。テキトーな出し方をすれば、最悪、書類送検されてしまうかも。
迅速に書類を揃えるためには、総務部の鬼になるしかないのか……。
柳木先輩、二代目総務の鬼、襲名させて頂きます……。
「城野君、こうなってしまっては休日返上で取り組むしかない。
今日はここまでとしよう。明日、私も出社する。遅めの10時出社にしよう。」
「部長…サツマイモは、よろしいんですか?」
「問題ない。今年は生育が遅くて、もう少し収穫を待とうかと話していたんだ。」
そういえば、そんな芋トークしてた。
そう、そんな……。
ダメだ、その前の話も思い出してしまう。平常心、平常心……。
『そんな……そんな幸せなことって、あります?』
小川主任のセリフがまた響く。好意を向けられるのが、こんなにも嬉しいことだなんて、思ってもみなかった。それとも、小川主任だから嬉しいのかな。なんて思ったらもうダメだ。心が浮き上がって、手が止まってしまう。このままでは、ローキ書類提出戦争を潜り抜けられない……!
「城野君、ちょっといいかね」
うわぁ、なんでしょう部長……!城野は、城野は……
「すみません!ちょっと給湯室へ、行って参ります!!」
特盛サイズのカップ麺をすすりながら、大山田先輩が言う。
「黒猫嬢、マジ女神…」
「同感!同感であります!」
ついでに鼻水と涙もすすり上げている先輩二人。
労働基準監督署への提出データは、まだ1/3も作成し終わっていない。
過去3年て……多すぎでは?
「もう6時ですか。一旦終わりにして、明日……不本意ではありますが……」
帰りたい。城野先輩と帰りたい。
大山田先輩が、カップ麺の汁を飲み干して言う。
「小川主任。今日は何の日かお忘れかな」
ドキッとする。えーと、城野先輩と一日一緒にいれる日、ではなくて……
「本日は有給休暇取得推奨日ですぞ。つまり」
「つまり……?」
「我々の夜勤は、今始まったばかり、ですな!」
ええ〜!?どーゆーロジック!?
だが極力無表情のまま、メガネを直す。
「………長い、夜になりそうですね」
ところが天は我を見離さず。河野先輩が会話に加わってきた。
「しかし、小川主任の装いはデートですか?こう、凛とした気合いのような…いわば非公式で彼女の家族に会うような…そんな気概を感じるのですが。」
当たらずとも遠からじ。だが説明できない。
「デート、というか……」
「そういえば電話した時も、どこか屋内のようでしたが」
「屋内ではありました」
ここでロスデリカシーNo.1、大山田先輩が会話に戻ってくる。
「はは〜ん。さては片想いの相手とデート未満デートでしたかな?」
……大山田先輩の、ここ一番な時の勘の良さよ…もはやチート級。
だが情報で女神と讃える城野先輩とデートに見える付き添いで副社長宅に行ってました、とは絶対に言えない。
言葉に詰まる俺を見て、大山田先輩の眉が下がる。
「え、マジか……。
では小川主任、速やかに戻ってリカバリーに努めて頂いて構いませんぞ!河野がおりますしな!」
今、素が出たな。
つか、ここで帰宅を勧めるとは…大山田先輩、男前すぎます。
「そうです!ここで理解を示す寛容な女人ならば、絶対に手放してはダメです!」
河野先輩、理解どころか震源地の女神です……。だが、心底ありがたく…!
「先輩方、本当に恩に来ます!明日より馬車馬の如く、稼働させて頂きます!!」
「「応!」」
すごい…シンクロ率100%。さすが情報部の双璧。
というわけで、俺は総務部へひた走る。
情報を飛び出すと、総務部に入る城野先輩が見えた。両手にカップを持っていたような…給湯室から戻る途中か。
そのまま総務部へ押しかけると、藤森部長の話す声。
「そうだ城野くん。大事な事を忘れるところだった。」
「な、何でしょうか」
城野先輩の緊張した声。
この流れで大事なこと?嫌な予感しかない。
「冬瓜と南瓜、要るかね?
話を聞いていた義兄が差し入れてくれてね。」
……農家の差し入れって、ひと玉丸ごとだよな。重そうだ。閃いて、迷わず飛び込んで叫ぶ。
「先輩!自分、荷物持ちしますよ!!」
「喜んで頂戴いたします」
やった!一緒に帰れる!!
次回、暗い夜道で、マツリとマチハルと冬瓜と南瓜




