25・沸騰、混沌、噴火
『城野くん、ガサ入れだ!!』
つながった途端、藤森部長の叫び声がした。
な、なんだって?ガサ入れとくれば……
「く、組長!サツですか、ローキですか!?」
『上手い返しだな。ってボケてる場合ではない!
労基の抜き打ち監査だ!』
あの良くも悪くも動じない藤森部長が沸騰している。
労基の抜き打ち監査、つまり我が社の勤務実態が労働基準監督署にバレる……。
いや別にいいんだけど、どう対応すればいいのか分からなくて……頭が真っ白になる。
動いたのは望月副社長だった。
「城野くん、ちょっと借りていいかな?
ーー藤森くん、副社長の望月だ。今、どんな状況か説明を頼む」
『副社長!?』
突然の副社長乱入に、藤森部長の混乱が加速する。ハッと気を取り直して横から補足説明を叫ぶ。
「柳木先輩宅に来てるんです!」
『!?!?』
電話の向こうから、藤森部長の困惑が伝わってくる。
その時、鐘の音が鳴り響いた。重厚で荘厳な、世界遺産な教会の鐘を思わせる音。
「!?!?」
「僕です。情報の河野ですね」
小川主任だ。主任は落ち着いた様子で電話に出る。
「はい、小川でー」
『もしもし小川主任ですか!!今、労働基準監督署の戦闘員が突入してきてですね、パソコンのログデータ3年分、吸い上げられてます!
ログデータ……つまりパソコンの起動時間のデータ、つまり真の出退勤データを3年分……です!!
大山田先輩が応戦したものの、抵抗は社会的死に直結してると言って過言では無く!つまり全面降伏であり!
二宮部長には繋がらなくて!主任ならもしやとお電話した次第です!』
「分かりました。僕も今すぐ向かいます。二宮部長にこちらからも連絡入れます。河野先輩、もうしばし最前線対応、お願いします。」
『了解しました!』
ああ見えて小川主任も焦っていたみたい。スピーカーがまたオンになってる……。
そのお陰で、その場の全員に聞こえた。藤森部長にまで。
『今のは情報の社員!?そこに居てるのか!?副社長宅にウチの城野と!?!?』
あ、噴火した。
「柳木先輩宅にお邪魔してるだけです」
『副社長宅に城野くんと情報の男子社員が訪問……城野くん!辞めないでくれ!!』
なぜそんな結論に!?そんなことより、
「藤森部長、今それは問題ではありません。部長は今、どちらですか?」
そう、ややこしいからソレは後回しよ。
『大問題では!?……私も出先だったもんで、とりあえず会社に向かっているところだ!』
「人事部とか勅使河原常務は」
『本日は有休推奨日だ。みな休みで連絡がつかないらしい…』
副社長が割り込んできた。
「分かった。社長には?」
『まだです!』
「勅使河原くんと社長には、私から連絡しよう。私も今から出社する」
『お手間かけます』
やや息切れ気味の藤森部長とは、そこで電話が切れ、四人で顔を見合わす。真っ先に口を開いたのは柳木先輩だ。
「三人ともすぐ出社して。私は部外者だから、ここで待ってる。
ランチじゃなくて、ディナーに変更しても、いいかな?」
「先輩……」
また目が潤み出す。また会いに来ていいんだ。ご褒美だな。がんばれそう。
「城野、一緒に行ってあげられなくて、ごめん。
みつるさん、小川君、城野を宜しく頼みます」
そう言って先輩は頭を下げた。
副社長はエプロンを脱いで、出る準備をしている。私は小川主任と目線を交わし、カバンを持ち直した。
小川主任と玄関へ向かう。
おっと、お土産は置いていかなくちゃ。それで私たち、見てしまった。
望月副社長が柳木先輩を捕まえてキスしてるところを。
ランチは食べ損ねそうだけど、ごちそうさまです!
次回、言えない機密、真の社畜とは
朝7:00 更新予定




