18・朝チュン…では?
カシャ、カシャ。ふふふ。
シャッター音と含み笑いの声で、一気に覚醒する。
「……。母さん。何やってんの」
「ふふ。幸せそうに寝てたから、思わず」
「今は肖像権があるから、無許可の撮影は問題行動なんだよ」
夜明け前のぼんやりと明るい中、隣で眠る城野さんを起こさないよう、小声で物申す。うん…?隣で眠る…だと?
「そうよね、じゃあこの写真、門外不出にするわ。欲しかったらちゃんと、しろのさんに許可を頂くのよ?」
そう言ってチラ見せしてくる母のスマホ画面には、寄り添って眠る男女二人の画像が……。!?!?!?まさか…!?
「さぁ、マチハル。包容力の見せどころよ。スマートに起こして差し上げて。母はコーヒーを買ってきますからね」
そう言って母はするりと向きを変える。伴侶が倒れて搬送されたにもかかわらず、思い悩む様子は全く見えない。夫(つまり俺にとって父)の自業自得だろう。
だがそんなことはどうでもいい。今から童貞最難関、いや難易度天井突破の、俺の肩にもたれて眠る好きな人を起こすという……。いや、起こす必要あるか!?
寝顔が尊すぎて直視できない。しかしいかなる至福の時も過ぎ去るもの…今見ずしていつ見るのか。いつかまた見れるのか?いつかまた……妄想の扉が開きそうになり、慌てて寝顔に集中する。
せっかく…こんな可愛い寝顔で無防備に寝てるのに、起こすのが忍びない。かわいいねがお……。自ら生み出したワードが強すぎて悶える。
だがその時。
「ん……」
まぶたが震え、花の開くが如くして女神が目を覚ました。声が、声が艶めかしすぎる…ッ。しかも耳の近く…ッッ
肩に掛かる至福の温もりがゆっくりと離れていく。思う。これってもしや朝チュンなのでは!?憧れのアレだ。見つめあって、おはようと言い交わしたい……。
「あの、城野先輩、」
「あらおはよう、しろのさん。」
母が、戻ってきた。狙ってたのか?
「おはようございます」
しょぼしょぼと瞬きをしながら、女神と母が言い交わしている。がっくりしたのは言うまでもない。
「朝ごはん、食べに行きましょうか」
「母さんも?」
言ってから気づく。二人で行きたいのが即バレか!?
「そうよ。あなた、とても出張帰りには見えないでしょ。しろのさん諸共、誤解されるのは申し訳ないわ」
出張帰りには見えない。ならば一体、何に見えるのか……?
「!」
「そうよ」
したり顔の母君よ。それでも女神と二人でモーニングという甘いシチュエーションは捨てがたい……。
「あ、近くにファミレスありますよ。24時間営業ですって」
スマホに目を落としていた女神が無情にも告げた。
さすが総務部。仕事が出来すぎる。
近くのファミレスとは、病院の向かいだった。やや肌寒く、朝日が眩しい。二日酔いのせいかもしれないが。
「そういえば、父さんのその後は?」
頼んだモーニングセットがそれぞれに行き渡ったところで、ふと思い出す。
母は、ちらりとこちらを見て、目を合わさずに答えた。
「一命は取り留めたそうよ。ただし、」
その続きは、悪いフレーズが来ると相場が決まっている。
「後遺症が出るでしょう、だって」
「こういしょうがでるでしょう」
母によると、大きめの血管が詰まっていたらしい。その梗塞は取り除けたものの、種々の身体機能は、もう少し落ち着かないと確認が取れないらしい。
「らしい、らしいばっかりだったわ」
「退院はいつになる」
「さぁ?しばらくは面倒見てくれるみたいだけど。でも本格的にリハビリするなら、転院することになるわね」
母は、父に黙って働いている。それは離婚するためだ。しかし縁を切りにくい状況になってしまった。どう思っているのだろう?しかししかし、今は女神が同席している。それを聞くタイミングではない。
城野先輩の隣に陣取った母は、居住まいを正し、向きを変える。
「しろのさん、本当にありがとう。こんな…我が家の腐の部分に巻き込んでしまって申し訳ないわ。必ず、お礼させて頂戴ね」
母が音を立てないように、俺の足を蹴ってくる。な、なんだ?
「いえそんな、お礼なんて……。こちらこそ飲み会へ無理に誘ったようで、申し訳なかったです」
なんですと!?全然無理なお誘いなどではなく、待望の飲み会だったのですが!?
「城野先輩、僕からもお礼させてください。あんなに酔ってしまって申し訳ないです」
「そうね。マチハルは特別にお礼しなくちゃね。」
母がジト目で口を挟んでくる。
「しろのさんに膝まで貸して頂いたのよ」
「えっ……膝!?」
それってもしかしなくても、膝枕?なぜ記憶にない、俺!!
いろいろな感情が沸点を超え、頭に血が昇ってくる。
「あら、そんなに恥ずかしがらなくても……」
母よ。黙っていてくれないか。
「いやほんとに申し訳ありませんでした!!」
テーブルに両手をついて頭を下げた次第です。
次回、マツリのターン。“特別なお礼”に選んだものとは…




