15・風雲急を告げる
控えめな音量ながらスマホは鳴り続けている。操作がおぼつかない、酔っ払い主任。
「えぇっと、出ます出ます」
「主任、しっかり」
「ポチっとな」
「ネタが古いぞぉ〜」
小川主任って、酔うと隙だらけになるのかな。というか陣野、ネタが古いって言えるのはなぜ!?
『あぁ、マチハル?!ちょっと大変なのよ!』
「なんだ、母さんか〜」
『聞いてる?お父さんが変なのよ!』
「あれ、今さら?まぁ変というか〜」
『やだ飲んでるの?!』
やり取りが全部聞こえてるのは、小川主任がスピーカーボタンまでタップしたから。本人はスマホを耳に当てて会話しているので、気付いてない。
「主任、主任。ちょっとほんとに大変なのでは…?」
「え?えぇっ?」
思わず小川主任の方に身を寄せて、小声で指摘した。が、逆効果だった。こちらに注意が向いちゃって、あぁ酔っ払い。
『やだデート中だったの?どうしよう…』
「デート?いやまだそんな……」
違う。反応するワードは、そこじゃない。
陣野がスッと膝立ちになった。アンタまで何!?と思いきや、小川主任からスマホを取り上げて、私に差し出す。
「マツリ、ゴーファイト!」
ご丁寧に親指立ててウィンクまでしてくる。だけどツベコベ言ってる場合じゃない気がした。
内心のためらいは無視して、スマホを受け取る。
「もしもし、わたくし、小川主任と同じ会社の城野と申します。小川主任と他の人はちょっと飲み過ぎでして、代わりにお聞きしても良いでしょうか?」
『しろのさん?えぇ、良かったわ、あのね、主人が寝てるんだけど、リビングの真ん中で寝ててね』
それって倒れてるんじゃあ…?
『大きなイビキもかいてるの。呼んでも起きなくて…』
「あの、今すぐ救急車呼んだ方がいいと思います。今の内容を電話口で伝えてください。小川主任も今からタクシーか何かで帰宅しますから。」
『ほんと?ありがとう、助かるわぁ。酔っ払いでも、いないよりマシだもの』
思わず苦笑いする。
『しろのさん、ありがとうね。ちょっと落ち着いたわ』
「いえいえ、一刻も早く、119に電話してください。あの、一旦切りますね」
『ええ』
電話を切って、目の前の酔っ払い二人をにらむ。
「陣野、今すぐタクシー捕まえてきて。小川主任の自宅、知ってる?」
「知ってるろ。タクが早いな」
「私はお会計しとく。小川主任!」
「はい!」
「お父様が倒れたみたいですよ。今すぐ帰宅しますよ」
「はい!」
元気すぎる返事の小川主任に、不安しか感じない。
「マツリ〜、ジャアファルひとりで帰れないろ〜」
自分の眉間のシワが深くなるのが分かる。
「見たら分かるわよ。私も自宅まで付き添う。そんな遠くないよね?」
「ん……たぶん」
救急車はすぐ来てくれるだろうけど、すぐ搬送できるわけじゃない。搬送先を決めてる間に送り届けられるだろうか。
「さぁ、行くわよ!」
「「うぃ〜!」」
次回「嵐の金曜、準夜帯」舞台は病院へ




