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14・○○陰謀論

「ということで、ほんと今週もお疲れ様でしたー!カンパーイ!!」


ニコニコ上機嫌な陣野の音頭で、飲み会はスタートした。

ただ今、午後7時ジャスト。

魔人に急かされて会社を出たのは6時半ちょうど。出た所で小川主任と出会う。この時点で、もうメンツが揃うとは……。


陣野はさっさとタクシーを捕まえ、いつかの晩のように私たちを押し込んで、予約していた店に直行させる。


すんごい手慣れてるよね、タクシーの捕まえ方。ハーレムにもタクシーあったとか。それともタクシー捕まえる修行でもしたとか?


金曜の夜とはいえ、道が混み合う前だったみたいで、あっさりと到着したのが7時10分前。水曜とは違う店。すんなり個室に通されて、座ったら生3つとお通しが運ばれてきた。どうやら予約時に、そう頼んでおいた模様。仕事出来すぎかよ!


目の前に置かれた冷えた生ビール。暦は10月とはいえ、残暑紛いの気温。早くも露をまとうビールジョッキの魅力に、抵抗する理由なんて無い。


「か、かんぱーい」


威風堂々とした陣野の乾杯に、とりあえず唱和して、ひとくち。あー……。思った以上に染みる。

それは向かいに座った小川主任も同じだったみたい。ひと口だけなのに、もう頬が赤い。


ひと息ついてから、ようやくお互い上着を脱いで、メニューを広げる。陣野はすでにシャツの袖をまくり上げて、ネクタイも外して、完全なる飲み会モード。

いや、いつチェンジしたんだか。


小川主任が頼んだのは、和の薬味が効いた一品もの。ワサビとか柚子胡椒とか生姜とか。

私は、肉。気がつけば肉系ばかりだった。焼いたり揚げたり浸したり。

陣野のは、もっと奮ってる。島オクラのおひたしコーレーグス和え、チュロスのシロップ漬けとか、味が両極端。というか最初からスイーツ!?

それにしてもこの店、無国籍と言うだけあって、ほんとにノージャンルメニュー……。

さてお互いの好みが全く被らない品々を頼み終わったところで、会話が途切れる。


「あの……小川主任。」


思い切って声を掛ける。というか他に共通のネタが無い。


「はい」

「あの、総務の仕事、いろいろとサポート頂いて、ありがとうございます。

本当に凄く助かってて…」

「いえ、そんな大したことしてないです。むしろ……」


小川主任は目を泳がせて言い淀む。やおらビールジョッキをあおり、勢いよくジョッキを置いてから続けた。


「人事部の怠慢に忸怩たる思いです」

「同感〜!」

陣野が軽すぎるノリで合わせてくる。


え、どういうこと?


反応の鈍い私に、陣野が訳知り顔で腕組みする。

「マツリ、知らないのか。この総務部大混乱には人事部が絡んでるってこと」

「何それ、どういうこと?」

「人事部の陰謀だ」

「は?」


店員さんが来て、早々と注文の品を並べていく。

世の中、○○陰謀論者が多すぎるんじゃない?店員さん越しに陣野へキツめの視線を投げる。私の前に薬味料理を並べる店員さんを睨んでいる訳では決してない。


陣野はお構いなしにジョッキを空けて、言う。

「去年の初夏に退職した大先輩、いただろ?」

「柳木先輩ね」

「退職理由、知ってるか?」

「……」


もちろん。だけど、尊敬する先輩から口外しないようにお願いされてるので、黙って陣野を見返した。

陣野にゴシップを面白がる様子は無い。意外にも真面目な顔だった。


「知ってそうだけど、社内婚。

で、それが面白くない御仁が居て、総務部の人事に圧を掛けてる、って状態らしい」


誰なの、その御仁とやらは。人事部に圧を掛けられる影響力があって、柳木先輩の幸せウェディングが嬉しくない人……ウチの役員に女性はいない。つまり……


「誰なの!?そのオジサン!」


向かいで小川主任が吹き出した。あれ?今のウケるとこだった?

きょとんとした私の顔を見て、小川主任は慌てて謝った。


「あ、すみません…つい…」

「いえ、お気になさらず……」


小川主任のジョッキも空だ。ドリンクメニュー表を手渡す。


「陣野は芋焼酎禁止よ」

「大丈夫。俺、二日酔いしないから」


泥酔して帰宅したのに、どの口が言う。

2人とも生を注文したので、何も言うことは無い。度数低めをキープして頂きたい。

さっきの、聞きたく無いけど気になる話の続きを促す。


「で、それって解決できるの?」

「解決?」

「そう。役員クラスなんじゃないの、その御仁。だったら誰も手出しできなくない?」

「その通り。だから小川主任の出番だったんだぜ。なぁ?」


陣野は隣に座る小川主任にウィンクを飛ばす。主任は全く見てなかったけど。うつむいて、タコワサのタコを突つき回している。


「どーゆーこと?」

「マツリ、お前は、お前だけは知っておくべきだ。俺が派遣社員になれてるのも、インコが出向できてるのも、全て小川主任のおかげなんだぜ」

「小川主任のおかげ……」


どーゆーこと?と聞き返そうとして、はっと気付く。そういえば昨日、人事部部長が稟議を通してないのにと、直談判に来た。まさか……!?


「つまり採用を妨害してた……」

小川主任がぱっと顔を上げた。


「言うな陣野。知らなければ無関係でいられる案件だ」

「だけどそれじゃあ割に合わない」

「いいんだよ」

「カッコつけすぎだろ」


その会話で確信する。小川主任が稟議書の何かをいじったことに。それってバレたら、かなり宜しくない案件では……。

思わず、ジョッキを一気飲みしてしまった。


序盤に気まずい話をしたせいか、小川主任と陣野の飲むピッチが早い。

そのおかげで始まって二時間も経つ頃には、二人ともかなり出来上がっていた。ちなみに私は、陣野を警戒して今夜は飲むより食べると決めている。


「こらぁ、マツリ、小川主任サマにお酌しろぉ。手酌、手酌でお呑みになっておられるらろ」

「ははは、アルハラよ陣野。舌、また回ってないじゃん」

「いいか、小川主任様だけなんらろ。お前を、お前を具体的に実際、助けてくれたのわぁ」

「はいはい、むちゃくちゃ感謝してますよー。ねぇー、小川主任?」


とりあえず小川主任のコップに瓶ビールを注ぎ足しておく。

主任のトレードマーク?のブルーライト用メガネはいつの間にか外されて、裸眼の素顔だ。割と整った顔なんだと初めて知った気がする。


小川主任は、ほとんど話さず、ほの赤い顔でニコニコしてる。

「主任!ご感想は!?」


見れば分かる、ご機嫌な主任にウザ絡みする陣野。コップを掲げ、律儀に返す主任。

「さいこうれ〜す!」

「どうかん〜!!」


あれ? 二人とも呂律回ってなくない?もしや、かなり酔ってる??

歩いて帰れるのかしら……とか心配しかけた時、小川主任が胸を押さえた。


「……っ」

「どうしたジャアファル、まさか…まさか…!」

「えっ、心臓発作?!」

「いえ……電話れす」

「……」

良かった、でした。でもその後が良くなかった。


次回、鳴り止まないスマホ、震える指先

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