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13・待ち焦がれた金曜日

朝ごはんの時、唐突にジンが言う。


「金曜は飲み会だからな」


えーと。今日は金曜日。確か水曜の晩、アンタへべれけになって帰ってきたよね? 一日空けて、また飲むの? というか、


「金曜って今日!」

「空いてるだろ?」


ジンは、いつの間にか買って愛用してる真っ青なエプロンを脱ぎながら、当然という顔で言う。

ええ、えぇ、予定なんて入っていませんとも。花盛りの20代を会社に捧げる社畜ですからね!


朝ごはんのオレンジに八つ当たりする。

「メンツは?」

「俺とインコ、マツリとジャファルだ」

何その組み合わせ。


「ジャファルって、情報の小川主任?」


ここで飲みに行く仲だよね、とか仲良いよね、とか言うと、水曜に尾行したのがバレちゃう。いや、もうバレてる?


「そうそう。楽しみにしておけよ」

そう言ってジンはニヤァと笑ったけど、何を楽しみにしろと……?



明日は休みの金曜日。トラブルが起きやすいのが金曜日なら、行き詰まるのも金曜日。


午前11時、産休に入ったベテラン庶務の代打に入った新人庶務ちゃんが、全く仕事が回らないと泣いてる、と営業部からSOSが入った。いや他にも庶務いるだろ、と思ったけれど下心があったので、営業部までのこのこ出掛けて行って昼休み返上で手伝う。ベテランさんが復帰してあぶれたら、ウチに来てね!来週、ご飯に行く約束をして総務部に戻る。


戻ると当然、仕事が溜まっている。泣きたいのは、こっちだった!

だけど予想外に陣野が戦力化してきていて、痒い所に手が届くアシストをしてくれた。


今どきのランプの精はブラインドタッチと基本ソフトの操作スキルが標準装備らしい。何も理解できない。


「ほれ、もうひと息だ。今夜は飲み会だぞ」

合間々々に発破を掛けるがごとく、声を掛けてくれるけど、いやそんなモチベ上がるイベントじゃないんだな……。

だけど嬉しそうな陣野に引っ張られるようにして、仕事はサクサクと進んで行った。



午後1時半、インコ宛に電話がかかってくる。外線の転送電話だった。


「えっ」

インコの驚く声に目だけ向ける。唇を固く結んで強張った顔をしているのが見えた。


「それは……いや不味いだろ……うん、何とかする。うん、じゃあ」


プライベートでトラブル発生かな?こちらから声を掛ける。


「何かあったの」

「ちょっと……ウチで面倒見てる子どもが熱出して。姉が学校から引き取ってくれたんですけど、姉のとこも双子の乳児がいて、ですね」


インコって子持ちだったの!?水曜に電話してたのは、弟妹じゃなくて子ども……!?いや、年齢的に無理がある?でも『面倒見てる』なんて言い方、実の兄弟じゃないのかな……?

子どものケアなんて正直さっぱり分からない。ということで2課のママ先輩達を振り返る。


「えーっと。こういう時、どうしたらいいですか?」

「隔離しないとね。早退できるなら、早退した方がいいよ」

「乳児にうつると大変だしねぇ」


さすが経験者、そして地獄耳。

もちろん、ママ先輩方の意見に反対する気は無い。


「んじゃ、早退していいよ。特に何かあるかな?」

「急ぎ案件は特に無いと思います。重要案件には参加できなくなりましたが……」

「また次があるんじゃない?」


慌てて話を遮る。先輩達の視線と好奇心が刺さってる気がする。


「それよりも早く行ってあげなよ。後は何とかしとくからさ。」

「すみません、ありがとうございます」


意外にも陣野は何も言わない。ただ、インコと目と目を合わせて、頷き合っていただけだ。後は黙々と仕事している。何か……肩透かし感。



午後3時。恐れていた依頼がついに来る。

営業3課の課長からだ。

「御歳暮決められないからさ、ちょっと見に来てくれない?」


毎年の恒例行事化してる、この依頼。ただ単に女性社員とグダグダ話したいだけでは疑惑がある。ほんと長いのよ、拘束時間が!そんな暇ないのに!


「俺が行きますよ」


隣で陣野がニヤついてる。それもいいかも。とりあえず承諾の返事をして電話を切った。

そのタイミングで藤森部長が帰ってきた。陣野は颯爽と声を掛ける。


「部長、お疲れ様です!ちょっと営業3課へ行ってきます」

案の定、部長は怪訝そうな顔をする。


「営業3課?陣野君がかね?」

「はい!営業3課の課長、毎年お歳暮決められないらしくて、女性社員が何時間も捕まるそうなんですよ。今の総務一課でソレされると困るんで、代わりに僕が行こうかと」

「毎年かね」


部長と陣野が私の方を見る。私は電話中。なのでコクコクと必死に首を縦に振る。


「毎年?」

「ええ、毎年」

「女性社員と?」

「ええ、指定されるとか」

「では今年は私が行こう。我が社のコンプライアンスは一体どうなっているのかね」

「僭越ながら僕もそう思います」


そのまま部長は御歳暮カタログと過去の送付リスト片手に出掛けて行った。

もちろん秒殺だったらしい。今年の品目をキメて帰還した部長が、私と陣野から喝采を浴びたのは言うまでもない。何だか総務部のノリがどんどん良くなっている気がする……。


そんなこんなで午後6時の帰社時間には、急ぎの業務は粗方完了していた。

陣野が隣で大きく伸びをして叫ぶ。


「ヨシ!帰るぞ!!」

「あんたは派遣だからね……。残業しちゃダメなのよ」

「お前も帰るんだよ。急ぎの要件は終わっただろ?」

「もうちょっと片付けないと、月曜がしんどい」

「お前。優先順位を付けながら仕事しただろ?今日やらなきゃ分は終わったはずだ」


2課のママ先輩達が退出する物音がする。

「ごめんね、お先に」

「お疲れ様でした〜」


ママ先輩達の姿が消えてから、陣野は続ける。

「見ろ、あの鮮やかな退出ぶり。線引きが上手い証拠だ。

お前だって行く所があるんだから」

「あのね。行く所って、微妙な3人で会話に困る飲み会でしょ?」

「イケてる3人で待ち焦がれた飲み会だよ」

「誰が」

「俺とジャファルとお前」


きっぱり言い切られて、目を半分閉じる。


「分かった。6時半。」

陣野は妥協案を出す。今は6時5分。


「6時半出発だ。化粧直しの時間も入れてな」

「分かった」


もちろんメイクは今朝も陣野がしてくれた。魔法でも使ってるのか、ほとんど崩れない。化粧直しなんて、お手洗いで5分も掛からないな。


「「ヨシ!」」

気合いの声が被った。

あれ?飲み会にたどり着かないぞ?

次回、タクシーの魔人、本領発揮

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