231話 両親を思い(6)
夢の中で、俺は今の俺のままだった。そして目の前には、俺の知っている両親の姿があった。
「あ……母様、父様」
絞り出す声で二人を呼ぶのに、一歩も動けない。震えて、足が出ない。優しく微笑んでくれているのに。伝えたい事が沢山あるのに。
そんな俺を察して、母が駆けてくる。ギュッと抱きしめてくる、その体はいつの間にか俺よりも小さくて、肩は細く感じた。こんな体で、俺を守ってくれたんだ。怖かったし、痛かっただろう。
かき抱くように抱きしめた俺はひたすら謝っていた。忘れていてごめん。顔を見せなくてごめんと。
でも母はそんな俺の頭を撫でてくれる。似ている、薄青い目には薄らと涙があった。
『こんなに大きくなって。立派ですよ』
「あ……」
優しい音が耳に残る。幸せそうにする母は心から俺の成長を……今を喜んでくれているようだ。
そんな俺達を暫く見守っていた父もまた近付いてきて、ポンと頭を撫でる。目線が合う。そして、何処か見知った顔をしている。
『クナル、立派になったな』
『本当に。私達の子が神の使徒を助け、世界を救ったなんて。とても誇らしいわ』
「なんで……」
知っているのだろう。
思って問えば、二人はくすくすと笑う。
『大事な子の事だもの、知っているわ』
『ちゃんと見ているよ。子供も生まれたんだね』
『可愛らしい子達で嬉しいわ。それに、とても強い子になるわよ』
「そんな事まで!」
驚いて涙は引っ込んだ。そんな俺に母が手を伸ばし、頬に触れる。優しく、顔の形を確かめるみたいに。
『貴方にそっくりね、ライムント。ふっくらしていたほっぺも好きだったのだけれど』
『瞳は君にそっくりだよ、ブランシュ。あと、勝ち気な性格もね』
『あら、勇敢って言ってほしいわ。ライムントの魔法の才能も感じるわね。抜かれてしまったけれど』
『あぁ、本当に。強くて優しい子になったね』
嬉しそうに、懐かしそうに両親は俺の話をする。思い出せていない小さな頃の事を一つずつ拾い上げるように。それは少し恥ずかしく……でも幸せな時間だった。
◇◆◇
目が覚めて、俺は泣いていた。けれどそれを拭えば、もう悲しみに涙するのは止めようと決めていた。
二人とも約束したのだ。過去を後悔して泣くのは止めてと。どうせなら、懐かしく温かい思いで思い出してと言われた。
後悔していない。大切な子を守れた自分達を誇りに思うと、両親は言ってくれた。
そんな二人が残してくれた人生を、俺は誇りをもって生きると誓った。
同時に、国にいる大切な家族を思う。
起き上がり、身支度を整えた俺は階下へと向かう。そこには心配そうな叔父やオレグがいて、苦笑して近付いていった。
「大丈夫かい、クナル」
「あぁ。叔父さんも、ありがとう」
「いや。私もどこかすっきりとした。姉上と義兄上は勇敢な戦士であり、素晴らしい両親だったんだね?」
「あぁ、間違いない。母様と父様はとても偉大な人達だ」
もう既に、あの人達を偲ぶ物は残っていないだろう。それでも構わない。きっとそんな物なくても二人は見守ってくれていると確信できるから。
一度フスハイムに戻り、改めて雪鬼の回収に騎士団が編成された。大きすぎてその場で解体がされ、俺は角や魔石といった稀少部位を押しつけられた。別にいらなかったんだが、討伐者の権利だと言われてしまった。
そうして数日を過ごしてから、俺はマサのいるベセクレイドへと戻る事になった。
「今度は温かい季節に、子供達を連れてくるよ」
「あぁ、待っているよ」
歩み寄り、握手をして、そのまま抱き合って互いの肩を叩いて俺達は別れた。もうここに、遠慮のような感情はない。実家だとちゃんと思える。待っていてくれる人がいるのだと感じる。
そうして徒歩で嶺まで降りて、レナウォンに到着するとセヴァンが苦笑していた。おそらくこちらの動きを察したのだろう。もしかしたら見ていたのかもしれない。最悪は、助けるつもりだったかもしれない。
それでも、俺がやるのを見守ってくれていたんだ。
「よぉ、スッキリ帰れるか?」
「あぁ」
セナとスティーブンにも挨拶をして、泊まって行けというのは断って、俺はセヴァンに乗ってベセクレイド王都へと戻ってきた。
足が逸る。一分、一秒でも早くマサに逢いたくてたまらない。息を切らして走って、第二騎士団宿舎の扉を開けて見回し、食堂へ。既に昼は終わり夕食の準備をしているのだろうマサを見つけて、俺は飛び出していた。
「クナル、おかえりぃ!」
「マサ!」
手を拭いて近付こうとするマサを、俺は力一杯に抱きしめた。俺の安住の場所。大切な、愛おしい場所。大切な人。
驚いたマサが目を丸くしている。その耳元に、俺は何度も「愛している」と囁きかけている。溢れそうな気持ちを余すところなく伝えたくて。
これに更に驚いたマサだが、直ぐに穏やかな笑みを浮かべて背に触れてくれる。
「俺も愛してるよ、クナル」
「っ! ありがとう、トモマサ。俺を、好きになってくれてありがとう。俺と、番になってくれてありがとう」
「俺も嬉しいよ、クナル」
明るい声が響く。その邪気のない笑顔に救われる。
上向いたマサの唇に唇を重ねて、俺は何度でも誓う。
彼を生涯、愛し抜くと。
完全完走です! 完結までお付き合いいただき、ありがとうございました!
ネオページで連載を始め、こちらへと移植し、途中多くの人に読んで、知っていただく機会もいただけて、とても幸せな連載でした。
感想までいただけて、とても嬉しいです。
スピンオフなども少し考えはあるのですが、ひとまずは完結です。
皆様、ありがとうございました!
またどこかでお会いしましょうv




