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【完結済/毎日20時】おまけの兄は異世界で騎士団のお世話をします  作者: 凪瀬夜霧
3章 女神の使徒→救世の聖人
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226話 両親を思い(1)

 ハクとユウが生まれて半年が経った。

 無事に退院した後の宿舎の内祝いはそれは盛大で、大きな音や沢山の気配に二人は泣きじゃくってしまった。

 その後は城につれて行ってのお披露目。先に祝いとしてベビードレスをもらっていて、それを着ての登城だった。

 愛らしい二人に両妃や陛下、殿下やロイまでメロメロになったが……同時に、少し先に生まれていた殿下とロイの子供達がもの凄く興味を示した。

 これを見た一同が「あ……」と諦めの目をしたが、俺としては嫌だ! こいつらの子供は執着が強そうで何か怖い!

 ロイが死んだ目で「諦めて?」と言ったのを、俺は全力否定した。


 そんなこんなで、子供達はすくすく育っている。

 最初こそ大変だったが、どうにか分担して乗り切った。

 主に日中は俺が執務室で面倒を見て、マサには休んでもらった。責任感の強いマサは「家政夫の仕事」と言ったが、全員がこれを止めさせた。寝不足で何を言ってんだか。

 その分、夜間はマサが担当してくれた。二人で過ごせる時には二人でハクとユウの相手をして、笑い合っている。小さな手を伸ばしてギュッと強く握るのは愛おしさが溢れて顔が崩れそうだ。


 食事も母乳から離乳食へと順調に移行している。

 マサは張り切って離乳食をあれこれ作り、それがあまりに美味いとロイが勉強に来ている。必然的に子供達も来て、今では六人で絡まりながらワチャワチャしている。


 そんな様子を見て俺は、一つ思っていたことをマサに伝える事にした。


「え? フスハイムに行くの?」


 頃は十一月が近く冬となる。それもあり、マサはやや心配そうな顔をした。

 この顔を見ると行くのを躊躇うが、それでもきっちりとしたい事があったんだ。


「親父と、母さんの墓参りに行っておきたいんだ」


 これにはまだ、俺も違和感がある。だがそうとしか表現できないのだ。

 俺には両親の記憶がない。気付いたら辺境伯領で救助され、辺境伯の爺さんと婆さんに育てられた。

 けれど幸いな事に、両親だろう人達は特定できている。以前マサと一緒に訪れたフスハイムにて、フェレンツ王が伝えてくれた。彼の姉姫が、おそらく俺の母親だろうと。

 公爵と結婚した王女には子が一人いて、名は「クナル」という。行方を眩ませた年齢と、保護された年齢がほぼ合う。何より俺の目の色は母と同じで、顔立ちは父の公爵と瓜二つだ。

 当時は色々と懸念があり、これを必死に否定した。そうしなければフスハイム国のゴタゴタに巻き込まれると思ったのだ。

 だがもう、その懸念もなくなった。

 依然として記憶はないが、それでも一つのケジメとして、両親の墓とされている場所と、消えたと思われる場所には行きたいと思ったのだ。


 これはマサも知っている事だ。だからこそ今、真剣に考えている。


「どうして、墓参りしたいって思ったの? 記憶が戻ったとか?」

「いや、そうじゃない。切っ掛けはハクとユウの誕生だ」

「え?」

「……あの時、マサはもの凄く苦しい思いをしながらも笑って、死にそうになっても目が覚めた後は幸せそうにしていた。それを見ていたら……俺にも、こんな思いで生んでくれた母がいて、その誕生を待ちわびた父がいたんだろうと思ったんだ」


 その両親を覚えていない薄情な息子だが、それでも思った。親不孝でもいいから、ちゃんと見ておいて、報告をしたいと。


 これを聞いたマサは笑って、頷いて俺の手を握ってくれた。


「いいよ」

「大丈夫か? まだ手がかかるだろ?」

「他の人も頼るから大丈夫。それに、これはクナルが行かないと意味がない。俺もついて行きたいけれど、今回は無理そうだからそこは遠慮する。二人がもう少し大きくなったら改めて俺もご挨拶に行くよ」

「マサ……ありがとう」


 ギュッと抱きしめると、マサは嬉しそうに笑って背中に腕を回してくる。

 こうして俺は長期の休暇を取って一路、フスハイムへ向かって一人旅を始めた。


◇◆◇


 当初の予定では一人旅。馬にも乗らずに町を経由していく予定だった。寒さにも雪にも強い俺なら下手に馬に乗るよりも機動力があるだろうと考えての事だった。

 だが、王都を出て直ぐにその予定は完全に崩れた。


「セヴァン?」


 王都を出て直ぐで、俺は見知った人物に捕まった。

 短く癖の強い黒髪に湾曲した二本の角、背には皮膜の翼を畳んだ美丈夫がニッと鋭い歯を見せて笑う。重苦しい気配は魔力の高さ故で、気の弱い者などは離れていくだろう風格を持つ人はそのくせ気さくで人が好きだ。

 今も片手を軽く上げて近付いてくる。これに腰に手を当て、俺は心配性の夫を思った。


「マサが心配して連絡したのか?」

「まぁ、そんな所だな」


 古代竜であり、神が作った神獣セヴァンは気さくに隣に立つ。一八〇センチはある俺よりも更に上背のある相手を見ながら俺は小さく息を吐いた。


「こんな簡単に古代竜を使っていいのかよ」

「いいんじゃね? 別に絶対従わなきゃなんねー訳じゃないし。俺も同意して、楽しんでの旅なら問題ないって」

「気安いっての。まぁ、お陰で俺は助かるけどな」


 何せ徒歩で一ヶ月かかる旅程が、セヴァンなら一日だ。


「おう、お前と智雅なら使ってくれていいって。国一つ滅ぼせ! とかは聞けないがな」

「出来るだろ。だから冗談でも言わねーよ。あぁ、マサが無理矢理連れ去られたとかなら言うかもな」

「あははっ、そりゃ俺よりもシムルド辺りが激怒して神罰って事で処理するな。それに、んな事したらメリノ様とタウス様が真っ先に怒る。俺達が手を下す前にドッカーン! だ」

「……笑えねぇ」


 神の覚えもめでたいどころの話じゃない。この世界を救い、二人の神と四人の神獣を救ったマサは年月が経った今も神々に溺愛されているのだ。


 王都からかなり距離を取り、人の目がなくなった所でセヴァンが本来の姿に戻る。黒い体色に金の模様が混じる威厳と神々しさを合わせた姿は未だに圧倒される。

 そんな存在が当然のように背に招くのだ。

 有り難く乗せてもらうと、乗り心地は悪くない。硬そうな皮膚は実はしっとりとしていて温かいのだ。


『んじゃ、ひとっ飛びしますか。どっか経由するか?』

「あ……それなら、レナウォンに一度頼む。この機会に育ての両親にもちゃんと俺から報告がしたい」

『星那とスティーブンの所か。あいつらも結婚したんだっけな。お似合いだぜ』

「そうだな、俺も挨拶していくか」


 生まれ育った辺境伯領は今、殿下の弟のスティーブンが公爵として治めている。そしてマサの妹セナを妻に迎えていた。

 あの二人がそこに落ち着くなんて、最初はまったく考えてもいなかったが、今はとてもお似合いの夫婦だ。


『んじゃ、行くぜ。落ちるなよ』

「そこは落とさないでくれよ」


 恐ろしい事をサラッと言ってくれる。

 大きく皮膜の翼を広げたセヴァンはグンと高度を上げて飛び立つ。これでも緩やかに上昇してくれているのだが、それでも多少耳が痛くなる。息を抜いてやると治まるのだが。

 見渡す限りの青空と雲。その雲は季節柄、少し鈍い色をしている。向かう先は特に、もう雪が降り始めているのだろう。

 眼下には平原が広がり、町がある。これらを見下ろせるとは、数年前の俺は想像もしていなかっただろう。


「改めて、凄いな」

『どした?』

「この景色だ。町を見下ろすなんて、雪豹の俺では考えた事もなかったなと」


 これらは鳥系の種族の特権だからな。

 これにセヴァンは笑う。そして心持ちゆっくりと飛び始めた。


『俺も好きだぜ、空の景色。やっぱドラゴンだからな。飛ぶのが好きだ』

「あんたには似合うよ」

『気に入ったならたまに背中乗せてやる』

「だから、気安いっての」


 そんな事を笑いながら言い合って進む旅路は順調そのもので、昼前には最初の目的地、辺境伯領レナウォン近郊に到着した。

本当に最後のお話となります。

クナルの消えた記憶を辿って

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