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【完結済/毎日20時】おまけの兄は異世界で騎士団のお世話をします  作者: 凪瀬夜霧
3章 女神の使徒→救世の聖人
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225話 マサの出産~クナル~(5)

 ……なんだか、色々と思う事がある。あの子が俺に似ているからだろう、マサに抱かれている姿を見てふと、覚えていない父母の事を思った。

 薄情なものかもしれない。あんなに苦しい思いをして生んでくれて、五歳くらいまでは不自由なく育ててくれた。おそらく、愛情もかけてくれただろう。

 そんな風に愛してくれただろう人を、俺は覚えていないんだ。それどころかあちらの事情に巻き込まれるのを嫌って、叔父にも一線を引いた関係でいる。それが、途端に薄情に思えたのだ。


「クナル?」

「え?」

「どうかしたの?」


 気付けば二人目の授乳も終わって、マサが慣れた様子で背中を叩いてげっぷをさせている。その状態でキョトッとした顔をしていたのだ。

 言うべきだろう。同時に、俺だけでも父母の墓参りをしたいと思った。何も残っていなくて、おそらく襲われただろう場所くらいしか分かっていない。あの日、何があったのかを知っているのはきっと俺だけだ。

 後で、言ってみよう。マサがもう少し回復してから。


「いや、今度ちゃんと話す」

「? うん、分かった」


 疑問そうにしながらも、最後にはそう言ってニッコリと笑う大らかな人の側が心地いい。俺もそれに微笑み返して、マサと子供二人を抱いたままほんの少し、家族の時間を過ごしたのだった。


◇◆◇


 その日は俺も同じ部屋で寝かせてもらったが、マサは疲れていたのか直ぐに寝入った。

 翌日は改めてマサの体の検査とケア、赤ん坊の検査などがあるとのことで、俺は仕事に戻った。

 食堂に行き、無事に生まれた事とマサも無事という報告をすると食堂全体が振動するような歓声が上がって、思わず耳を押さえてびっくりした。

 でも、口々にお祝いや安堵を口にする仲間達を見て、俺も胸が温かくなる感じがした。

 泣きすぎてグチャグチャのグエンはお祝いの料理と言ったが、それは退院してからとお願いした。それというのもまだ体が回復しきっていないから、今は消化に良くバランスの取れた物がいいそうだ。

 渋々ではあるが体の為と言われたらしかたがない。グエンは「退院したらお祝いと内輪のお披露目だぞ!」と言ってくれた。賑やかになりそうだ。


 その後、仕事を替わってくれたデレクにも報告すると肩をバンバン叩かれて「良かったな!」と言ってくれた。同時に、「城にも連絡しろ。でもまだ面会はダメだって伝えろ」と言われて外に放り出された。まったく、忙しい事だ。

 その足で真っ直ぐ城に行くと奥院に通される。

 いきなりロイ、クライド妃、エルシー妃。そして生まれるまでは滞在していたセナとスティーブンに詰め寄られている。


「マサさん、生まれましたか!」

「あぁ、おう。昨日の深夜にっ!」

「良かった……皆元気ですか?」

「あぁ、大丈夫だ」


 圧の強いロイもほっと一息つく。これは皆が同じで、セナなんかちょっと泣きそうな顔をした。


「今日は諸々検査があるし、マサの方は疲れてるみたいでもう暫く面会は俺だけって言われちまってるんだが、とりあえず無事に生まれた事だけでも知らせに行けって言われてな」

「当たり前ですよ。でも、そうですね。子を生むのは大変な事ですから、しばらくは体も辛いでしょう」

「そういうあんたは一週間しないで働き出したよな」

「僕は護衛騎士だからね。マサさんとは基本の体力が違います。何よりも体も彼よりは大きいですから、その分負担も少ないのですよ」

「そういうもんか」


 確かにマサの体では辛そうだった。俺が生む方に回った方がよかったのかもしれないが……いや、そこは流石に譲れないものがあったな。


「今年は素敵な事が多いわね。じゃあ、お披露目までに皆で、マサとその赤ちゃんへのお祝いを考えましょうか」

「おっ、そうだな。お披露目用のベビードレスは勿論だな」


 エルシー妃がとても楽しそうに言い、これにクライド妃とセナも乗っかる。

 そんな様子を見ながら、ロイも楽しそうにしている。


「我が君と陛下には僕の方から伝えますよ。お披露目はいつの予定ですか?」

「まだ全然だ。本当に昨日の深夜だったからな……あ!」

「え?」

「名前、決めてない……」

「はぁぁ!」


 バタバタしすぎてそういえば決めていなかった。事前に少し話してはいたが、結局は顔を見て決めようとか言っていたんだった。

 これにはロイとスティーブンが呆れた顔をする。いや、分かる。俺もこれが他人なら同じ顔をする。


「大慌てで……」

「珍しいね、クナルがこんなに慌てているなんて」

「ふふっ、親になるということはこんな事の繰り返しかもしれませんね」


 可笑しそうに笑われて恥ずかしい。そんな俺の肩にロイがトンと手を乗せた。


「戻って、名前決めてきてはどうですか?」

「そうだな。決まったらまた連絡する」

「えぇ、お待ちしておりますよ」


 来た時と同じようにバタバタとその場を去った俺は慌てて宿舎に戻り、リデルに面会を頼むと全身洗浄と消毒をされて通された。

 マサの病室には小さなベビーベッドが並んでいて、その中で二人が「う~あ~」と言っている。その様子を満足そうに見ているマサがふと顔を上げて、俺にも笑いかけた。


「どうしたの?」

「いや、大事な事忘れてて。名前、決めてなかっただろ?」

「あっ!」


 同じく忘れていたらしいマサも声を上げる。こうして新米親二人で苦笑し、それぞれに子を抱き上げた。


「何がいいかな? この子にはあんまり派手な名前は似合わなそうだしな」


 そんな事を言うマサに、俺は少し思っていた事を伝えた。


「お前の世界の名前を、つけてくれないか?」

「え? 俺の世界の名前って……漢字ってこと?」

「あぁ」


 これはほんの少し思っていたんだ。

 マサの名前は本当は“トモマサ”という。これにはズイカやウォルテラでも使われている漢字という文字が使われている。

 以前一度書いてもらったが、読めないまでも文字が美しいと感じたのだ。


 マサは少し考えている。けれど直ぐに俺の抱いている白髪の子を見て、赤ん坊を一度ベッドに戻してから適当な紙を掴んでそこに文字を書いた。


白玖(ハク)っていうのはどう? 音だけなら白とも取れるんだ」

「ハクか。この世界でも呼びやすいし、あんたがマサで二文字だからな。いいんじゃないか?」


 紙に書かれた文字をなぞってみる。マサの名前よりはいくぶんスッキリとしている。これなら少し大きくなって練習すれば自分でも書けるようになりそうだ。


「こっちの子は……うーん……」


 ベッドに置いた黒髪の子をジッと見つめて唸るマサを、その子はくりっとした黒い目で見つめ首を傾げている。なかなかに愛らしい子だ。


「優羽、なんてどうかな?」

「ユウ?」

「そう」


 新しい紙にサラサラと文字を書いていく。今度は最初の文字がゴタゴタしていて、随分書きにくそうだ。


「この最初の文字は“優しい”って文字なんだ。気持ちの優しい子になって欲しいなって思って。後ろは翼って意味。自由に、世界を羽ばたける子になるように」


 彼が書いた紙を手にして、じっとそれを見つめる。それと黒髪の子を交互に見て……俺も頷いた。


「いいな、その願い」

「うん! あっ、白玖の後ろの文字は富むって意味があるんだよ。ちゃんと文字選んだからね」

「分かってるよ」


 慌てて補足するマサに笑いかけ、俺は抱っこしている自分にそっくりな子を見つめる。


「よろしく、ハク」

「? うー!」


 分かっていなさそうだが、それでも声を上げた。これを同意としよう。


「よろしくね、優羽」

「あ~」


 こっちは分かっているのか、しきりに小さな手をマサへと伸ばしている。


「白玖、優羽、えっと……お母さん? お父さん? あれ?」

「ママでいいだろ?」

「なんか恥ずかしいな。でも……っママだよ!」

「パパだ。よろしく、ハク、ユウ」


 木漏れ日に、柔らかな風が入る室内で俺とマサと二人並んで、腕の中の子に初めてそう名乗る。薄青い瞳と、黒い瞳が不思議そうに俺達を見て、次にはお日様みたいに笑いかけてくる。

 そんな、幸せな午後の時間だった。

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