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【完結済/毎日20時】おまけの兄は異世界で騎士団のお世話をします  作者: 凪瀬夜霧
3章 女神の使徒→救世の聖人
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224話 マサの出産~クナル~(4)

「……まずいな」

「え?」

「行くぞ」


 突然ソウシュンが険しく眉根を寄せ動き出すのにつられ、俺も動く。だがここの扉は許可のない者は入れないんじゃ……。

 だが神獣にそんなものは関係ないのだろう。扉に手を触れてあっという間に解除した彼が処置室に乗り込むと、リデルはまさに回復魔法をかけ続けている状態だった。

 室内は酷く血の臭いがする。マサは冷や汗を流して顔色が悪かった。


「リデル!」

「クナル! それに……」

「神獣だ。どれ、替わろう。この者を死なせたら、皆が悲しむ」


 青い顔のリデルに代わりソウシュンが触れて回復をかけた瞬間、血の臭いが薄らぎマサの顔色も徐々に戻っていく。それに俺もリデルもほっとして、リデルなどは膝から崩れ落ちた。


「ありがとうございます。出血が予想以上に多くて、止まらなくて」

「そのリスクは常にある故な。だが、ポーションも飲ませて体力を保たせ続け回復に専念した事は正しい。良い医者だ」


 そう、微かに笑った彼がリデルに手を貸している。

 俺はマサに触れて、しっかりと呼吸をしているのを感じて安堵で涙が出た。


「よかった」


 もうそれしか、出てこなかった。


◇◆◇


 その後、様子を見てからマサは病棟に移され、子供達はウッドマンが丁寧に産湯につけて着替えさせ、感染予防の薬などを少量飲ませてと世話をしてくれている。

 ソウシュンも今夜はここに留まると言ってくれて、今はリデルと一緒に少しゆっくりとした時間を過ごしているだろう。


 俺はもう一歩も、マサから離れられなかった。

 分かっている、もう危険はないと。顔色も徐々に良くなり、呼吸も深く穏やかにしている。体も温かい。

 それでも一度、あんな姿を見てしまったら怖くて目が離せなくなる。

 布団の上にある手に触れたまま項垂れる俺は、ふとその手が動いた事に反応して顔を上げた。


「……クナル?」

「マサ!」


 ぼやっとした様子で俺の名を呼ぶマサを見て、一度は引っ込んだ涙が溢れてきて……覆い被さるように抱きしめていた。


「クナル?」

「よかった……マサ、よかった」

「え? あっ、うん?」


 いまいち分かっていない声だ。それでも、彼は緩く自由になる腕を上げて俺を抱きしめる。それだけで、俺は全てを神に感謝できる。


「どうしたの?」

「どうしたのじゃない。お前、危なかったんだぞ」

「え!」


 驚きに満ちた声に思わず笑う。本当に緊張感のない奴だ。

 でも……そうだな。日常が戻ってきたと思えば、そうなんだろうな。


 苦しい胸の内がゆっくりと解れていくのを感じる。不安や不甲斐なさが溶け出していく。残るのは感謝と幸福だけだ。


「あの、何があったの?」

「出血が止まらなかったんだ。だが、念のためにとソウシュンが控えてくれていて事なきを得たんだ」

「そう、だったんだ。あぁ、でも……最期の方はなんだか意識が薄れてきてて……って! 赤ちゃんは!」


 ぼんやりと思い出していたマサが突然慌てる。だが、傷の回復は出来ても体力や出血の分はそんなに早く回復はしない。起き上がろうとしてフラフラになって、またパタンと布団に倒れた。


「マサ!」

「ふらっとした……貧血だね」

「まったく……」


 本当に脳天気な。だが、俺も安心した。いつものマサだ。

 頭をグリグリと撫でて笑って、「リデルを呼んでくる」と一声かけて……ふと、言い忘れていた事を思い出した。


「マサ」

「ん?」

「ありがとう。俺と、家族になってくれて。可愛い子供達を生んでくれて」


 途端、マサは目を丸くして……次にはふっと優しく微笑んだ。


「俺こそありがとう、家族になってくれて。クナルと、子供達と、これからも一緒に居られるの凄く嬉しいよ」

「あぁ、俺もだ。まぁ、なんだ……これからも、あんた等を全力で守るから」


 段々、今になって小っ恥ずかしくなってきた。顔がやや熱い。

 俺はそのまま後ろを見ずに、リデルの所に向かった。


 リデルに声を掛けるとパッと立ち上がり、赤ん坊用の小さなベッドにいる子を一人抱き上げる。俺も一人を抱き上げ、ソウシュンも一緒になってマサの元へと戻った。

 病室に柔らかな明かりがついて、そこで上半身を起こしたマサを見てリデルもほっとした顔をする。大丈夫だと分かっていても、やはりこうして起きている姿を見ると安心するのだろう。


「トモマサさん、体の具合はどうですか? 痛いところや、苦しい所は?」

「リデル、大丈夫だよ。少し貧血っぽいけれど、具合が悪いって程じゃないから」


 抱えていた赤ん坊をソウシュンに抱かせ、ぱっと近づきまずは診察をしていく。そしてほっと頷いた。


「血は足りていませんし、疲労の色も濃いようですが他の異常はなさそうですね」

「うん。それより、赤ちゃんは」

「連れてきていますよ」


 くすくすっと笑うリデルの目配せでソウシュンと二人で近付いていくと、マサの目はキラキラ輝いて両手を伸ばした。


 ソウシュンが抱いている方をまずは受け取ったマサはとても嬉しそうにしている。

 こちらはマサにそっくりだ。黒い髪がぽやぽやっと生えていて、目尻が下がっている。それでも耳は俺と同じ雪豹で白く、尻尾も同じだ。

 ぷくぷくのほっぺたをツンツンと突いたマサは優しい顔をしている。そのうちに小さな口元がふにゃふにゃっと歪んで、小さく愛らしい声で泣いた。


「お腹空いたのかな?」

「かもしれませんね。よろしければ初乳、あげてみますか?」

「え! 出るかな……」


 自分の胸をモニモニっと揉んだマサは日課になっているマッサージをしてみる。すると「あっ、張ってるかも!」と声を上げ、黒髪の小さな子を腕に抱いた。


「コツはカポッと口いっぱいにはめ込む感じで」

「うっ、うん」


 やや緊張の様子でリデルに言われたままに「えい!」と咥えさせる。すると赤ん坊は目をやんわりと開け、小さな手でマサの胸を押し始めた。


「あっ、飲めてるかも。ってか、この手可愛い」

「わりと見られますよ」

「猫が柔らかい毛布とかもみもみしてるのは見た事あるけど……雪豹もネコ科か!」

「そういう言われ方はちょっと……」


 否定はしないが複雑な気分だった。

 五分程そうして飲んでいたチビ助が自分から口を離したのを見て、俺が近付く。そしてマサの腕にもう一人を抱かせ、満足した方は預かって背中をトントンと叩く。


 俺が抱いていたもう一人は、明らかに俺に似ていた。白い髪に雪豹の耳と尻尾。目尻もやや上がっているだろう。


「ふふっ、こっちはクナルそっくり」

「俺もそう思う」

「やんちゃかな?」

「さぁ、どうだろうな」


 可笑しそうに笑いながらも、マサは反対の方で授乳を開始する。そして直ぐに驚いたように「この子強い!」と言って皆を笑わせた。俺は……ちょっと恥ずかしかったな。

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