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【完結済/毎日20時】おまけの兄は異世界で騎士団のお世話をします  作者: 凪瀬夜霧
3章 女神の使徒→救世の聖人
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216話 星那の結婚(1)

 婚約をしたのが夏の頃。まずはここ、レナウォンでだった。

 一年以上この北の辺境に住むと居心地が良くなってくる。基本、厳しい自然環境だからこそ人々は結束し、普段から仲もいい。気軽に声を掛けてもらえて、あちらの世界にいた頃を思い出してしまう。


 そう、本来なら私はどこにでもいるただの女子高生で……まぁ、多少は読モとかもしてたけれど、芸能人なんてものじゃない。

 学校帰りに友達と買い食いしたり、カラオケ行ったりしてた何処にでもいる子供だった。

 それがある日、突然この異世界に呼ばれて聖女に祭り上げられたんだ。正直何がなんだか分からなかった。

 それでも、一人じゃなかったから頑張れた。


 私には十五歳も歳の離れた兄がいる。

 母さんと前の人の子供で、生まれた時にはもうかなり大きくて、お兄ちゃんと呼ぶのが正しいのか、微妙な感じがしていた。

 それでも優しいんだ、底抜けに。

 自分の事なんて全部後回しにして、見ていても大変なのに平気って言う。苦しくなるくらい頑張る兄を見て……私は絶対お兄ぃの幸せを願うって決めた。

 あと、騙されやすそうなのと甘っちょろいからSPもした。基本、笑って我慢すればなんとかなるって思ってる人だし。


 まぁ、もう必要ないけれどね。


 そんな兄もこちらの世界に召喚されて、しばらくは離れていたけれど直ぐに安全な場所で相変わらず料理作ったりしてるって聞いて、寂しいけれど安心した。

 新しい場所でも馴染んでるとか、掃除洗濯で革命起こしてるとか、料理が美味すぎて第二騎士団の人の胃袋掴んでるとか聞いて、思わず笑っちゃった。

 お兄ぃは相変わらず、最強だよね。どこでも直ぐに仲良くなって、馴染んじゃうんだから。

 まぁ、本人無自覚なんだけれどね。妹としては自慢よ。


 私自身、最初こそ巻き込まれてパニックだったし、その状況が非常に腹立たしくて怒鳴りっぱなしだったのもあって荒れてたけれど、直ぐに王様と王妃様二人が確保してくれて、謝罪と安全を保証してくれて数日で安定した。


 まさかこの『腹立たしい相手』と結婚するとは思わなかったけれどね。


 久しぶりに見ている王都の夜景。その背後でコンコンと音がする。

 応じると、そこには可愛い我が旦那様が優しく目尻を下げ、温かなお茶を二人分運んできてくれた。


「あまり夜風に当たっては体を冷やすよ、セナ。春とはいえ、まだ少し冷えるから」

「レナウォンの冬を元気に過ごしてるもの、このくらいは平気よ」


 とはいえ、ティーテーブルに置かれた湯気をあげる紅茶は魅力的だ。それに添えられた数枚のクッキーも。

 窓辺から立ち上がって席に着くと、同じように彼も着席する。

 私よりも長くて綺麗な金色の髪に、三角形の金の狼耳。後ろにはふさふさとした同色の狼の尻尾がついているこの人が私の旦那様なんて、あっちの世界にいた時は想像もしてなかったな。


「? どうかしましたか?」


 指先一本にまで神経を通わせる綺麗な所作で紅茶を飲んだ彼が、澄んだ青い瞳でこちらを見る。それに、私は意地悪に笑った。


「出会った当初のスティーブンって、ホント最低だったなーって」

「っ! ごほっ! セナ!」


 思わず紅茶を詰まらせ咽せるスティーブンの背中を軽く叩くと、彼は悲しそうな目をする。耳も自然と元気をなくしてぺたんと下がってしまう。こういうところ、獣人って嘘付けなくて可愛いなって思うのよね。


 第二王子だったスティーブンが私とお兄ぃをこの世界に召喚した。

 その頃の彼はとても傲慢で大嫌い。威張り散らしてるだけじゃなく、私の気持ちとか周りの事とか何も見えていないのが最低だった。

 何よりお兄ぃに乱暴しやがった、こいつ! 事情もあったし、謝ったし、お兄ぃも許したから水に流すけどさ。次やったらシメる。


 そんな相手が今じゃ領民に慕われる領主で、私の旦那様になるんだから。凄いよね。


 事情は……理解はした。

 どうやらスティーブンは何年もかけて少しずつ、誰かに精神を操られていたらしい。

 これもまぁ……納得はした。彼の母親であるエルシー妃はとても優しくて明るくて朗らかな人だったから。それに父親の王様だってプライベートは気さくな人。

 兄のルー様については腹の底がマムシみたいだなって思うけれど、それでも家族を大事にしているのは分かる。

 その中で思春期も過ぎて彼だけがこの荒れようというのは、後から入ってきた私にとっては不自然に思えた。

 魔法も呪いもあるこの世界の闇を見た気がした。そして、聖女である私はこれを払える人間だと言われて、正直重荷にも思えた。


 この世界は魔物が多くて、人は脅かされている。強いだけじゃなく、魔物が付けた傷は瘴気という毒のようなものが入り込んで治りが遅く、後遺症も残りやすい。

 これで一時期、ルー様の伴侶であるロイが死にそうになっていた。

 私は、ロイとルー様の瘴気を払う願いを込めてこの世界に招かれたんだ。


 でも、私には無理だった。

 期待はとても重くて、頑張っても出来なくてただ日が過ぎていく。その間にロイの容態が急変したら……そう思うと怖くて具合が悪くもなった。

 頑張ったし、暗くなっても何も解決しないからせめて明るく笑っていたけれど、本当は潰れそうだったんだ。

 もしもダメでもルー様は「君のせいじゃないよ」と言ってくれた。でもそう言う彼の顔は疲れ切っていて今にも倒れそうで、見ている事ができなかった。

 なんとなく、ロイが死んだらこの人も戻らないんじゃないかって、思ってしまった。


 そんな私を助けてくれたのが、お兄ぃだった。

 美味しい料理で体の中から瘴気を消してしまうなんて、規格外だけどお兄ぃらしい。本当に頼りになるし、助けてくれる人。

 そのお兄ぃが、なんだか寄り添うように一人の人の側にいた。

 雪豹獣人のクナルは見た目イケメンヤンキーみたいなのに、とても優しくて温かい目でお兄ぃを見ているし、お兄ぃも信頼して任せる部分があるように見えた。


 あんなに、誰かに頼るの「迷惑になるから」って言って苦手にしてたのに。


 あの瞬間、多分私は分かった。

 お兄ぃは、クナルの事が好きなんだって。


「セナ?」


 不意に服の袖を引かれてハッとする。

 見ると心配そうな顔をしたスティーブンがこちらを見ている。出会った頃の険しい目ではなく、彼本来の優しい、甘い目で。

 ほんと、正気に戻ってよかったな。


「どうしたのですか? 疲れてしまいましたか?」

「そうじゃないけど……ちょっと、色々思い出してるの。この世界に来た時の事とか、出会った人とか、そういうこと」


 これがマリッジブルーというやつか? いや、違うか。そうだとしてもかなり特殊だな。なんせ世界を越えて結婚するんだから。

 ……でも、何故か元の世界の事は今じゃあまり、思い出さないな。父さんとか、母さんとかは思い出すし子供の頃の事はちゃんと私の中にあるのに、友達とか、学校とか、そういうのは朧気になる。漠然と「楽しかった」という言葉で括れてしまう日々が、少し寂しくも思えた。

本日から番外編です。

マサの妹、星那の結婚ですよv

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