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【完結済/毎日20時】おまけの兄は異世界で騎士団のお世話をします  作者: 凪瀬夜霧
3章 女神の使徒→救世の聖人
200/231

200話 おまけの兄は異世界で幸せになります(1)

 魔の森での出来事から、一年と少しが過ぎた。今はこの世界で二度目の春を迎えている。

 騎士団宿舎は相変わらず賑やかで、俺は普通の家政夫に戻った。


 でも魔の森を脱出してから一年、目が回るほど忙しかった。


 空中神殿が落ち、聖女や聖人が消えて召喚の水晶が砕けた事はこの世界に混乱をもたらした。特に召喚に依存していた西側諸国は大混乱に陥った。

 彼らは女神信仰……に見せかけた聖女の力の搾取を行っていて、何かあれば直ぐに聖女の力を頼り、力が弱いとあからさまに馬鹿にして蔑ろにしていたらしい。

 タウスが言っていた「不遇にある者」というのがこれだと、俺は後から知った。

 そんな聖女が消え、召喚も不可能となった事で彼らが目を付けたのは東側……つまり、俺と星那だった。


 彼らは俺を生き神みたいに祭って自分達にも聖人の力を使えと再三書状を寄越し、特使を出して圧をかけたがイライアス王も殿下もこれを一蹴してくれた。

 更にこの身勝手な状況に怒ったのが聖樹の森のエルフ女王、ルルララ様や瑞華の千姫。とりわけウォルテラの紫釉と、フスハイムのフェレンツ王だった。

 更には直接関わりのなかったドラゴニュートの王様やドワーフの国も西側に圧をかけてくれて、戦争とならずに西は黙るしかなくなった。


 聞けば西側は種族ごとに国家を作り、社会性としては閉鎖的で、共闘など出来ない国が多いという。そんな彼らが今も国家を維持できていたのは聖女、聖人の力のお陰だったそうだ。

 「攻め入っても瞬殺したのに」と本気の顔で笑った殿下を、俺は今も忘れない。

 そんなわけで、帰還後数ヶ月は本当に気苦労が絶えなかった。


 そんな中でも嬉しい事はあった!

 まず殿下とロイが正式に婚約し、結婚式を半年後と宣言した事だ。

 これ、急すぎてクライド妃がガチキレした。


 なんでも王族の結婚は国の大事だから、周囲の国にもお伺いを立てて日程を調整など、準備段階がとても時間がかかるらしい。それを、半年後と魔の森の脅威が去り邪神が浄化された宣言の時にサラッと言ったのだ、あの人。

 ボッコボコにされる殿下を初めて見て、衝撃的だった……。


 ただこの問題は意外と解決した。先の西側問題で招きたい国の代表が一同に会したのだ。

 この時に殿下は全ての王家に自ら頭を下げて事を伝え、了承を得られた。

 そうして西側の脅威が去ってから一月後、これからは皆で手を取り合って生きていこうという宣言の数日後に二人の結婚式が盛大に行われた。


 俺も出席したけれど、素敵だった。

 城の大きな聖堂に白いタキシードに綺麗なヴェールを付けたロイが進んで行って、王様の前で結婚を伝えると空から真っ白い光と輝く羽が舞い降りてきた。これが、天からの祝福らしい。

 幸せそうに微笑む殿下と、感極まって少し泣いているロイがとても近い距離で互いに手を取り誓いのキスをするシーンは、なんだか俺も泣いちゃいそうだった。


 他にもある! リデルに子供が生まれたんだ!

 聞くと草食種と肉食種では子供ができにくく、妊娠しても流れてしまう可能性が高いのだという。

 リデルも過去に三度子を授かったけれど、途中で流れてとても悲しい思いをした。そしてそれから数年、発情の兆しがなかったのだという。

 デレクは子供が好きだけれど、それ以上にリデルを大切にしている。リデルの心の負担になるのなら子供はいらないと言っていた。

 でも……俺は二人に諦めてもらいたくなかった。

 だからリデルに発情の兆候が現れた時、俺はリデルと話をして、祝福のスキルを使った。

 女神が残してくれた、誰かの幸せを後押しするスキル。


 結果、リデルは懐妊して、俺はそれから毎日リデルのお腹を撫でながらスキルを意識して「母子共に元気に産まれてくるんだよ」と声をかけ続けた。

 最初怖がっていたリデルも自分のお腹がしっかりと大きくなって、子供が動くのを感じると恐れよりも喜びが勝ったみたいだった。

 そうして出産の日、デレクはずっと落ち着かなくてオロオロしていた。いつもどっしりと構えている人がずっとウロウロしていて……そして元気な声を聞いて直ぐに部屋に入っていった。

 あの光景も、俺はきっと忘れない。

 取り上げられた双子の赤ん坊を確認して、辛そうだけれど笑って泣いているリデルに駆け寄って、彼は声を上げて泣いていた。「ありがとう」と何度も言いながら。

 そんなデレクをリデルも抱きしめて「ありがとう」と伝え合っていた。

 俺ももらい泣きして、クナルが抱きしめてくれた。こんな素敵な夫夫に、俺達もなりたいと思った。


 ロイと殿下の結婚式の少し後、俺はクナルと海王国ウォルテラへと再び行くことになった。紫釉と燈実の結婚式に呼ばれたのだ。

 海の中の結婚式なんて想像つかなかったけれど、そこで俺が誘拐されかけるという騒動もあり紫釉がキレ、なんと彼の父親がいる更に遠くの国まで行くという大騒動があった。

 そして紫釉はあっという間に父親を退け自らが魚人族の王となってしまった。


 結婚式、どうするんだろう……と思っていたけれど、あの人何事もなかったかのようにやったんだよな。紫釉って、見た目に反して行動力の人だなって思った。


 海の中の結婚式はとても幻想的だった。ヒラヒラとした服を着た人々が自由に泳ぎ舞って、歌に楽器にと華やかで。

 その中で紫釉はまるで姫のように綺麗な白と青の裾の長い衣服を着て堂々としていて、燈実はその隣に甲冑を着て立っていた。

 杯を交わし、誓いを立てて祝福を受けた二人は誇らしげで、俺は見とれてしまっていた。


◇◆◇


 宿舎に桜に似た花の咲く木があるなんて、俺は去年の春まで知らなかった。

 真っ白になった洗濯物の入ったカゴを両手で抱えたままふと窓の外を見て、去年綺麗だと思った光景を今年も同じく見られた事に笑う。

 去年はこの時期忙しかったけれど、今年は穏やかな気持ちで見られたな。


 相変わらず宿舎の中は賑やかだ。でも、みんな掃除をするっていう概念がしっかり育ってくれたのは助かった。

 忙しくしながらも、俺は宿舎にある幾つかの開かずの間を片付けた。どれも……壮絶だったなぁ。今思い出しても溜息が出る。そんな惨状だった。

 何せ長年物を突っこみ、そのまま放置された部屋だ。埃が雪のように積もっていたのは勿論、居てほしくない住人が住み着いている事も多々あった。

 それでも、色んな人が協力してくれて今では綺麗になっている。


 ただ、全てを駆逐出来たわけではないのだ。


 それでも、今手元にある汚れ一つ無い綺麗なシーツを見ると成長を感じてしまう。お日様で干したいい匂いのそれを抱えて向かったのは、リデルのいる医務室だった。


「リデル、いる?」


 ドアを開けて声をかけると、部屋の主は格闘中だった。


「トモマサさん!」

「わぁ……」


 リデルはオロオロしながら腕に虎獣人の赤ん坊を抱えてあやしている。だがその子はご機嫌ななめなのか体中で泣いていた。


「ゼルご機嫌悪いですね」

「お腹空いちゃったみたいで、おっぱいあげないとなのに泣き止まないから」


 とにかく泣き止ませようと奮闘していたらしい。いつもは優しい羊獣人のリデルが今ボロボロだった。

 俺はリデルの腕から虎獣人の赤ん坊ゼルを受け取る。生後五ヶ月くらいだけれど既に首はしっかりとしているし、体も大きく骨太な感じがする。男の子だし、虎だしね。

 鮮やかな黄色に黒い虎柄で、耳の先が白いのが可愛い。顔はデレク似だろう。


 一方これだけ泣いているのにもう一人はまったく我関せず寝ている。小さなゆりかごの中にはふわふわの白い毛の赤ん坊が気持ち良さそうに眠っている。

 こちらが双子の兄で羊獣人のリュシー。寝るのが好きで、ぽやっと笑う癒しだ。

 ゼルは活発で暴れん坊で、手や足がリュシーに当たってしまう事もあるが、当人はぽやっとしたまま首を傾げて気にもしていない。大物かもしれない。


 腕の中のゼルの背中を一定のリズムでトントンと優しく叩きながらゆっくりと揺すると少し泣き声が収まってくる。そこに指を近づけると小さくとも逞しい手が捕まえて、勢いよくちゅぱちゅぱを始めた。

 相当、お腹が空いていらっしゃる。


「すみませんトモマサさん、準備できました!」


 ベッドに腰を下ろしたリデルが胸元を開けた状態でゼルを受け取り、授乳を始める。この光景、俺は最初どう見たらいいか分からなかった。


 神から祝福を受けた間柄では営みを繰り返す内に片方が妊娠可能となり、子が産まれる。そして子を産んだ方はその後一年程度母乳が出るのだ。

 現代人の常識をこの期に及んでまだ引きずっていたのかと、俺は己の未熟さを知ったのだった。

 とはいえ、今は見慣れている。日中は父親のデレクも仕事をしているし、リデルにも仕事がある。赤ん坊の事ばかりにかかりきりになれないので、皆が手が空くと代わる代わる様子を見にきて手伝っている。

 特に家政夫の俺と厨房長のグエンは多く手伝っている。


「よく飲むね、ゼル」

「食いしん坊なんでしょうね」

「美味しい離乳食作るからな」

「楽しみですね。私も作り方を教わらないと」


 そんな事を微笑ましく言っていると、近くで小さく「ほにゃ」という声がする。見てみるとゆりかごの中でリュシーも起きていて、ちょっと口元をムニャムニャさせていた。


「リュシー、おはよう。お腹空いたんだね」


 代替え乳でもあげたほうがいいかとリデルを見ると、丁度ゼルが満足したようなので交替。俺はゼルを受け取って背中をトントンしてげっぷを出させ、ゆりかごに戻した。


「トモマサさんの手際の良さを見習いたいです」

「俺は星那のお世話もしてたから」

「それにしてもですよ。でも、これで安泰ですね」

「え?」

「トモマサさんの子育てが楽しみですよ」

「子育て!」


 その言葉に驚き目を見開く俺に、リデルはおかしそうに笑った。


「そんなに驚かなくてもいいじゃないですか。五日後には二人の結婚式なのですよ?」

「いや、そうなんだけれどね」


 それでも改めて言われると少し慌てる。特に子供とか……夜の事とか。俺達はまだキス以上はしていないから。


 結婚式か……バタバタして、延期に延期を重ねて一年と少し。本当に五日後には俺、クナルと結婚するんだ。

最終章、始まりました。

前の章から1年と少し後、春の幸せな結婚狂想曲です。

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