五
「・・・もしもし」
楓の隣に座ると手を伸ばしてきたから、その手をぎゅっと握りしめた。
「・・・うん、・・・・・・ん」
暫しの沈黙。それを破ったのは、楓の涙だった。
ぼろぼろと零れる涙を、楓は拭うこともなく、ただ小さな声で肯いていた。
その様子から、この親子が和解したことが分かる。
・・・良かった。
「・・・ありが、とう。ごめんね・・・っ」
横から抱きしめて頭を撫でると、次第に楓の嗚咽が小さくなっていく。
「・・・うん。・・・みつこ、」
「ん?なに?」
「お父さんが話したいって」
楓は私にケータイを渡すと、顔洗ってくる、と部屋から出て行った。
「もしもし、三津子です」
『三津子ちゃん、今日は有難う』
「お礼なんて言わないでください。大した事なんてしていないんですから」
『いや、そんな事は無いんだ。三津子ちゃんが居なかったら、きっと私達親子はバラバラになっていただろう』
そこで、一息吐く空気の流れが伝わった。
『これからも、楓の事でたくさん迷惑を掛けると思う。勝手なお願いだと思うが、是非楓に手を貸して欲しいんだ』
「それは勿論、構いません。最初からその積りですし」
『ただな、三津子ちゃんのお金だけは、楓の為に使わないでくれ』
「えっ」
『三津子ちゃんのお金は三津子ちゃんのお金だ。いずれ使うべき時に使えるように。いいね?約束してくれ』
「・・・は、い」
『それじゃあ』
「はい、失礼します」
電話を切る。
話の内容を反芻してみる。
・・・使うべき時。
「お父さん、なんだってー?」
タオルで顔を拭きながら、楓が洗面所から出てきた。
「うーん?楓を宜しくってさー」
ふざけて言えば、楓は真面目な顔をして、私の前に正座した。
「三津子、・・・まだ私と一緒に暮らしてくれますか」
真剣な空気に、私も姿勢を正した。
「初めての妊娠だし、出産も不安だし、子育てだって、すっごい不安なの。
だから、我儘だってわかってるけど・・・楓に傍に居て欲しい。」
真剣な目でそう言われて。
そんなこと。私だって。
「楓が嫌がるまで、一緒に居てやるんだから。覚悟しなさいよ?」
二人で微笑んで。
使うべきは、やっぱり、楓の為です。




