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オカマバ-「アコーリス」の事件簿(1)おかえり、カイラ  作者: 蘭鍾馗


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08.ネロの正体

「今晩は。」


 発砲事件の数日後、またあいつが店に来た。ネロよ。



 ◇



「大変だったねえ。」


 あんたが言うか。でもとりあえず、こいつは実行犯じゃないからね。

「あんたも大変だったんでしょ、警察に引っ張られて。」

「……よく知ってるな。」

 ネロ、少し驚いたみたい。あんた達のやり口なんかもうバレバレなのよ。



 ◇



 でも、たとえ手口がバレバレであろうと、それが「脅し」としてちゃんと効いているのなら、こいつら的にはそれで充分だ。事実、ダンタリオンちゃんが撃たれたあの事件以来、花代を払う店は急増した。隣のテナントの占い師のおばちゃんも、花代払うことにしたらしいわ。悔しそうだったけど。


「黒松の会」の有翼人も、不老不死だけど不死身じゃない。それを証明してみせたのは大きかった。


 昔、一般人を積極的に狙う手口で勢力を広げた有名な暴力団があったけど、こいつらのやり方はそれに似ている。もしかしたら、同じようなことをやるつもりかも知れない。ましてや、ライバルだったヤクザは事務所襲って殲滅しちゃったんだからもう競争相手はいない。あとは、襲撃事件で町の住人を怖がらせ、言うことを聞かせれば、花代が安定して入る仕組みが出来上がる。


 残るは、自警団役の「黒松の会」を潰せばお終い。それも、会長(ペタルさん)と会の世話役(ダンタリオンちゃん)は潰したから、目標達成はもう目前。そう思ってるでしょうね。


 警察は何してるの?って感じはあるんだけど、あいつらはっきりした組織を持ってないみたいだから、暴対法の網がかけづらいらしいの。警察としても、今の所個々の事件の犯人を追う形でしか彼らを追い詰められない。高木さんの話だと、どうも暴力団みたいな大きな組織がある訳じゃないみたい。

 多分、本体は数人くらいのグループ。下手すると一人かもしれない。実行役は、それこそ闇バイトなんかを雇ってやらせる。ただ、最近の銃撃事件なんかは、どうもトップの人間が直接やってる感じがする。組織がないってことは、鉄砲玉もいないでしょうからね。


 まあ、闇バイトに殺人はさすがに無理でしょ。


 あと、なんとなくの勘だけど、半グレのトップは人を信じられないタイプじゃないかしら。だから花代集めくらいは闇バイトにやらせるけど、ターゲットの襲撃は自分で手を下す。だから、ネロもそいつの表向きの代役を務めてるだけ。きっとそう。



 ◇



「注文しないんだったら帰ってくれない?」


「また来るよ。花は明日持ってくる。今日は勘弁してやるよ。」

「そう。あんたのボスによろしくね。」


 ネロ、一瞬だけどぎょっとした顔してたわね。



 ◇



「マスター、バンブーを。」

「はいはい。すぐ作るわ。」



 

 ……………………………………………




「どうだった?」


 カイラちゃんが、病院から戻ってきた。

「ふう………重たいわこれ。」


 ダンタリオンちゃんが担ぎ込まれた病院から私ん家に戻ってきたカイラちゃん。家にはいるなりキャップを脱いで、この一言。


「中のインナーキャップがチタン製だからね。鉄よりはましだけど、そりゃあ重いでしょうよ。」

「こんなのどこで売ってるの?」

「近所の鉄工所が作ったのよ。チタンは加工しにくくて作るの大変だったらしいわ。」

「特注したの?」

「実はこれ新宿署の発注品。最近の発砲事件で見回りの警官が危険だからって作ってもらったそうよ。私らもターゲットだからって、使わせてくれたのよ。」


「でも首は無防備よね?」

「首の防護は難しいみたい。自衛隊だって首は無防備でしょ?でもダンタリオンちゃんは自分で調達した鎖帷子みたいなのを巻いてたらしいわね。」

「そう。それでなんとかなったみたい。」



 ◇



 ダンタリオンちゃん、表向きは面会謝絶にしてあるんだけど、近親者が行くと会わせてくれる。半グレ共が使ってる銃はどうも手製らしくて、威力はそんなに大したことないし、命中精度も悪いから、かなり近づいてからでないとまともに当たらない。だから、ダンタリオンちゃんを襲ったやつは、至近距離まで近づいてから彼女の首と頭を撃って、倒れる所だけ確認したらさっさと逃走したみたいね。


 まあ、すぐ近くに警官もいたことだし、そうするのが精いっぱいだったでしょうけど。


 カイラちゃんの報告によると、ダンタリオンちゃんの頭を狙った弾丸は当たったみたいだけど、角度が浅くてチタンのインナーに弾かれた。首のほうも鎖帷子で弾かれたみたい。でもその衝撃で彼女は気を失って倒れた。首に怪我はしたけど頸動脈からは外れてたから、大事にはならなかったんだって。


「良かったわー。」

「ほんとよー。」

「でも鎖帷子なんかどうやって手に入れたのかしら。」

「グラナダ軍の支給品だったりして。」

「だとしたらざっと700年前のやつ?ヴィンテージじゃないの。」

「さすがにそれはないか(笑)。」



 ◇



 カイラちゃん、報告が済むと黙り込んじゃった。まあ、ショックだったのよね。

 でも、ダンタリオンちゃんと違って、この子は泣かないの。泣いてる所はまだ見たことない。


 今日はもう、そっとしときましょ。



 でも、今にして思えば、カイラちゃんがあれをやる決心をしたのは、多分この時だったんだと思う。



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