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華出井 葵(12)と願いの井戸 68

 先よりも緊張した空気を纏い、意を決するのを隠して尋ねた。

「先生は、もしおれが、おれの意志で誰かを傷つけたら……おれをどうしたいって思うのかなって」

 どの予想とも外れた京護の言葉に、甚八は、続きを沈黙で促した。

 まだ答えるタイミングではないと分かっている相手に、京護は考えていた筈の言葉がうまく出て来ずに慌てる。

 甚八を見ていた足元の影は、そんな京護を見透かすようにして京護を観察する。隣の影は言わずもがな、絵本にだけ目を向けていた。

「あの場所に連れてこられてから……おれは、何もしなくても何かをしても、何かをされる時も、必ず全部誰かに見られていた。

 だから、見られることに慣れちゃったところもあるんだけど……大体は感情が見えない人たちで、決まった人たちは楽しそうだった。

 ……だから、先生はどうするのかなって。だって」

 余計な事は言ってやしないか。

 大事な事は言い忘れていないか。

 もう分からなくなりながら、とめどなく言い続けた京護は、俯きながら甚八の様子を伺う。

 甚八は、真っ直ぐに京護を見ていた。

 好意的か否か分からない。真剣に耳を傾けてくれているのは、伝わってくる。

「だって、先生は知りたいよね、俺がしようとしてる事」

 京護も、目を背けるのをやめて甚八を見る。

「あの日、お父さんみたいなのに食われた人に、会いに行くこと」

 京護は、甚八に言われた葵の最優先を事を思い出す。

 自分を連れ去った男の息子の最優先が、自分である事。

 親と子で、待遇は真逆だ。

 葵の傍は、居心地が良い。それは、自分を人として見てくれたのが5年間でアオイだけである事と、年が近い友人になれている事がある。

 目に見えて気にかけてくれるのは嬉しい。

 だのに、自分は葵の最優先になれない。

「葵君を見定めるつもりはないんだ。恩人だし。

 でも先生の言うように、おれが何か葵君に答えを出さなきゃって思う。

 そんな感じもしてるんだ。

 でも、お母さんを探す事が、おれの一番だから」

 足元の影を見下ろし、単眼と視線を合わせる。

 隣の影は絵本に夢中でも、足元からは細い枝が生えていき、京護の足に絡み着く。

 枝は増殖し、絡みながら縛りながら上がっていく。気にせずに京護は、甚八を見た。

「先生は多分、良い人だ。

 けど、ずっと良い人かは分からないから……」

 思い出したくなくても、脳は勝手に思い出す。

 5年間で覚えている人たち、忘れただけで、脳の引き出しに仕舞われただけの人たち。

 その人たちと、甚八の境界線が京護には分からない。

 見定めろと言うならそれは、葵より先に甚八ではないか。

「良い人の先生は、一般人を巻き込みたくないって言った。

 そうしたくなくてもおれが巻き込ませたら、先生はおれを怒る?」

 労わりや哀れみから好奇な目に変わったとしても、きっと自分は驚かない。

 恐れや侮蔑になろうとも、初めてではない。

 慣れてしまった。

 でも、甚八で同じ光景を見たいかは、別だ。

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