華出井 葵(12)と願いの井戸 65
何を詫びられたのか、京護は分からない。
返し方に困っていたが、甚八から話を戻してしまったので、返すタイミングが無くなった。
「病院でかくまっている、刀鍛冶の事なんだけどね」
「あ、うん」
「葵様が存在を教えたなら、僕が隠すこともない」
甚八の言葉に、京護は姿勢を甚八に向けた。
「葵君も先生もおれに言わなかったの、おれが何かすると思ったから? お父さんがそうしたみたいな事とか」
存在を言わなかったのは影もだが、京護は二人に対しての疑念を、潰していきたいと思っている。
信じたい相手を疑う自分が嫌である感情面と、影が言った決断に関係していた。
決める為の材料を、欠片一つでも拾おうとしているのだ。
京護の質問に、甚八は息をゆっくり吐いた。
「出来るだけ、事実だけを話すようにするね。
葵様の本音までは、僕には分からない。そこは連君が見定めると良い。
葵様の優先度は、僕が葵様と顔合わせした時から、君が一番だった」
「おれ? なんでおれ?」
「だからそこを見定めて欲しい。僕も知りたいぐらいだ」
目を丸くする京護に微苦笑をし、少し二人の間の空気が和らぐ。
「僕が連君に言わなかったのは、君から見た事情を聞いたのが、つい昨日というがある。
把握しきれない事に対し、僕から情報は出しにくい。僕は円花を継いだが、勝手に言える立場でもないんだ」
両手の人差し指でバッテンを作り、自身の口に当てた。
「そこで免罪符登場。葵様が言ったなら別」
甚八は口に当てた指を離し、両手を広げて京護に見せた。
「僕はその刀鍛冶の処遇に興味はない。保護として有効なのが病院だっただけで、実はよそへ移って欲しいのが本音だ」
甚八は、あえて分かりやすく、苦々しい顔をする。
保護の先が病院なので、京護は当たり前の質問を、まずしてみる。
「その人、怪我してるの?」
「してたが軽症だし、連君が気にする必要はない。
何故、病院なのか。
あの病院は、ある一点で要塞になっている」
「ある一点て……その」
京護は、横で絵本を読んでいる影を見た。
京護の足元で、寝ている甚八を観察して居た方の影は、甚八を見たままだ。
「そう。要塞というと大げさだけど、パニック・ルームて知ってる? 隔離部屋て意味なんだけど、ソレから守る為の部屋がある」




