華出井 葵(12)と願いの井戸 62
チリリと、何かが燃える熱を、甚八は感じた。
実際、京護の体の周囲から僅かながら黒い陽炎が踊る。
京護は何か口を開こうとしたが、それよりも先に自分の胸元に指先を立てた。
「あ、なん、? おれは、なにも願ってなんか」
「連君?」
かきむしるような動作の後、何かを押さえつけたくて、ぎゅっと皺が寄るほどにパーカーを掴んだ。
「おれ、なにも……、なんでこんな目に……っ」
京護のパーカーの正面ポケットに収まっていた立体パズルが、ポケット超しからでも分かるほどに光った。
京護の声に呼応したかに見えるタイミングに、何かまずい状況になったかと身構えた甚八は、自然と影を見る。
影は、息子である京護が苦しんでいるにも関わらず、先と変わらず絵本を見ていた。
枝の一本でページを捲り、先にだけ目を浮かばせて文字を追っている。
どういう事だと眉根を寄せると、この場で声を発したのも、影だった。
【よんだ ヨンダ】
言葉と同時に、京護の足元から大きな一つ目が浮かぶ。プレイマットの底が見えない漆黒に、現在の行動範囲だけの、大きさの目が一つだけ。
【よんだ ムスコ】
「な、に……これ、お父さんがやってるの。止めてよ、おれ」
【むすこ キオク よんだ】
「お父さん」
足元の目は動かず、しかし、絵本を読んでいる目は文字を追っている。
京護は胸元を抑えながら、姿勢として見やすい足元の影を非難する。
「俺はなにも呼んでない願わない。話を聞きたいんだ、嘘じゃないっ」
【おまえ ヨンダ だから ヨンダ】
足元の影が、視線を少し変えた。
同じ真上。でも、僅かに京護に寄る。
「え?」
そこにあるのは、立体パズルと自ら掴む胸元。
「……おれの中のが?」




