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華出井 葵(12)と願いの井戸 60


 小さな子供向けの色合いも気にせず、甚八は壁に持たれる形でブロックに座った。

 足元には積み木やジェンがなど、レトロな遊具が置かれていた。

 小児科の医師だからか、浮いてはいない。

 京護は、このまま寝ちゃえば良いのにと思いつつ、そんな甚八から、ブロック2つ分の距離を取って座る。

 京護の足元で口を開けて笑っている影を見て、気を使われた事を甚八は察した。

「今更だよ、連君。それに、手は出せないんだろう」

 そうかもしれない。

 でも、その口『だけ』しか出せなくてもトラブルは起きた。

「ううん、ここで良い」

 甚八は、京護が決めたなら良いとした。

 座る距離に、いつまでも話すことは無い。二人にとっての問題は、葵の言葉だ。


『おっさんが病院で探ってたヤツ。病院で守ってるから、あきらめなよ。どうせやる事、あの時と同じでしょ。

 代わりにもう一個、教えてあげる』


『おっさんが井戸で見逃した方。艻月が外側を見つけててさ、ずっと見張ってる。

 おっさんがアレに何かしたら、本家にバレる』


「連君は、本家にバレても良いから追う気なんだよね、その」

「うん……外側って、葵君が言った人だよね」

 京護は、足元の影を見下ろしたまま呟いた。

「だって、お母さんの事知ってるかもしれないから」

「お母さんの?」

 予想外の名前が出て、甚八は素直に驚いた。

 いつ、どこで、そんな推論に至ったのか。

 甚八の『聞きたい』が隠れていない態度に、京護は、斜め下から覗き込むようにして伺う。

「先生はそっち気になるんだ」

「そりゃ、だって」

「おれは、先生の病院に居た方も気になってるんだ」

 甚八の言葉を覆う形で、京護が前のめりになる。

 影は、京護の足元から笑ったまま。

「殺されないよう守ってるんだよね、それってお父さんから? 他の理由もあるの? 

 先生は知ってるんでしょ、病院の事は全部知ってるって言った」

 京護の指摘に、甚八は、壁に背中を預けて溜息を天に落とした。

「……僕、本当に口が滑ってるな」

「寝た方が良いよ先生」

 先の心配とは別の意味で、京護が進言する。

「かもね」

 最後に寝たのは何時間だかも忘れている甚八は、このままでは聞いた事が耳から抜けてしまうなと、体制を正して切り替えた。

「じゃあ、お互い知らない事の、すり合わせをしようか」

 無言で京護も頷いた。

 二人がこうしていられる空き時間も、そう長くはない。

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