華出井 葵(12)と願いの井戸 59
一般的にプレイルームと呼ばれる部屋に入ると、掃除と整頓が行き届いている屋敷とは違い、煩雑なものになっている。
甚八はまず、部屋の冷房を付けた。
「ビリヤード台が端に置かれてる。使っていないのかな? その横にジュークボックスあるけど、実物を見たのは初めてだよ」
「あれがそれ?」
京護が指さしたのは、外装が木目の、上部が半円の形をしている縦型の物。
「うん。レコードかCDが入っていて、お金を入れると曲が流れるっていうやつ。だと思う、見た事は無かったから」
説明しながら別の壁に視線を変えると、幼児向けで見かける、マットと箱型の囲い兼ソファがある。
「の、横にはテント。統一感ないなあ」
「葵君使ってるのかな、色々置いてる」
中を覗き込むと、枕とランタンが一つずつあった。枕の傍には絵本らしき本もあった。
他にも一角ごとに何かがあるが、二人が気になったのは、ビリヤード台と正反対の壁側。
ぽっかりと、空いている。
「ここの為に他がごちゃごちゃしてるかのように、無駄がない。なんだろう」
フローリングにはチリ一つ無く、これだけ広ければ何かが出来そうだ。
その何かが分からないまま、京護はふと、三脚を目にとめた。
「もしかして、踊る用かな」
「なるほど。葵様、舞踊なさるからね」
「なんでも気になったものは踊るって、前に言ってた。葵君、ちょっとだけ見せてもくれた」
その時の事を思い出し、京護の頬が自然とまろくなる。
ようやく肌に冷気が当たる様になったので、甚八は幼児向けエリアにある、マットと箱型のソファを指した。
「じゃあ、ここは避けて、あっちにしよう」
う名が荒れた京護は、ふと見上げた甚八の顔立ちに、思わず半歩引いた。
「…………寝たら、先生」
「いや、大丈夫。何が起きるか分からないし、確認したい事が出来ないままは、落ち着かない」
何が起きるかと言った時に、床を指さした。恐らく、霧子の事だろう。
それが、艻月家の者としての意味なのか、単純に怒られた尾を引いているだけかは、京護には分からなかった。




